4ー6:素敵な皆勤賞
噴水広場の端っこに、確かに大きな木箱が置いてあった。ももちゃんが10人くらい入れそうなサイズだ。そしてその脇に1人、おじさんが立っていた。スキンヘッドで筋肉ムキムキの……
「デグルスさん!」
その人だった。
「おう、ヨルゲン爺さんが体調不良で、クエスト出したとは聞いてたけど。受けたのはオマエさんたちだったか」
頷いて返す。ていうか、
「デグルスさんの方こそ……」
「ああ、俺たちはこれが仕事だからな。荷受けや、仕分け、集荷ポストの見張り」
そうだったんだ。郵便局員さんだったんだね。青年団は趣味というか、ボランティアというか。
「今日はポストの見張りだから、楽だと思ってたんだけどな。これが中々」
「え? そうなんですか?」
「ああ。荷物が多くてな……はは。まあ見てみりゃ分かんだろ」
言いながら、デグルスさんが木箱の蓋を開ける。シャツから覗く二の腕の筋肉がグッと隆起してるのが見えた。
……見張りなんかしなくても、この蓋を開けられる泥棒の方が珍しいような。
「よいしょ」
蓋を箱の本体に立て掛け、デグルスさんがどいた。すると箱の中が見える。小荷物が10以上。区分けがどうなってるのか分からないけど、少なくとも私たちが午前に配ったのは、1つだけだったから……かなり多いのは間違いない。
「ポーションの小ビンや、野菜を使った栄養満点なパンが多いみてえだな」
なんで中身が分かるんだろう、と訝しんでいると。
「みんな教えてくれたからな。宛先見たら納得だ」
私は近くの荷物の結びヒモに挟まった紙を見る。宛名には『ヨルゲンさん』とある。住所は郵便局のすぐ近くのアパートみたいだ。
「こっちも、あっちも」
デグルスさんが指すように、荷物はヨルゲンさん宛ばかりだった。
「10年以上、休まず、誠実に。困ってる住人には手を貸してやったりしながら……」
「……はい」
「みんな……見てるってことだな」
ドローンは画一で均等なサービスを実現したけど……かつてあった名物配達員さんみたいな文化も消し去ってしまった、らしい。ウチのおじいちゃんが言ってたっけ。
「……」
ももちゃんはジッと荷物を見てる。話の内容の全部は分かってないだろうけど、この小袋たちに込められた想いみたいなのは……きっと感じ取ってくれてるんじゃないかと。
「っとと。集荷だったな」
デグルスさんが話を本筋に戻す。私は頷いて……荷物を確認する。うん、無理だね。
「ももちゃん、リアカー作ってほしいな」
「りあかー?」
私は視界の端のタブをタップ。いつものように検索をかけて、画像を出力した。
「お。ももちゃんの粘土か。また凄えモンが見られそうだ」
期待のこもった視線に気合が入るのか、粘土をこねる動きがいつもより速い。
頃合で成形を始めると、ギャラリーも集まってきた。
「……」
板を成形し、数枚重ねて……以前も作った車輪はお手の物。粘土を伸ばしてリアカーの持ち手部も作って。
「できた」
ももちゃんの静かな宣言と同時、徐々に粘土リアカーはサイズアップしていく。そして車体は木の質感を伴い、車輪は鉄の質感を。
「どうなってるんだい!?」
「あの子供、凄いね!」
ギャラリーから歓声があがる。
ももちゃんのお鼻の穴がぷくっと膨らむ。嬉しいみたいだ。腰に手を当てて胸を張る、社長さんポーズも飛び出した。
「おお! 農作業とかで使うヤツか! こんなのまで作れちまうんだなあ」
一応、リアカー自体はこの世界にもあるんだね。
と。観衆の中から、デグルスさんに負けず劣らずの体格をしたお兄さんが歩み出てくる。あ、恐らく青年団のメンバーだ。
「おう。ちょうど良いところに。俺は荷物載せて運んでくからよ。オメエ、ここの番しといてくんねえか」
「承知っす。これ、ヨルゲン爺さんの見舞っすよね。俺も、爺さんには世話になってるっすから」
多分、この人は休日だったんだろうけど。快く引き受けてくれる(ていうか手伝いたくて進み出てきてくれたんだろう)よね。なんだか、あったかい。ヨルゲンさんの人徳もだけど、この人自身も優しい。
「よし、じゃあ積み込んじまうぜ」
言うが早いか、デグルスさんは荷物をドンドン載せていく。
「あ、ありがとうございます」
正直、リアカーはあっても積み込みが大変だなあと思ってたんだけど。やっぱりこの人も優しいね。青年団の人も手伝ってくれて、ものの数分で積み終わってしまった。
その後、デグルスさんがリアカーを引いて(私も手伝ったけど微力すぎた)郵便局まで戻った。
事務員さんたちに事情を話すと、
「おやまあ!」
「凄いね、この量は」
「全部ヨルゲンさん宛なのね」
みんな、表のリアカーを見て目を丸くする。そして、1人がカウンターを出て、休憩室のドアを叩いた。
「ヨルゲンさん! 大変だよ!」
「なんだ!? 火事か?」
慌てて出てきたヨルゲンさん。ちょっと髪が寝癖で凹んでるけど、目は冴えてるみたい。顔色もさっきより落ち着いてる。
「ほら、見て」
「あの大荷物」
事務員さんに言われ、ヨルゲンさんが窓の外を見た。口が「え?」の形で固まってしまう。それから私の細腕と、ももちゃんの丸顔を交互に見やって、
「オマエさんたちが、あんなに持って帰ったのか?」
なんて訊ねるものだから、事務員さんが噴き出す。
「バカおっしゃい。デグルスさんが引いて来てくれたんだよ」
既に本人は、ポスト番に戻って行った。本当に運搬だけしてもらった形で、申し訳ない。
「しかし、あの量を配るのは大変だぞ」
ヨルゲンさんがシリアスに言うもんだから、事務員さんたちは今度こそ大笑いしてしまった。
「な、何か変なこと言ったか?」
「あははは」
「だってねえ」
「アレは全部……ヨルゲンさん宛だよ」
今度は「は?」の形で口が固まってしまうヨルゲンさん。意外と顔芸面白いね、この人。ももちゃんもクスクス笑ってるし。
「みんな心配してるんだよ」
「ポーションや野菜多めのパンらしいよ」
「良かったわね」
ヨルゲンさんは呆然とリアカーの上の荷物を見つめている。けど次第に実感が湧いてきたみたいで、じんわり目が潤んだ。
「な、なんだい。大袈裟な……」
強がるけど、やっぱり嬉しさは隠しきれないみたいで。みんな生温かい目で、見守っている。
「……それ、配達しなきゃね」
「そうね。ヨルゲンさん。お願いできる? ゆっくりで良いからね」
「宛先も全部同じだし、ここから近いわ」
わ。職員さんたちも粋だ。これで今日も出勤になって……皆勤継続だね。
その優しさが分かったみたいで、ヨルゲンさんの鼻が赤くなる。
「ったく。余計な気を遣って……」
芝居がかった仕草で、鼻の下を擦ってから。ヨルゲンさんはシャツを腕まくりする。
「よっしゃ。アレくらい、すぐに運んでやる!」
さっきまで熱を出していたのがウソみたいに。元気一杯、軽やかな足取りで通りへと飛び出して行った。
「ふふ」
「あはは」
「良かったわねえ」
うん。本当に良かった。
「おじいちゃん、げんきになったね」
「うん。みんなの気持ちが、元気にさせたんだよ」
ももちゃんとも、そんな話をして。私たちも、今回のクエストを完了させたのだった。




