6ー2:水の街アクアニルス
馬車は順調に南下を続けている。私は御者席のカイルくんに、どれくらいで着くのか訊ねた。
「半日くらいだね」
中々ヘビーな答えが返ってきたけど……そこで視界の上部にメッセージが浮かんだ。
『アクアニルスまでスキップしますか?』
正直、ちょっと情緒が無い気がしてしまうけど。とはいえ実際、半日も費やされては困るのも事実。現実世界でのお昼ご飯までには終わらせたいし。というワケで『はい』を選択。
すると一瞬の暗転。ももちゃんがキュッとしがみついてくるのが分かった。
そして暗転が晴れると……絶景が目に飛び込んできた。
「うわあ……」
「すごい! どうろがおみず!」
ももちゃんの言う通り、街中央を流れるエメラルドグリーンの大河、そこからの水流が小さく枝分かれしたものが、道となって街中を巡っているみたい。その水路の上を小船が絶えず行き交っているのも見える。
欧風建築の家屋は水路を挟むように建っていて、白基調の外壁と赤い屋根が、水の青とコントラストを成していた。
溜息が出るほどに美しい街。ももちゃんも目を輝かせながら見つめている。
「ここがアクアニルス。ご覧の通り、水の街だ」
「あの大きな河って」
「うん。王都の東を流れてた、あの河だよ。この港町まで繋がる運河になってるんだ」
なるほど。王都からの荷物を船で運び、外国や国内の別の都市に輸出してる感じかな。
「……ここら辺の地形は全体的に潟になってるから、丸太を打ち込んで基礎を作って、その上に海水にも強い石を積んで建物にしてるんだ」
へえ。
そうか、海水も混じってくるもんね。海まで繋がってるワケだから。
「色々と考えて都市は作られるんだね」
「だねー」
ももちゃん、絶対分かってないでしょ?
「それじゃあ、馬車を返しに行こうか」
「このまま行けるの?」
「うん。街の西口の手前くらいに、関があるから。そこに馬車の停留所もあるよ」
ということで、カイルくんは馬車を走らせる。その間、ももちゃんは空中を見ていた。地図を確認してるんだね。
すぐに街の西側へ到着。比較的、隆起した岸みたいだね。ここまでは水は来てない。
「王都みたいな門は無いんだね」
「あんなのを建てようとしたら、この土地では大変だからね」
関の造りは検問に近かった。プレハブ程度の小さな建物が左右に建ち、その小窓から門兵さんが2人顔を出してる。
「こんにちは」
「観光ですか? 商売ですか?」
彼らが声を掛けてくる。カイルくんは首を横に振った。
「移住です。こちらが許可証ですね」
馬車から下りると、王都でも見せた紙ペラを取り出す。門兵さんたちは検めると、1つ頷いた。
「うん。大丈夫だね」
「水の街アクアニルスへようこそ」
問題なく通れるみたいだね。
その後、カイルくんは関の外れの方に建つ小屋へと馬車を返し、荷物を載せたリアカーを引いてきた。
「さあ、行こうか」
「う、うん!」
「みずのまち!」
というワケで、私たちは関を越えた。少し進むと、大きな橋に着く。白色の橋だけど、所々に貝殻が入ってる石で出来てるみたい。これが海水に強い石材ってヤツかな。
――ガラガラ、ガラガラ
カイルくんがリアカーを引いていく。私も後ろから押してお手伝い。ももちゃんは「がんばれ! がんばれ!」と応援してくれた。
橋はやや丸みを帯びていて、登りはしんどかったけど、下りは逆に少しスピードがついたくらい。
「よし。これで東側に来れたね」
なるほど。運河を挟んで東西という区分けなのかな。
「東の更に端の方に目的地があるんだ」
そういえば、聞きそびれてたけど。
「カイルくんの住む所って?」
「うん。その目的地だね。そして職場でもある」
ということは、また泊まり込み的な勤務形態かな。それだと、王都の兵士さんと変わらない気がするけど……
私の顔色を読み取ったみたいで、
「ふふ。宿直じゃないんだ」
と、彼は否定する。
「ええ? じゃあ何?」
「まあ、着いてからのお楽しみってヤツで」
そう言われると、気になるなあ。
と。橋の先は小さな広場(浮島?)に繋がった。そこからの景色が……
「うわあ……」
「えみたい」
本当に絵画の世界だよ。上から見た時も壮観だったけど。
大運河を挟む左右の建物は3階建てくらいの大きさ。赤レンガの屋根に黄色い壁。そこに白く塗られた木枠の二重窓がいくつも取り付けられている。
「グランド・アクアホテルだね。この街一番の宿泊施設さ」
あ、なるほど。ホテルか。だからあれだけ窓がついてるんだね。
「その向かいは……」
打って変わって、白塗りの建物。屋根から尖塔が2本建っている以外は、意匠らしい意匠もない、質実な造り。
「アレは役所だよ。後で、転入の手続きをしないと」
荷物を新居に置いてから、だね。
「他にも建物がいっぱい連なってるね」
この運河沿いが、メインストリートということかな。本当にももちゃんじゃないけど、道路がお水だ。
「っと。来たよ。渡し船だ」
小型船が近づいてきた。あれ? エンジンで動いてる?
「あ、あれって……ファンタジーダイナモパワーとか?」
「なにそれ。あの船は船頭がアクア族なんだよ。水を操れるんだ」
カイルくんには『ファンタジー◯◯パワー』とかいう概念が通じない。って、今はそこじゃないね。
「アクア族?」
「うん。ほら、よく見てごらん」
言われて、船の舳先に座ってる人をよく見ると。なんか青いオーラみたいなのを纏ってる。魔法? 的な感じかな。今までの『ファンタジー〇〇パワー』とは、なんだったのか。
「あの光ってる間は水を操る魔法? みたいなのを使ってるってこと?」
「うん。そうだね。おかげでアクアニルスの観光は楽々だ。お金は掛かるけど」
言いながら、カイルくんはリアカーから荷物を下ろす。
そして近づいてきた船、その船頭さんに声を掛けた。
「3人と、荷物なんだけど……」
「荷物の重さはどれくらい?」
交渉が始まる。基本料金に加え、人数や荷物、運ぶ距離で値段が上がるみたい。ほぼタクシーだね、これは。
「オッケー、それじゃあ乗って」
「うん。幸奈ちゃん、先に」
「わ、分かった」
とは答えたものの。私は必死に足を伸ばして、船底に着ける。そして、勢いよく体をそちらへ。怖いけど、揺れがほとんど無かったおかげで、なんとか乗り移れた。
「ももちゃん」
振り返ると、カイルくんがももちゃんの脇の下に手を入れて、軽々と持ち上げていた。そのまま、危なげなく船底へと下ろす。うん、流石は元兵士さん。
「ありがと!」
「どういたしまして」
カイルくんに頭を撫でられ、ゴキゲンなももちゃん。そしてすぐに、船を見回す。
「これが……ふね?」
そっか。ももちゃん、船に乗るの初めてだっけ。
物珍しそうにキョロキョロし、少し不安になったのか、私に抱き着いてきた。




