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3歳児ももちゃんのVRMMO大冒険  作者: 生姜寧也
第8話:崖っぷちのトラットリア

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8-2:潰れてない?

「さあ、着いたよ」


 船頭さんが船を止める。この一帯は船から直接上がれる石畳の道があった。もちろん、そんなに広くはないけど、地面に足が着くというだけで久しぶりの安心感があるよね。


「じゃあ800Gね」


「あ、はい。これで」


 銀貨1枚を渡して、銅貨2枚を受け取る。姐さんっぽい船頭は、すぐに船を出して遠ざかっていく。


「さてと。トラットリアを探さないとね」


「おうちがならんでる」


 ももちゃんの言う通り、住宅街のようだね。ただ言ってはなんだけど、全体的に古くて小さい。朽ちかけてる家屋も見られた。

 正直、「寂れた通り」というのが第一印象かな。


「うーん……」


 お店も、あんまり無いのかな。このエリアでイタリアンかあ。確かに苦戦しそうだね。


「ねえね、あれ」


 グルリと周囲を見ていたももちゃんが、小さな指で1点を指す。

 角の欠けた赤レンガと濁った窓ガラス。傾いたカンテラの中でボンヤリしたオレンジの灯が揺れてる。一応、といの辺りに幕看板が掛けられていて、


「トラットリア・ヴィンボー、か」


 貧乏をモジった……ってことかな。いくらゲームと言っても、可哀想なネーミング。


「おみせ、しまってる?」


 どうだろう。

 玄関扉を見る。たとえばノブの所に『オープン』と『クローズ』が裏表になった看板なんかを掛けておいてくれたら分かりやすいのに。何も無い。汚れで濁った窓から明かりは漏れてるから、人は居るんだろうけど。


「……これは」


 船頭さんが潰れてると認識してしまうのも、まあ残念だけど当然かも。建物自体が朽ちてるとかはないので、店は辞めて普通に民家として使ってるんじゃないかと。クエストの存在が無ければ、私でもそう思っただろうね。


「こんこんするの?」


「ノックね」


 ちょっと気は進まないけど、やるしかない。最後に、本当に他にレストランらしき建物が周囲に無いかグルリ見渡す。うん、やっぱり該当しそうなのは、ここだけだね。


 ――コンコン


「……」


 もう1回ノックしようと、緩く拳を握り直したところで。ガチャリとドアが内側に開いた。顔を覗かせたのは、口ヒゲが立派なオジサン。真っ白なコックコートと帽子を被ってる。


「もしかして……冒険者さんですか!?」


 真っ先にお客さんの可能性が浮かばない辺り、色々と察してしまう。

 オジサンは私とももちゃんのバッジを見て、「ああやっぱり」という安堵の表情になった。


「良かった。受けてくれる人が居たんですね」


 あの報酬金額だし、中々手を挙げてくれる冒険者は居なかった……という設定なのかな。


「さあ、どうぞ中へ」


「お、お邪魔します」

「します」


 姉妹で中へ。まずはザッと店内をチェックさせてもらう。

 味のあるウッドテーブルのカウンターに、可愛らしいテーブルクロスの掛かったテーブル席。店の奥の壁には抽象画のような物も。


「へえ……!」


 意外と言ってはなんだけど、結構オシャレ。古いのは古いんだけど、それも込みで店のインテリアにしてる感じだ。もっと酷い店内を想像してしまってたけど、これなら全然。


「内装は妻が全て管理しています」


 と、彼が掌で差す先には、アクア族の女性が居た。旦那さんもそうだけど、痩せっぽっちな体型の中年女性。ペコリと頭を下げてくるので、私も会釈を返した。


「申し遅れました。僕は店長のロッコ・ヴィンボー。妻の名前はビシェル」


 自己紹介してくれてる間に、もう1人出てきた。中学生くらいの女の子。額に青い石がある。


「この子は長女のリンピアです」


 長女さんは少し警戒したような目をしながらも、ペコリと頭を下げ……ももちゃんに気付いたらしく、少し頬を緩めた。


「この子の下に5人ほど子供が居りまして……このヴィンボー家は8人家族です」


 貧乏家さん……店が傾きかけてるのに、どうして6人も子供を作っちゃうの? という率直な感想はグッと飲み込んだ。


「ど、どうもご丁寧に。私はブロンズ冒険者の幸奈。こっちは妹の百花です」


「ももちゃんです」


「「本日はよろしくお願いします」」


 ご夫婦揃って頭を下げる。それに倣ってリンピアちゃんもペコリとお辞儀。

 じゃあ早速だけど、流行らない原因を探っていこうかな。


「……」

 

 私は改めて店内を見回す。調度や内装は全然悪くないし、不衛生ということもない。接客もご夫婦の雰囲気からして居丈高にやったりとかは無さそうだし。

 理由として他に考えられるのは……単純に立地か、料理そのものがアウトか。


「キッチンの方、見てみても良いですか?」


「あ、はい。どうぞ」


 ご夫婦が案内してくれる。対面式カウンターなので、ウッドテーブルの奥がキッチンみたいだ。日本の平均的な飲食店よりは広いかな。2人で作業する時にすれ違うのも、そこまで苦労はしなさそう。

 かまどが2つに、まな板を置く台。シンクも一緒になってる。後ろの食器棚には、大小様々なお皿が収納されているみたいだ。


「おっきなかまくら!」


 ももちゃんが指さしたのはピザ用の石窯かな。しかしカマクラなんて知ってるんだね、ももちゃん。絵本か何かで見たのかも。


「良いでしょう? 去年、新調したんです!」


「ねえ。素敵よねえ……最新式らしいんですよ」


 ご夫婦が嬉しそうに言うけど、


「騙されそうになってたの、もう忘れたの? 最初、相場の2倍の値段をふっかけられてたんだよ?」


 長女のリンピアちゃんが呆れた口調で言う。あ、なるほど。なんか今のやり取りだけで、色々見えてしまったよね。もしかすると、この両親は経営が傾くまでずっと呑気だったのかも知れない。


「いやあ、本当にリンピアが調べてくれて良かったよ」


「ねえ。ウチの名参謀よ!」


 うーん、この。


「ねえね、さんぼーってなに? おっきなおさかな?」


「それはマンボウね。参謀っていうのは、作戦を考えて、こういう風に動こうって決める人だよ」


「ねえね?」


「あー、そうだね」


 ももちゃんが粘土係&可愛い係で、私はそのももちゃんに何を作るか指示する係。確かにそうかも。

 っとと、今は国語のお勉強してる場合じゃなかったね。


「……取り敢えず、ここまででは何か問題があるようには思えないので」


 私はカバンから皮袋を取り出す。硬貨がチャリチャリと音を立てた。


「何か料理を作ってみてもらえませんか?」


 次は、料理の味を確かめてみましょう。

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