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3歳児ももちゃんのVRMMO大冒険  作者: 生姜寧也
第8話:崖っぷちのトラットリア

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8-3:マルゲリータももちゃん

 窯に火が入れられ、その手前のスペースで、ロッコさんが白いモチモチを器用に伸ばしている。両手で捏ねて、回して、薄く伸ばして。


「……」


 ももちゃんはカウンターの前の椅子(子供用のハイチェアだ)に座りながら、ジッとそれを見つめている。


「ねんどみたい」


 見ようによっては、そうかもね。もっとよく見たいのか、カウンターの上に足を乗せようとするので、注意をする……その前に。


「ダメですよ」


 ひょいと妹の体が抱き上げられる。リンピアちゃんだった。とても慣れた動作で、胸の辺りにももちゃんを抱える。


「あ、すいません。弟や妹をよくこうしてるものですから」


 つい出てしまったって感じかな。ももちゃんもビックリはしてるけど、怖がったりはしてない。優しい抱っこだったからね。

 そっと椅子の上に戻されたももちゃん。


「ももちゃん、テーブルの上って乗って良いんだっけ?」


「……」


 今のはアナタが悪いんだよ、と諭す。ももちゃんも分かってるのか、俯いてしまった。また二重アゴさんになってるので、指先で触る。


「ぷにぷに~」


 柔らかい。お説教にはならなさそうだと分かり、ももちゃんも声をあげて笑う。くすぐったいらしく、体をクネクネさせて逃げた。


「ふふ」


 リンピアちゃんが優しく笑う。やっぱりお姉さんの風格だね。


「さあ、窯に入れますよ」


 ロッコさんが鉄の大きなヘラみたいな道具にピザ生地を載せて、それを窯へと入れる。オレンジの火が見えた。


「ももちゃん、ピザが出来るよ?」


「どろーさん?」


 ドローンで配達してくれると思ってるみたいだけど、


「ううん。その前に焼かないと」


 配達の前に調理してる人が居るからね。

 流石に窯の中の焼け具合までは見えないけど……少しずつ香ばしい小麦の香りがしてきた。ももちゃんも目をキラキラさせる。

 そこから何分か待って。遂にロッコさんが動く。入れる時と同じ道具を使って取り出されるピザ。


「わあ」


 外縁に少しだけ黒い焼き目がついている丸い生地。チーズとトマトの香りが漂う。お皿に乗って、カウンター越しに提供された。


「マルゲリータです」


 定番のヤツだね。赤いトマトソースの上に、白いチーズが波紋のように広がっている。美味しそう。


「ぴざ! ねえね、ぴざ!」


 大喜びのももちゃん。椅子に座ったまま、足をバタバタさせている。


「どうぞ、召し上がってください」


「はい。それじゃあ……いただきますしよっか」


 ももちゃんは言われるまでもなく、小さな掌同士をパチンと合わせていた。


「「いただきます」」


 そうして、姉妹同時に手を伸ばす。8等分に切ってくれているので、1ピースずつ。ソースが流れないように中央側に折り畳むようにして持ち上げ、


「っ!」


 美味しい。口の中でパンの柔らかな生地と、チーズの甘味、トマトの酸味が混ざり合う。


「おいしー!」


 ももちゃんの舌にも合ったみたいだ。ちょっとチーズが普通のマルゲリータより甘い感じがするから、


「弟たちの舌に合わせてるんです」


 リンピアちゃんが教えてくれる。ああ、なるほど。おこちゃま舌調整なワケか。ただ、大人が楽しめないほど甘いとかでもなく、程良い調整に感じるね。


「美味しいです」


「ありがとうございます」


「良かったわねえ、アンタ」


 ご夫婦が顔を綻ばせる。

 ……しかし、こうなると。立地とか、店の外観とか、そういうところに原因があると見た方が良いのかな。

 と、そんなことを考えていると。


「うえええええん!!」


 建物の奥から、子供の泣き声が聞こえてきた。

 リンピアちゃんが弾かれたように立ち上がり、店の奥へと駆けていく。階段を下りてきた小さな子供と鉢合わせたみたいで、そのまま抱っこする。小さな男の子みたいだね。


「あかちゃん!」


 そうだね。2歳ならないくらいかも。


「一番下の息子です。寝かしつけてたのに、起きちゃったのね」


 ビシェルさんも慌てて厨房を出たところで。リンピアちゃんが手で制した。


「ここは良いから、お母さんとお父さんはお店のこと、話し合って」


 そう言って、弟を抱っこしたまま奥へと消える。


「おねえちゃん!」

「おねえちゃん!」


 他の子たちもリンピアちゃんを捜しに下りて来てたみたいで、そんな声が聞こえてきた。その後、全員で階段を上っていく足音。

 うわあ。ももちゃん1人でも手が掛かって仕方ないのに、幼児数人を面倒見てるんだ。凄いなあ。


「あの子にも苦労かけてるのよね」


「ああ。下の子たちの面倒を見てくれて助かっているけど……色々と我慢させてしまってるだろうな」


 ご夫婦は、眉根を寄せる。

 それは、そうかもね。私も、ももちゃんが生まれて我慢したことはあるにはある。まあそれ以上の幸せがあったから、なんということも無かったけど。


「……もちゃ、もちゃ」


 ももちゃんは我関せずだ。それで良いけどね。


「今日はもう閉めてしまおう。どうせお客さんも来ないし」


「そうねえ。子供たちも起きてしまったみたいだし」


 え!? これでディナーまで閉めちゃうの!?

 まあ今の状態でも、看板も何も出てないから開いてるのか閉まってるのか分かんないけど。

 と思ったら、ビシェルさんがキッチン脇に立て掛けてある看板を引っ張り出してきた。黒地に白い文字で『CLОSE』と書かれていた。あ、なるほど。この看板が出てない限りは営業中ってことなのか。それでも分かりにくいから、『ОPEN』の看板も用意すべきだけど……まあ今は置いておく。


「い、良いんですか?」


「はい。これからアナタたちと話し合いもしますし」


 まあそうなんだけど。


「おいしかった」


 ももちゃん、ずっと食べてたんだね。ていうか、ねえねは2切れくらいしか食べてないんだけど。小さめサイズだったとはいえ、食べ過ぎよ?


「……取り敢えず。こちら、おいくらですか?」


「え? 良いですよ。報酬金額も少なめですし」


「いえ、払わせてください。美味しかったですし」


「そう……ですか? ならマルゲリータのミニサイズで800Gになります」


 うん。値段設定が酷いってこともなさそうだし。少しずつ推測も絞られていくね。

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