8-1:順番に受けます
とある日の昼食。
ももちゃんが小さな手で、必死にフォークをクルクルしている。だけど中々パスタは巻き付いてくれず、パラパラと離れてしまう。つい手伝ってあげたくなるけど、グッと我慢。
「んん」
少し苛立ってる感じだけど、投げ出さずに頑張ってる。
そうこうしてるうち、クルンと大きめの束が巻き付いてくれた。やった。
「っ」
ももちゃんは大口を開けて、パクリといった。その途中で、パスタは2本くらい滑り落ちたけど、構わず口に入れる。力強く唇を閉じてパスタを抜き取り、フォークを口から出す。
――もちゃ、もちゃ
唇が突き出てしまって、タコさんみたいになってるし。そのまま嬉しそうに笑う顔が愛らしい。前髪が垂れてきてるので、そっと手を伸ばしてお耳に掛けてあげた。
「美味しい?」
「おいひー!」
良かった。以前アルデンテにしたら、ちょっと硬いと言われたことがあったから、今日は気持ち長めに茹でたんだけど。これくらいが、ももちゃんの口には合うんだね。
――カチ、カチ
またフォークとお皿が格闘する音が響く。そのうち少しずつコツを掴んでくると思うから……頑張れ、ももちゃん。
今日もブロクエの世界にログイン。アクアニルスのギルド前からだね。
前回の報酬を受け取ってないから、そこからだ。2階に上がって、ポールさんを訪ねる。
「任務完了か〜〜な?」
「はい。お願いします」
ハンコが押される「ポン」という小気味良い音。そして、ポールさんはカウンターの上に皮袋とフラワーコインを2枚置いた。やった、ボーナスがついてるね。
「凄く感謝〜〜してたからね〜〜クオル氏は〜〜」
あ、クオルさんとも話したんだね。
……この2人の間延びしたセリフ同士の会話か。見てみたかったような、見なくて良かったような。
報酬をありがたく受領し、フラワーコインはももちゃんのガマ口の中へ。皮袋の方を確認すると、中には11000G入ってた。
「ねんど、かえる?」
「まだ粘土は大丈夫だよ」
前回のクエストで写真をリメインした分は目減りしたけど、微々たる量だから。あんまり買い足すと、プテラノドン作られるかも知れないし。
「それより次のクエスト、見てみよ。ももちゃん」
話を逸らす。ももちゃんを抱え上げ、コルクボードの前へ。依頼書は2枚貼ってあった。
====================
No.8
<トラットリアの再建策>
依頼者:料理人ロッコ
内容:店の経営建て直し
報酬:3200G
フラワーコイン1枚
備考:南西の路地にあるトラットリアを訪ねよう。報酬額が他のクエストより低いが、敬遠せずに受けられたし。
====================
====================
No.9
<アクアホテルの開かずの間>
依頼者:支配人ローヴィル
内容:部屋から出てこられないお客様への対処
報酬:10000G
フラワーコイン1枚
備考:アクアホテルの支配人ローヴィルを訪ねよう。
====================
という内容だった。
あのローヴィルさんが手を焼いてるお客さんか。これは難物だろうね。トラットリアの方は味見とかもさせてもらえるかもだし、ホテルのクエストを終わらせてから、ご褒美的な立ち位置でやるのが良さそうだなあ。
「ねえね、とらとりやってなに?」
虎鳥屋になっちゃってるけど……
「イタリアンレストランかな。パスタとか、ピザとかを出す」
「……じゃあ、ももちゃんこっちからする」
やっぱりそうなるよねえ。
「こっちの難しそうなのからやらない?」
「じゅんばんにするの」
ケーキ屋さんの時は入れ替えたクセに。
まあ仕方ないか。前回も結局ごねたりせずに次のクエストもやってくれたしね。
「じゃあ、順番ね。その次は9だからね」
「うん!」
というワケで、No.8の依頼書を剥がし、カウンターへ持って行く。
ポールさんが受け取って、受領のハンコ。それじゃあ早速、行こう。
「ぱすた♪ ぴ~ざ♪」
ゴキゲンだなあ。まあ水は差さないでおこう。
階段を下りて、役所の建物を出た瞬間、
「さあ! 花小路行きの渡し船はこっちだよー!」
「こっちの方が速いよー!」
向かいのホテルの前に停まった2艘の船から、威勢の良い声が飛んできた。競い合うような張り上げ方だ。
「おお。人気になってる」
船はどちらも8~10人くらいは乗れそうな中型サイズだし、桟橋の上には観光客の待機列まで出来てる。
「あのふね、おはなのみちにいくの?」
「うん、そうみたい。やっぱりみんな気に入ったんだね」
「きれいだもんね!」
そうだね。まあ私たちだけじゃなく、観光のプロであるローヴィルさんのメガネにも適ったワケだし。こうなるのも必然だね。
「よかったね、くおるさん」
「そうだね」
花小路の手入れも、船の往来が増えれば楽になるだろうし。もちろん見物客を入れる以上、代わりに他の問題も出てくるんだろうけど。
ともあれ。私たちのお手伝いが、こういう風に目に見える形で成果をあげているのは嬉しいよね。
「さ。じゃあ今日も頑張りますか」
「ますか」
ももちゃんが語尾だけマネしてくる。ウリウリとほっぺを撫でてから、大運河を見やる。今日もキレイなエメラルドグリーンの流れ、そこに乗ってフリーの渡し船がいくつも行ったり来たりしてる。
私が手を挙げると、ももちゃんもまたマネして手を挙げる。姉妹2人だから目立ったのか、すぐに船が止まってくれた。
「どこまでだい?」
小麦色の肌が眩しい姉御って感じのアクア族さんが船頭だ。
「えっと……南西の路地にあるトラットリアって、分かりますか?」
と訊ねるけど。姐さんは黙考してしまう。そして10秒ほどして、
「あ。もしかしてあそこかな。多分、潰れてるんじゃねえかな、もう」
なんてことを言い出す。
「その周りに同じようなレストランってあります?」
「いや、無いと思う」
「じゃあ多分、そこです。潰れてないハズなんですけど……」
なにせクエスト出してきたくらいだし。姐さんは「ふうん」とだけ返して、
「まあアタシは送るところまでが仕事だから。店がどうなってても、責任は持てないよ」
「あ、はい。それで大丈夫です。お願いします」
そうして渡し船は発進する。初っ端から躓いちゃった感じだけど……大丈夫かな、このクエスト。




