5ー6:お姫様とももちゃん
全て聞き終えると、カルア姫は青ざめていた。まさか自分の些細なつまみ食いから、ギルドへのクエスト依頼にまで発展しているとは、夢にも思わなかったんだろう。
私も覚えがあるなあ。自分のイタズラが、思いがけず大人たちを動かしてしまった時の「どうしよう……」感。
「あわわ」
口にまで出しちゃったよ。
ここで洗いざらい吐いてくれれば、私としても口添えが出来るんだけどな。正直に話したし、反省していると思いますって。
だけど。カルア姫は、
「し、しりませんわ。ワタクシはこのへやにずっといましたもの」
良くない道の方を選んでしまった。
「そうですか……ちなみに王家の秘宝というものにも心当たりは無いですか?」
「あ、あ、ありませんわ! きいたこともございません!」
聞いたこともないハズはないでしょ。
「さ、さ。ワタクシはいそがしいのです。ビームをだすれんしゅうをしませんと」
急に追い出しにかかるカルア姫。流石に私たちの権限で家宅捜索は出来ないしなあ。
仕方ないので、ももちゃんと一緒に部屋を後にした。
「ねえね。ももちゃん、かるちゃんが……」
「うん。分かってる。多分、つまみ食いしたのはカルアちゃんだよ」
あのシチューは動かぬ証拠ってヤツだ。その後の慌てようを見ても、間違いないでしょう。
「一旦、アロッカさんに相談しに戻ろうか」
「うん」
手を繋いで、階段を下りていく。2階、1階、中二階。復路もしんどい。この城で働いてる人は運動不足とは無縁だね、これは。
「ただいま戻りました」
「ました!」
「ああ、おかえり。どうだった?」
包丁でニンジンの皮を剥いていた手を止め、アロッカさんが顔を上げる。
「ちょっと、こちらへ」
やっぱり王家の醜聞的な感じだし、知る人は少ない方が良いかなと。なので、代表の彼だけ呼び出した。
そして、状況を端的に伝える。
「な、なるほど。姫様が……十中八九ということか」
「はい。どうしましょうか?」
「そうだねえ……恐らくその様子だと姫殿下は慌てて証拠隠滅を図るだろうから……」
「ですね」
つまみ食いの現場は見られていないし、インビジブルマントさえ元の宝物庫に返しておけば、完全犯罪と考えるだろうね。
「これに懲りて2度とやらないなら、もう良いんだけどね」
それなら穏便だよね。だけど、私たちが帰ったらシメシメと再犯に手を染める可能性も。
と、そこで。調理場のドアの所に誰かが立った。私たちは慌てて視線をやる。そこに居たのは、
「メ、メイド長」
「ど、どうしてここに?」
メイド長は険しい表情を浮かべながら、こちらへやって来る。
「やはり……姫様でしたか」
「えっと」
この口振り。メイド長さんは、カルア姫が怪しいと睨んでたみたいだね。というか、そっか。真っ先に王様に話を通しに行ったのも……今から思えば、カルア姫を取り調べさせるためだったんだ。
「利用するような形になってしまって、申し訳ありません。ですが、私が訪ねても居留守を使われそうでしたので」
どうも、この人は姫様に厳しく接してる雰囲気だね。教育係? お目付け役? とにかく彼女に警戒される立場みたいだ。
そこに私たち冒険者が来たものだから、渡りに船と。
「気にしないで下さい。それが仕事ですし」
逆に言うと、メイド長さんとカルア姫の間だけで解決するなら、このクエスト自体なくなっちゃう。
「それで……えっと?」
「処遇を決めかねているのでしょう? ならば忠言をさせていただきましょう」
なるほど、それが本題。
「姫様は1度バレそうになったくらいで諦めるような人ではありません。言い逃れの出来ない状況を作り出した上で、キッチリ捕まえて、陛下の前に突き出しませんと」
まるきり常習犯の罪人扱いだよ。もしかしなくても、日頃から色々やらかしてるんだろうなあ。
「そうなりますか……俺としては事を荒立てたくはなかったんですが」
まあ相手は雇い主の娘さんだもんね。アロッカさんの気持ちは分かる。
けど、メイド長さんは止まらない。
「構いません。責任なら私が取ります。立場を笠に好き放題できるなどという成功体験、積ませるワケにはいきませんから」
カ、カッコいい。保護者の鑑だよ。
チラリと足元のももちゃんを見る。私の視線に気付くと、少し不安げに見上げてきた。
「かるちゃん、いじめられないよね?」
メイド長さんの厳しい顔つきに、(話はよく分からないものの)カルア姫の身を案じているんだろう。
「大丈夫だよ。でも悪いことをしたから、少しだけ怒られちゃうかも」
「……」
と、そこで。メイド長さんは、急にこちらを向いた。慌てて私の後ろに隠れるももちゃん。
「捕まえるにあたって……ももちゃん、アナタの持つ魔法の粘土で作って欲しい物があるのですが」
「え?」
「姫様は道中もマントを羽織って、姿を隠しながら来るでしょう。マトモにやっても見つけられません」
ああ、そうか。宝物庫の扉前を全員で固めるという方法もあるにはあるけど、あのちっこい体ではすり抜けられる可能性もある。あるいは持久戦に持ち込まれても困るし。
つまり。
「罠を仕掛けます。姫様が絶対に引っ掛かるような、とっておきの物を」
おお、そんな秘策があるんだ。きっと彼女が生まれてからずっとの付き合いだろうし、本当に性格を熟知してるみたいだね。
「あと、皆さんにも手伝っていただきたいのです」
と。メイド長は料理人さんたちにも声を掛ける。いつの間にか、ガッツリ話を聞いていた彼ら(私の配慮は意味なかったよね)はキョトンとする。よもや、この流れで自分たちに役割があるとは思いもしなかったんだろう。もちろん私にもメイド長さんの意図は分からない。
そんな私たちに向かって、彼女は作戦の全貌を伝えるのだった。




