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3歳児ももちゃんのVRMMO大冒険  作者: 生姜寧也
第6話:いざ、水の街へ

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36/60

6-1:新たな門出です

 月が替わった。いよいよ、今年も残すところあと僅かだね。

 ビリッと小気味良い音を立てて、カレンダーを破る私を、ももちゃんが半開きのお口で見上げている。


「じゅう……に?」


「うん」


 しゃがんで頭を撫でた。数字はもう完璧かも。元々、理数系が好きっぽいし、理解も速かったからね。


「30日くらいになったら、お家のお掃除をするんだよ」


「おそーじ? なんで?」


「1年で溜まった汚れを、キレイにしてから新しい年を迎えるの」


「ろぼっとさんが、まいにちしてるよ?」


 確かに我が家には掃除ロボットが2台居るけど。


「ロボットさんじゃ届かない所とか、私たちでするの」


 ももちゃんは「ふーん」と生返事。去年もしたんだけど……まあ覚えてないか。2歳だったし。


「ぶろくえ!」


 ん? いきなり話が飛んじゃった。


「ブロッサム・クエストやりたいの?」


「うん!」


 今日は日曜日だし、時間はたっぷりあるけど。午前からやりたがるなんて、随分ハマってくれてるみたいだね。前回までのリザルトも出て、体重測定の結果も芳しかったし。この調子で運動習慣をつけて、「楽しみながらダイエット」という流れを確立したいところだ。


「それじゃあ、やろうか」


 ももちゃんと手を繋いで2階に上がり、私たちは王都ブロッサムシティーへと旅立った。






 ギルドに入ってパールさんと挨拶した後、掲示板を見る。このルーティンにもだいぶ慣れてきたね。




 ====================


 No.6(☆)


 <移住のお手伝い>


 依頼者:(元)城の兵士カイル


 内容:移住に伴う引っ越しの手伝い


 報酬:9000G

    フラワーコイン1枚


 備考:街の南、カイルの自宅まで話を聞きに行こう


 ====================




 まさかのカイルくん2度目の依頼……に加えて。内容もまさかまさかだよね。移住……引っ越しって。

 更に。よく見れば『No.6』の横に☆マークもついてるんだけど……


「それは街移動を伴うクエストの印だね」


「パールさん」


「つまり冒険者ランクがブロンズにならないと受けられないクエストなんだよ」


 なるほど。じゃあ今後も、どこか別の街へ行く、この☆つきクエストが発生するってことか。

 終盤まで進めたら、色んな街を巡るいわゆる『お遣いクエスト』みたいなのも出てくるかもね。


「取り敢えず、これ受けます」


「はい。それじゃあ……ポンと」


 ハンコを押したパールさん。


「いってらっしゃい」


 見送られ、私たちは王都の南区を目指した。


 ………………

 …………

 ……


 カイルくんは、以前と同じく自宅前に立っていた。ただその隣には馬車がある。馬2頭の中型くらいのサイズだ。


「あ! 幸奈ちゃん、ももちゃん」


 カイルくんが私たちを見つけ、柔和な笑みを向けてくる。


「カイルくん!」

「べしちゃん!」


 彼が胸に抱える黒猫も、「にゃー」と落ち着いた声で鳴いた。


「良かった。キミたちが受けてくれたんだね」


「う、うん」


 まあ私たちはオフラインモードでやってるから、他のプレイヤーに先を越されるとかありえないんだけどね。

 ていうか、それより。


「驚いたよ、カイルくん」


「へいしさん、やめちゃったの?」


「うん。色々考えてね。やっぱりベシーも高齢だし、残された時間をなるべく一緒に居てあげたい……ううん、僕が居たいから」


 そういうことか。あの失踪未遂事件で、カイルくんも決心したのかな。


「それに、キミたちが叔母の手紙を届けてくれたと思うけど……」


「あ、うん」

 

 配達クエストの時の話だ。


「僕を気にかけてくれていて。彼女は王都の南、アクアニルスに住んでるんだけど、そこに来ないかって。仕事も世話してくれるみたいで」


 あの手紙は、そういう内容だったんだね。確かにあの時、カイルくんが凄く真剣な顔をしてたような覚えがある。


「正直、この家には両親との思い出もあるから、離れるのは寂しいけど……どうせ借家だから、いつまでも居られるワケじゃない」


 そう言いながら、カイルくんは首だけ振り返って、長く暮らした家を見上げる。


「……」


 我が家も1回、引っ越してるんだよね。ももちゃんが産まれる前の話だけど。

 私も引っ越す前の家、まだどんな間取りで、どんな内装だったかとか思い出せる。それくらい、家って人の中心にあるんだよね。


「……ゴメンね。さあ行こうか。荷物は全て馬車に積んであるから」


「う、うん」


 振り切るように、カイルくんが馬車の御者席に乗り込む。運転も出来るんだ。兵士の訓練で扱うのかもね。


「ももちゃん、乗ろう」


「ばしゃ! ばしゃばしゃ!」


 バシャバシャではないけどね。

 私はももちゃんを抱っこして、先に荷台に乗せてあげる。その後に、自分も乗り込んだ。


「良いよ、カイルくん」


「うん。それじゃあ出発。南から出るよ」


 カイルくんが進路を取る。そして馬車は走り出した。幌はついてないので、頬が緩やかに風を切る感触が心地良い。

 ももちゃんもテンション上がりまくりで、甲高い声をあげている。木枠の縁に手をついて、街の景色を眺め始めた。電車とかでもよくやるよね、それ。


「モグ!?」

「モグー!」


 古井戸の脇を抜ける時、モグラさんたちが地面から顔を出すのが見えた。姉妹で手を振って挨拶。

 それもすぐに通り過ぎてしまった。馬たちの調子が出てきたのか、荷物が軽い(木箱3つ分しかない)おかげか。速度が徐々に上がってるんだ。


「南門が見えてきたよ」


 カイルくんの言葉に、私たちは前を向く。

 西から出る時にも見た、木造りの大門が鎮座していた。

 その門の数十メートル手前辺りから、カイルくんが手綱を引いて馬を減速させつつ。到着と同時に馬たちも足を止めた。


「こんにちは」

「通行かい?」


 門番さんたちが近づいてくる。


「いえ、転出です。転出届けも、ここに」


 カイルくんが懐から紙を取り出す。それを御者席から門番さんに渡し、検めてもらった。


「うん。確かに」


「しかし、城詰の兵士か。俺たちとは部署が違うが……」


 そっか。門番さんも軍属(?)になるのか。となると、面識は無くとも元同僚さん同士。


「兵士も人手不足なんだがなあ……」

「考え直す気はない?」


 慰留されちゃってる。けどカイルくんは首を横に振った。


「家族との時間のためなんです」


「それじゃあ……仕方ないなあ」

「新たな門出に祝福のあらんことを」


 最後は快く送り出してくれた。

 私たちを乗せた馬車は、そのまま王都を南へと抜けるのだった。

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