5-5:王妃とももちゃん
シンシアー様は本当に気さくで、それでいて気品もある素敵な女性だった。ももちゃんが身振り手振りも交えて語る武勇伝を、優しい笑みを浮かべて聞いてくれた。
「まあ! 不意打ちを……?」
そういうのまで赤裸々に語らなくて良いんだよ、ももちゃん。ねえねの評価が下がるからね。
とにかく、途中でメイドさんが運んできた紅茶もいただいて、すっかり長居してしまった。
ももちゃんのお話が終わった辺りで、私はおずおずと切り出す。アナタをつまみ食い犯と疑っています、という風には絶対に受け取られないよう、慎重に言葉を選びながら。
「そうなのですね。アナタたちは、そんなクエストを」
「は、はい。それで、誰か不審な人間を見かけられたりは……?」
王妃様は、可愛らしくアゴに指を当てて。
「いえ。ワタクシはあまり部屋から出ませんので」
まあそれはそうか。王様と同じで、王妃様もテクテクと気軽に城内を歩き回ってるとは思えないし。というか、恐らく王族全員を容疑者から外して良いと思う。つまり、カギはやっぱり王家の秘宝とやらだね。何者かが無断で持ち出しているんじゃないかと。
「……あの。実はゾードさん、学者先生に聞いたんですけど」
と前置きして。王家の秘宝なる魔道具の話題に持っていく。流石にそう簡単には明かしてくれないかなと思ったんだけど、
「インビジブルマントのことね。ええ、宝物庫にありますわ」
本当にセキュリティーが心配になってくるよね。どうか、この性善説で成り立っている王国が、末永く幸せでありますように。
と思ったら、
「宝物庫は、王族以外は開けられないのです。なので、それを悪用されている線を疑う必要はありませんわ」
そういうカラクリなのか。でもインビジブルマントって、いかにも関係ありそうだけどね。だって多分、被ると姿が見えなくなる感じのマントでしょ。
料理人が何人も忙しなく動き回ってる調理場。彼らの目を掻い潜ってつまみ食いするなら、それくらいのチートアイテムが無いと難しい気がするんだけど……
「長く引き留めてしまいましたね。反対側の部屋に末娘が居るハズです。まだ5歳の子供ですから、まあ流石に何も知らないでしょうが……」
「はい。訪ねてみます。万が一にも誰か見ているかも知れませんから」
王妃様と一緒で、部屋にずっと居たなら、その線も望み薄かなあとは思うけど。全員に話したら進行する系のイベントかも知れない。行ってみよう。
「それでは。ご機嫌よう。幸奈さん、ももちゃん」
「あ、はい。お茶、ご馳走様でした。ご、ご機嫌よう?」
初めてする挨拶だけど、目上の方にもこれで良いのかな。
「ごきげんよう!」
ももちゃんもマネして、手を振る。シンシアー様も気さくに振り返してくれた。
私たちは部屋を出て、玉座の後ろを横切らせてもらって、反対側へ。
小さくノックしてみる。部屋に居るのは5歳の女の子ということだけど……
「だ、だれですの!?」
少し上擦った声が返ってきた。
「冒険者です。王様の許可も頂いて、少し調べ物をしております」
「おとうさまの? わかりましたわ。おはいりなさい」
許可が下りて、ホッとする。けど、冒険者が城に入ってることも知らないようだし、この子も部屋の外の情報はゼロかな。
入る前から少し落胆しちゃうけど、顔に出さないように注意して。
――ガチャ
中へと入る。天蓋つきのベッドの上に腰掛けた幼児の姿が見えた。この子が王様の末娘さん。
ももちゃん程じゃないけど、少し丸い顔に金色の髪。お父さんと同じく、左右の毛先が2箇所ピョンと外に跳ねていて、更に頭頂辺りの毛束も跳ねている。カールが合計3つ。
少女がこちらを正面から見据えた。キリッとさせた瞳(少しワザとらしいのが可愛い)に、キレイな形のお鼻。そして口元には……白いソースのような物が……
「…………」
犯人、この子だ!! 完全にシチューだ、アレ!!
「どうしましたの? あいさつをなさい」
ちょっと偉そうに振る舞ってるけど、口の端にシチューついてますよ。
「あ、えっと。ブロンズ冒険者の城下幸奈です。幸奈とお呼びください。そしてこっちが……」
「ももちゃんだよ!」
大人相手じゃないから、タメ語になっちゃってるし。
「ゆきなとももちゃんですわね。ももちゃんは2さいくらいですわね?」
「さんさい!」
「あら? そうなのですか? でもワタクシは5さいですから。おねえさんですのよ」
シチューついてるけどね。
「……ワタクシはカルアともうします。このくにのおーじょですわ!」
カルア姫、か。ソトカール3世には……ならないのかな。末娘ということだし、上にお兄さんやお姉さんが居るよね。
「かるあちゃん!」
「カルアさまですわ!」
「かるちゃん!」
「みじかくなってますわ!?」
幼児2人の牧歌的なやり取り。それを聞き流しながら、私は考える。どうやって切り出したモンかなあ、と。
多分、王族しか操作できないという宝物庫の扉を開けて、インビジブルマントを持ち出したんだろうけど。
「かるさま!」
「ぐぬぬ〜」
まだやってるし。
と、そこで。思いがけず。
「かるちゃん、おくちになにかついてるよ?」
お、おお。ももちゃん、ナイス。
カルア姫はハッとした表情。慌てて手で拭おうとして止めて……ハンカチで拭いた。やっぱり上流階級の子だし、よく躾けられてるみたい。
……出来れば、つまみ食いもしないよう教育しておいて欲しかったところだけど。
「こ、これは! えっと! ヨ、ヨ、ヨ、ヨーグルトですわ!」
聞かれてもないのに弁明しだす。うーん。ヨーグルトって感じではなかったけどねえ。ももちゃんですら、小首を傾げてる。
「そ、それで!? ワタクシにききたいことがあるというはなしでしたが!?」
露骨に話を逸らしたね。
ただ、彼女は知らないだろうけど……逸らした先も、ほぼ同じ話題なんだよね。
私は少し悪い笑みが出そうになるのを必死で抑えつけながら、
「実は……」
来訪の意図を伝えた。




