5ー4:王様とももちゃん
3階へと上がると、いつものように王様が玉座に座っていた。この人、ずっと謁見の間に居るワケじゃないよね?
「こんにちは、王様」
「ちは」
本当はさっきぶりだけど、イベント管理がどうなってるか分からないから、当たり障りのない挨拶。
「うむ。さっき会ったがの」
わあ……やっぱりフレキシブルな感じだったか。まあ良いや。ソトカール王、結構優しいし、滅多なことじゃ「無礼者!」されないと思う。
「それで、余に聞きたいことがあるという話だったな」
「あ、はい。そうです」
私は今回のクエストの内容と、城内の聞き込みをしていることを話した。
話を聞き終えると、王様は、
「まず、余はずっとここに居たゆえ不可能だな」
「それは、はい」
傍に控える近衛、大臣、メイドさん。証人は沢山居る。
ただ気になるのが、王家の秘宝とやら。もしかしたら、王様がここに居ながらつまみ食い出来るようなファンタジー遠隔パワーが……無いか。
そもそも王様がつまみ食いとか……世も末すぎるしね。流石に犯人には設定されてないハズ。
「余の妻と末娘が、奥におるハズだ。彼女らからも、話を聞いてみると良い」
玉座の両脇に部屋があるみたいで、王様は左右を見た。
「はい。ありがとうございます」
一応、周りの人とも話してみてから、行こうかな。さっきのゾード先生みたいに、別イベント(?)のフラグもあるかも知れないし。
というワケで、まずはメイドさんに話しかけてみた。
「こんにちは」
「ちは」
「あら。冒険者さん。ブロンズランクおめでとう。ちなみに冒険者の階級は……次はシルバー、ゴールド。その上に更にダイヤモンドがあるそうよ」
お役立ち情報をくれた。
いやあ、凄いね。ダイヤモンドに行くまでには……ももちゃんは飽きちゃうだろうなあ。
続いて、近衛兵さんに話しかけてみる。
「フラワーコインは100ピッタリしか存在しないワケじゃないんだ。だから1つのイベントやクエストで取り逃がしたって、それで百花樹を咲かせられないって事態にはならないんだよ」
うん、それは実は知ってた。チラッと難易度を調べる時に、ネット情報で見ちゃったんだよね。
まあ半子供向けだし、そんなにシビアに設定するハズもないよね。
そしてもう1人の近衛兵さんに話しかけると、
「2階に居るゾード先生には会ったか? 魔道具研究の第一人者なんだ。攻略で困ったら、訪ねてみても良いかもな」
ここで導線。2階を飛ばしてきてしまった人も、これでUターンするね。そしてやっぱり彼は顔見知りになっておいて損は無い相手みたい。
これでフロアの王族以外の人とは話したかな。よし、それじゃあ行こうか。と、ももちゃんへと伸ばした手が空を切る。あれ? どこ行った?
首を巡らせると、よりにもよって王様のすぐ近くに居るももちゃんを見つけた。下からジッと見上げてるみたい。
「も、ももちゃん!」
いくらゲームキャラとはいえ、王様は王様。流石に「無礼者!」されてしまうかも知れない。
慌てて駆け寄ると、
「おしり、いたくない?」
「痛い。当然痛い」
変な会話が繰り広げられていた。ずっと座りっぱなしの王様だから、そういう心配をしてるみたいだ。
ていうか痛いんだ、やっぱり。
「だがな。余がここに巌のように座っておること、それが存外大事なのだよ」
王様が忙しなく座ったり立ったり、どこかへ行ったりしてる国は、確かに不安になっちゃうよね。
ゲーム最初の説明とか、目からビーム出したりとか、おちゃらけた人かと思いきや。やっぱり一国の主たる哲学は持ってるのかもね。
「おうさま、いわなの?」
「はは、そうだな」
「いわなのに、おしりいたいの?」
「これは一本取られたな。岩が痛い痒いは泣き言か」
王様。なんか普通にちっちゃい子の相手、慣れてるね。
「ふふ、ふふふっ♪」
ももちゃんも、よくは分かってないだろうけど、おじちゃんが笑ってくれてるから嬉しくなって笑う。
「ももちゃん」
取り敢えず、回収。抱き上げると、まだテンションが高いのか、甲高い鳴き声をあげた。あるいは、おじちゃんとまだ話したかったのかも知れないけど。
「王様、すいません。私たちは」
「ああ。聞き込みだったな。行くがよい」
そう言って送り出してくれる。ももちゃんは気安く手を振ってるけど、私は会釈して通り過ぎた。そして玉座の右手側の部屋へ。ノックしてみると、中から女性の声で返事があった。
「どうぞ~」
恐らく王様の奥さん、つまり王妃様だと思うんだけど。
花の意匠が施されたオシャレなドアを押し開ける。恐る恐る中を覗き込むと、美しい女性が立っていた。凛とした佇まいと、上品な微笑。純白のドレスも眩いばかり。
「おひめさま!」
ももちゃんがそう思うのも全く無理からぬ容姿だった。
「あら。嬉しいですね。もうそんな歳ではないのに」
ふふふ、と本当に嬉しそうに笑う王妃様。
「こ、こんにちは。私、城下幸奈と申します。こっちは妹の百花で」
「ももちゃんです」
愛称は良いのよ、言わなくて。
と思ったけど、王妃様は優しく微笑んだまま。
「ご丁寧にどうも。ワタクシはソトカール2世の妻で、シンシアーと申します。以後、お見知りおきを。可愛らしい冒険者さんたち」
王妃様はスカートの端を摘まんで、ゆっくりと膝を曲げる。優雅な仕草に、芝居がかった言い回し。なのに全く違和感が無い。本当に、外国映画に出てくるプリンセスみたい。
「ももちゃんです!」
それはもう分かったから。
ももちゃんもシャツの裾を摘んでみるけど、お手々がまんまるになるだけで、全然サマにならない。どころか、慣れない体勢に膝がカクンとなっちゃって、私が慌てて支える羽目に。
「こけちゃった……」
「もう」
王妃様に笑われてしまってる。もちろんバカにしたような笑いじゃなくて、微笑ましそうにだけど。
「ふふ。さあ、入って。良かったら、冒険のお話を聞かせてくださいな」
そう言って、王妃様は自室へと私たちをいざなってくれる。一瞬、躊躇するけど。先にももちゃんが入って行ってしまうので、私も慌てて続いた。




