1-4:冒険者登録
ももちゃんに断って帽子を触らせてもらう。うん、質感も手触りも完全に園児帽だね。メッシュになってて、意外と通気性が高いんだよね、これ。衝撃吸収にも優れていて……じゃなくて。
「凄いね、ファンタジー粘土パワー……」
まあVRだからね。けど感触まで忠実に再現されるって……何を作ってもそうなのかな。
「かぶるの!」
「ああ、ゴメンね。はい」
帽子を返すと、すっぽり頭に被ってしまう。そうすると、ほっぺのモチモチが余計に際立つんだよね。ちょっとだけ指で撫でて感触を楽しませてもらう。
「良いお助けアイテムもらったね」
「もらったね~」
帽子を両手で下に引っ張るみたいにして、深く被って。嬉しそうにオウム返しするももちゃん。
「王様に、ありがとうして?」
掌で指す。本当の王様だったら、私こそ不敬で拘束されちゃうかも。
ももちゃんはクルリと玉座の側を向いて、
「ありがとござますっ!」
キチンとお礼を言えたね。よしよし。
私の方も頭を下げて、謁見の間を辞すと、階段へと向かった。
行きも会った門兵さんにギルドの場所を教えてもらう。街の中央にある噴水広場から、西の方だということで。西ってどっち? と思ったけど、ストリートの上空に矢印が出てるよね。流石は子供向け。親切設計だ。
「あそこを入れば良いんだね」
ももちゃんとテクテク歩いていく。
石畳の道はキレイに整備されていて、建物は化粧レンガの外壁に三角屋根のオシャレで可愛らしい造りの物が多い。少し褪せた木枠の二重窓も味があって良い感じ。
「……」
ももちゃんも物珍しそうに、左右に首を振りながら歩ている。後でログアウトしたら、ヨーロッパの風景写真とか見せてあげても良いかも。こういうのをモデルにしてるんだよって。
観光客みたいにキョロキョロしながら歩いているうち、ギルドの建物に着いた。ここは打って変わってジョージアン様式のアシンメトリーな造りだった。
う。ちょっと威圧感あるな。
「ここが、ぎるど?」
「うん。みたいだね」
建物の上に豆電球のマークが浮かんでる。ここでイベントがあるよっていう示唆かな。
玄関ドアを開けて、中に入る。ドアの上部に取り付けられていたカウベルが「カランカラン」と涼やかな音を立てた。
「あら、いらっしゃい」
少しふくよかな中年女性がカウンターの向こうから声を掛けてきた。良かった、優しそうな人だ。冒険者ギルドって、どうしても厳ついオジサンたちが屯してるイメージあるからね。
「こ、こんにちは。えっと、私たちは」
「ああ、分かってるよ。冒険者登録だよね?」
話が早い。名前を聞かれたので答えると、受付の女性はカウンターに紙を2枚置いた。近づいて見てみると、冒険者の登録完了の証書だった。話がもっと早い。
まあ既に性格診断とかで名前やら年齢やら書いてるからね。ゲーム的には無駄を省いてくれたんだろう。
「それでこっちが、冒険者バッジね。無くさないように」
と言って、鉄色の小さなバッジもテーブルに置く。表面には剣と盾の絵が彫られていて、裏面にワニ口がついていた。挟んで留めるタイプみたいだ。ピンじゃないから、ももちゃんが間違って触っても大丈夫だね。まあVR空間だから、どうせ実際にケガはしないんだけど。
「ばっじ!? ももちゃんのは? ももちゃんのは?」
「はいはい。ちょっと待ってね」
2つとも取って掌に乗せる。そのまましゃがんで、ももちゃんにも見せてあげた。目をキラキラさせて見つめている。手に取って、裏側も触るけど……やっぱりクリップタイプは安心だね。ただまあ、外れやすいのも特徴だから、なるべく服とかには着けたくないけど。
「ももちゃん、お帽子に着けよっか」
「や」
うーん。やっぱり拒否されたか。お帽子じゃ見えないからねえ。
ももちゃんはグッと胸を反らす。ここに着けろ、という意思表示だ。
仕方ない。ファンタジークリップパワーで落ちないことを祈ろう。
「よし、じゃあジッとしててね」
お胸の辺りに留めてあげる。ももちゃんはすぐに下を向いて確認。アゴが二重になってるよ。
「ももちゃんのばっじ。ももちゃん、ぼうけんしゃ」
「そうだね。それを着けてたら、みんなも冒険者だと分かってくれるハズだよ」
議員とか弁護士とか、着けてるだけで職業が分かるバッジは現実世界にもあるからね。
「……」
聞いちゃない。すっかりバッジに夢中みたいで、彫られている剣と盾をなぞっている。指の腹に当たる溝の感触が気持ち良いのか、ちょっと頬が緩んだ。良かったね。
「さて、これでアナタたちは冒険者になったワケだけど」
受付のおばさんが続きを話し始める。そうだった。冒険者になるのはスタート地点だもんね。ここからが本番。
「冒険者になると、クエストというものが受けられるようになるよ。要するに仕事だね。個人の困り事から、公的な依頼まで。内容は様々」
「おしごと」
おばさんは軽く頷いて、
「その報酬は普通のお金と、フラワーコインで貰えるよ。普通のお金は、ご飯を食べたり買い物をしたりするのに使う。フラワーコインは百花樹の開花に使えるよ」
更に詳しく説明してくれる。
そうか、普通のお金で生活のやりくりもしないとダメなのか。とはいえ、ヌルゲーだとは思うけどね。なんせ所詮は、仮想空間での食事や買い物だからね。別にしなくても死活問題にはならないし。
まあ贅沢品とでも考えておけば良いかな。
「フラワーコインは20枚貯める毎に使えるよ。まあ100枚集まってから一気に使っても良いけど。そこは自由だね」
なるほど。もしかすると20咲かせる度にイベントが起こるのかも。それをチマチマ見るか、一気に見るかってところかな。
「それじゃあ続いて、クエストの具体的な受け方だけど……そっちの壁を見てごらん」
おばさんが指さしたのは受付カウンターの横の壁。コルクボードがぶら下がっていて、そこに紙が貼りだされている。
「そこに貼られているのが、今アナタたちが受けられるクエストだね」
って言われても。1枚しかないワケですが。
まあ良いや。取り敢えず見てみよう。私はももちゃんを抱っこして、その紙が見える所まで近づいた。




