6-4:管理人室の状況
私たちは、取り敢えずアパートの中へと入らせてもらう。
内装は青と白のツートンで整えられており、古いながらオシャレだった。青い壁に白塗りの木枠窓、その半円のガラスから外を覗けば、エメラルドグリーンの路地が見える。
……ここ、私も1ヶ月くらい住みたいんだけど。エモすぎるよ。
「僕の管理人室は1階か。というか共用スペースとかなり被るね」
調理場や洗面所関連は、ここ1階になるみたい。ていうか、真水ってどうやって手に入れるんだろう。あんまりファンタジー世界でそういうの考えすぎるのも野暮かも知れないけど。
「2階、3階には既に住人が居るわよ。後で挨拶していらっしゃい」
「うん、分かった」
「今までは私が巡回で様子を見る形だったけど……専属の管理人が来るって知ったら、みんなきっと喜ぶわ」
そうだよね。マンションとかでも管理人さんは絶対居るし。何か住居トラブルがあった時に、すぐに相談できるのは安心だ。逆に今までは、何かあってもヒューリンさんが巡回に来てくれるまで放置するか、自分で訪ねて行く必要があったってことで。そりゃあ、きっとカイルくんは歓迎されるだろうね。
「ここに、かいるくんすむの?」
「そうだよ。住みながらお仕事もするの」
「べしちゃんもいっしょ?」
「うん」
頷くと、ももちゃんはクシャッと笑った。2人が一緒に居られると分かって、ももちゃんも嬉しいんだね。
その優しさが伝わったのか、ベシーちゃんがそっと近づいて来て、ももちゃんの足元にじゃれついた。
「~~♪♪」
大喜びで抱っこする。だけどももちゃんの体も小さいから、大人が猫を抱えるのと縮尺が全然違って可愛い。
「あらあら」
ヒューリンさんも微笑ましそうに2人を見ている。
そんな癒やしシーンも挟みつつ、私たちは管理人室へと移動する。木の扉を開けると、少しカビ臭い空気に出迎えられた。
「へんなにおいする」
そんなストレートに……
「1年くらい使ってないのよね。前の管理人さんが辞めて以来」
定期的に掃除もしているそうだけど……他にも巡回してる物件はあるんだろうし、ここだけというワケにもいかない。
「ここのお掃除かあ」
部屋の中を恐る恐る覗く。採光のための窓は2ヶ所あるので、暗いってことはないみたいだね。ただその代わり、青い壁に波紋のような水垢が付着しているのや、床面の石材が黒く変色していたり……ちょっと目を覆いたくなる惨状もハッキリ見えてしまうという。
「うわあ」
「うわあ」
ももちゃんが私のマネっこをする。
「これは思った以上に骨が折れそうだね」
「それで申し訳ないのだけど……私はこの後用事があって、手伝えそうにないの。ゴメンなさいね」
ヒューリンさんが申し訳なさそうに言う。
「いえいえ。そのために雇われてるワケですから」
さっきも思ったけど、ここまで何もしてないしね。なんなら馬車に乗せてもらって観光に来たお客さん状態だし。
「あ、そうだ。珍しいコインが偶然手に入ったから、良かったら」
ヒューリンさんが、ハンドバッグからコインを1枚取り出す。鈍いピンクのオシャレなコイン。
「ふらわーこいん!」
「良いんですか?」
「ええ。むしろ、コレでお駄賃になるのかしら?」
「それはもう」
コレを集めてるんだからね。
ももちゃんが小さなお手々を伸ばすので、ヒューリンさんが腰をかがめて渡してあげる。
「ありがとうございます」
「ありがとござます!」
「はい。こちらこそ、お仕事受けてくれてありがとうね」
優しく頭を撫でられて、ももちゃんはクネクネ。そしてすぐにカバンからガマグチさんを出した。口を開いて、フラワーコインを中へ入れる。
「あ、ふえてる!」
「え? ああ、そうか。ルーレットで勝ったから」
自動でガマグチの中に入れておいてくれる仕様なんだね。銀行から引き出し手続きをしなくても、普通に3000Gの参加費も取られたっぽいし、色々ユーザーの面倒を省いてくれてるね。
でも多分、街の買い物とかは現金持ってないとダメなんだろうな。
――ちゃり
コイン同士がぶつかる小さな音。ももちゃんは嬉しくなったみたいで、ガマグチさんの口を閉めて、軽く振る。
――ちゃり、ちゃり
楽しいね、ももちゃん。
ただいつまでも遊んでるワケにもいかないので……私は検索タブを開く。
「うーん、そうだなあ」
部屋の状況を見て、掃除道具を考える。
「ヒューリンさん、お酢とかはありますか?」
「調味料の?」
「はい」
「あるハズよ。台所から持ってくるわ」
良かった。流石に洗剤とかは無いと思うから、代用品でどうにかしないとだもんね。
「じゃあ、ももちゃん。掃除用ブラシを3つ作ってください」
言いながら、検索窓をももちゃんにも見せる。ハンディタイプの、毛はごっついヤツ。これなら頑固汚れも大丈夫だね。
「うん」
ももちゃんは早速、その場にペタンと座り込む。そして床の上で粘土をコネコネ。柄を作ってブラシ部も作って……連結。
「できた!」
まずは1つ目。みるみるうちに、柄の部分はプラスティックに変わり、ブラシ部分も剛毛へ変わっていく。
「あとは水が欲しいけど……」
水の入ったビンとか作ったら、それになってくれたりするのかな。なんて考えていると、
「真水? それなら、水の魔石を使えば良いよ」
カイルくんがそんなことを言い出す。あ、そういうファンタジーアイテムがあるんだね。この街の人はみんな海水で我慢してるのかなと思ってたんだけど。
と、そこで。ヒューリンさんが台所からお酢と青い石を1つ持って来てくれた。あの石がきっと水の魔石とやらかな。
「それじゃあ、申し訳ないけど、私はもう行くわね」
「あ、はい。いってらっしゃい」
「お掃除、お願いね」
最後にももちゃんの頭をそっと撫でてから、ヒューリンさんは慌ただしく出て行った。私たちの方も、お掃除開始だね。




