8-6:商機あります
花小路の前には、順番待ちの船が2艘ほど。水上を所在なく浮かんでいた。予想通り、人気急上昇中みたいだね。
小路の入口、花屋さんに着けるようにお願いすると、船は軽くカーブしてそちらへ。
「くおるさんだ」
「うん。あ、テーブルも出てる。受付かな」
店先の桟橋が拡張されていて、受付テーブルとクオルさん。知らない女性がもう1人居るけど……多分アルバイトを雇ったんだね。
と、クオルさんが私たちに気付き、ブンブンと手を振ってくれる。私とももちゃんも振り返した。
「着けます」
そのまま桟橋へ接続。アルバイト女性がロープを使って係留杭に船体を括り付けてくれる。
「幸奈ちゃんに~~ももちゃんも~~いらっしゃ~~い」
「こんにちは。大盛況ですね」
「そうなの~~こんなになるなんて~~」
困ってる風だけど、ちょっと誇らしそうでもある。と。私の後ろに居るリンピアちゃんにも気付いたようで、
「そっちの子は~~?」
「ああ、えっと」
リンピアちゃんは花小路には何度か足を運んでいたらしいけど、クオルさんとは面識が無いんだね。きっと下の子たちの面倒を見るのとか、家事手伝いとかに疲れた時に、こっそり来てお花に癒やされてたんだろうな。
「りんぴあちゃん! おべんともってきたの」
ももちゃんが嬉しそうに、紙箱を掲げた。クオルさんは全く要領を得ないという感じだったけど。
「観覧じゃなくて~~お弁当の差し入れ~~?」
「差し入れともちょっと違って……売り込みです」
目を丸くするクオルさんに、私は事情をつぶさに話した。
聞き終えた彼女は、
「幸奈ちゃんたちには~~恩があるからね~~」
と快諾してくれる。ただ当然、まずは味を見てからということで。
「あ、ちょうど観覧が終わった船も戻ってきましたね」
アルバイト女性が指さす先。確かに観光客を10人くらい乗せた船がこちらへやって来るのが見えた。私たちが来たのと同じ方向から来るから、新規客かと思ったけど……観覧を終えた船はそのまま小路を向こう側へ抜けて、迂回して戻ってくるとのこと。まあバックしたら、次の組と衝突しかねないもんね。ここら辺のオペレーションも既に確立してるみたいだ。
「お疲れ様で~~す。ピザの配布をやってま~~す」
おお、早速クオルさんが売り込んでくれる。やっぱり本当に良い人だよね。突然これだけ多くの人に認められて、でも決して天狗にならない。
「ピザだって」
「ああ、ちょうど小腹が空いてたんだよ」
「へえ。美味しそうなニオイ」
「凄いね。あんな紙箱まで用意してるよ」
接岸すると同時、観光客が一斉に身を乗り出してくる。総勢12人かな。8等分のピザだから足りないね。
と思ったら、ももちゃんがフォークとナイフをソッコーで作っていた。これで更に細かく切れるね。
「ももちゃんもたべるから」
「ももちゃんはさっき沢山食べたでしょ!?」
わあ、ビックリした。食いしんぼさんが止まることを知らないね。
「じゃあ、かつれつたべる」
品目を変えれば良いという話じゃないんだけどなあ。
取り敢えず、私は8等分ピザを更に半分、16等分へと切り分けた。観光客の皆さんが順番に1切れずつ取っていく。
「わあ、まだ温かいよ」
「チーズが伸びる!」
「美味しい!」
「生ハムも塩気が絶妙だ」
観光客ということは、ある程度以上の経済力のある人たち。そんな彼らの舌を唸らせているということは、やっぱり味は本物なんだ。
「カツレツの方も~~サクサクで~~美味しいよ~~」
クオルさんも、目を細めて味わっている。良かった、こっちもイケそう。
「ももちゃんもかつれつ! たべてないの!」
クオルさんは細かく切った(スーパーの試食コーナーみたい)カツをフォークに刺して、ももちゃんの口元へ近づける。
――ぱくっ
一瞬で消えちゃった。
「~~♪♪」
美味しいみたいで、クネクネし始める。
私もカツレツの切れ端をいただいて、バゲットの欠片も試食。薄いカツのサクサク食感の中に、トマトソースのシットリが効いていて……うん、美味しい。
「こっちも良いね」
「ああ。美味い」
「サクサクよ、これ」
「本当だ。家の近くのレストランより美味しいかも」
観光客たちの掴みも上々。
そして、
「おみせでたべると、もっとおいしいよ!」
ももちゃんの無垢な一言がダメ押しになったみたいで。観光客の皆さんが喉を鳴らす音が聞こえた。
「あ、案内してくれ!」
「俺もだ。中途半端に食ったから余計に腹減ったよ」
「そうね。東側の高級レストランを考えてたけど」
「あ、でも。こんなに美味いんじゃ、その高級レストランより高いか?」
そこで満を持して、リンピアちゃんが言い放つ。
「ピザはグランデサイズでも1500Gです! カツレツはバゲットとサラダもついて1000Gですよ!」
そんな値段で食べれるなら、もちろん。
「「「「「「行きます!!」」」」」」
観光客のみなさんが大きな声で答えた。
興奮で顔が赤くなっているリンピアちゃん。優しい笑みを浮かべているクオルさん。まだ何か食べさせてもらえるかも知れないと期待しているももちゃん。
「ご、ご案内します。こちらです」
上擦った声で、リンピアちゃんは船に乗り込む。私もクオルさんへ丁重にお礼を言って、その後に続いた。ももちゃんも乗せて、船は発進する。
「……ど」
「ど?」
「どうしましょう? いきなり12人の団体のお客様なんて……」
「あー、うん」
さっきまで閑古鳥が鳴いてたんだから、落差は凄まじい。
「私も手伝うから。ピザは焼けないけど、配膳とか、サラダの盛り付けとか」
みんなで乗り切るしかない。なにせ、こんなビッグチャンス2度と無いかも知れないんだから。




