5ー2:つまみ食い犯を捜せ
またメイドさんの先導で庭先まで戻る。だけど、そこで彼女はフラッとどこかへ行ってしまった。そして代わりに、コックコートを着た男性がやってくる。
あ、これは……イベントが切り替わったみたいだね。同じ王城内だからこそのリレーだ。
「やあ。キミたちが依頼を受けてくれた冒険者さんだね」
私よりいくらか歳上、30代前半〜中頃かな。垂れ目で優しそうな印象。
「こんにちは」
「ちは」
「俺はアロッカ。この城の料理長をしてる」
あ、この人が依頼人さんか。
「私は幸奈、この子は妹の百花です」
「ももちゃんです」
こちらも自己紹介を済ませ、城の中にUターンする形に。アロッカさんの先導に従って、城の階段を下りる。そこは中二階のような構造になっていて、その半地下の先には。
「大きな扉」
「うん。虫が入らないように、ファンタジー防虫パワーが込められた特別仕様だよ」
出た、ファンタジーパワーシリーズ。
アロッカさんが、その大きな扉を開け放つと……
「わあ!」
「かまどだ!」
姉妹揃って驚いてしまう。私たちの知るキッチンとは、かなり様相が違う。石造りのかまどが5つほど。煤けている箇所も散見され、かなり年季が入ってるのが分かる。
周りには鉄串みたいなのが建っていて、そこに鍋が吊るされている。煙突ともダクトともつかない換気用デバイスが、壁を突き抜けて外へ繋がってるみたい。中二階構造なのは、外からそのデバイスが見えない(景観のため)ようにするためだね。
「ねえね、あつい」
ももちゃんの言う通り、熱がこもってて暑い。改めて……体感温度まで変化させられるって、VRMMOは凄いね。
「働いてるのは……3人ですか?」
「うん。今は、夜ご飯の仕込み中だからね。実際の調理になると、もっと人は増えるし、給仕の人が出来た料理を取りに来るから、更に忙しなくなる」
なるほど。ということは、つまみ食い犯は、そういうバタバタした時を狙ってくるのかな?
と思ったら。話しながら、鍋を順繰りに確認して歩いていたアロッカさんが、
「あ! また!」
大きな声をあげる。え? まさか?
「鍋の中身が少し減ってるね。お肉がヤラれてる」
呆れとも諦めともつかない声音。私も覗き込んでみると、煮込み料理のジャガイモとニンジン、タマネギが沢山……しかし肉は3切れほどしか確認できない。野菜と比べて少なすぎる。
「えっと……」
思わず、調理をしてる料理人たちに目を向けてしまう。全員、この鍋からは離れた所で作業してるけど。
「いや。彼らではないよ。俺だけで仕込みをしてた日にも食べられてたからね」
なるほど。もちろんアロッカさんが犯人でもない。今こうして、私たちを出迎えに行っていたというアリバイがある。
「というか、作り直さなきゃいけないんだから」
「そんな面倒なことするかい」
「どうしても食いたきゃ、家で作るわ」
料理人さんたちからブーイング。
た、確かに。味見とかならまだしも、作り直ししなきゃならない程の量を食べたら、自分たちが面倒くさくなるだけだよね。
加えてアリバイ。彼らが居ない日にも、アロッカさんが居ない日にも起こるという事実。内部犯の線は捨てて良さそうかな。
「ん?」
今、一瞬。人の気配がしたような気がして、慌てて振り返る。開け放たれた扉の方で、足音が鳴った気がした。微かに金色の何かが揺れたような残像も目に焼き付いてる。
「どうしたの? 何か気付いた?」
「え、いえ」
気のせい、かも知れない。外部犯が濃くなったタイミングだったし、ただの家鳴りみたいなのを、足音だと思い込んでしまったのかも。金色の光は……今は見えないし。
――ぐうぅ
その時。お腹の鳴る音が聞こえた。すぐ近く……っていうか、私の足元。
「も、ももちゃん?」
「えへへ」
良いニオイが充満してるから。
「はは。しょうがないな。この鍋は作り直しだから、食べても良いよ。野菜多めになっちゃってるけど」
「ほんと!? ももちゃん、じゃがーもすきだよ!」
「ジャガイモ、ね」
けど良いのかな。得体の知れない犯人が手を付けた物だし……毒とか入れられたり。
まあ無いか。そんなエゲつないイベントは。
「よし。それじゃあ皿に取り分けるよ」
「肉は減ったけど、アタシたちの自慢のシチューだからね」
「美味しいよ。ミルクたっぷりだ」
「さあ。召し上がれ」
料理人さんたちは、こんなことにはなったけど、なんだかんだ腹ペコさんに料理を振る舞うのが好きなのかも。
かまどから離れた場所に、休憩スペースみたいなのがあって、そこに取り分けたお皿を運び込んでくれる。
椅子と簡素な木製テーブル。座って、「いただきます」をした。
スプーンを持って、シチューを掬う。ほぼほぼ、私の知るホワイトシチューみたいだね。
「おいち!」
ももちゃん、もう食べてるし。私もスプーンを口の中に入れる。芯を残しながらも、ホクホクとした食感のジャガイモ。そこにミルクとクリームたっぷりの甘じょっぱいシチューが絡んで……
「うん、美味しい!」
私たちは、そのまま皿を全部平らげる。ニンジンも、タマネギもよく煮込まれてて美味しかった。お肉は確かに少なかったけど、柔らかくてジューシーで。
「「ごちそうさまでした」」
姉妹は揃って、手を合わせる。
「はい。お粗末様」
「美味しそうに食べてくれて、ありがとう」
料理人さんたちも嬉しそう。
お皿まで舐めようとするももちゃんを制し(お外では、はしたないからね)、軽食を終えた。変な流れになったけど……取り敢えず、お城のお料理は犯人がつまみ食いしたくなるクオリティーなのは分かりました。




