4ー5:仲裁と集荷と
ケーキを食べた後、2人で郵便局まで戻る。と、そこで。周囲が騒がしいことに気付いた。事務所の中で、何人かが大きな声を出してるっぽい。
「けんか?」
かも。クレーマーが事務員さん相手に怒鳴ってるとか。
私はももちゃんにその場で待つように指示して、1人でコッソリ窓に近づいた。
「しかし、新人だけに任せても……」
「大丈夫なのよ。矢印が出る人だから!」
「冒険者さんだから!」
矢印が出る人=冒険者なんだね……この世界は。
ていうか、これはひょっとしなくても私とももちゃんのことかな。
「あ」
事務員Aさんと目が合ってしまった。指先が見えないほどの速さで手招きされる。
ええ……なんかクレーマー対応ではなさそうだけど。ちょっと面倒なことになりそうな予感。
「っ! っ!」
ダメだ。Bさんまで気付いて、高速手招きしてくる。
観念して、私はももちゃんを回収して中に入る。
そこでは……事務員さん3人と、初老の男性がカウンター越しに対峙していた。真っ白な頭を短く刈り込んだ、少し目つきの鋭いおじいちゃん。
「ほら。この子たち! 午前の郵便物配ってくれたの!」
事務員Aさんが、入ってきた私を指して叫ぶ。けど、初老の男性は動じず。
「そうか、それはありがとな。けど、午後からは俺が行く」
「ヨルゲンさん!」
「ダメよ! まだ熱もあるんでしょう!?」
途中から半ば察してたけど、この人が本来の配達員のヨルゲンさんか。こちらは声を荒げることは無いみたいだけど、厳みたいに引かない雰囲気がある。
なおも事務員さんが叫ぼうとしたところで。思わぬ声が、場の空気を一変させた。
「うう……ぐす……けんかしちゃ、や。やなの……」
私の背後に居るももちゃんだった。全員、一瞬固まってしまって。けど、ももちゃんの丸いほっぺの上を流れる涙の粒を見て、再び時が動き出す。
「あ……ももちゃん、泣かないで」
私は抱き上げて、頬を寄せた。ももちゃんからもキツく首元にくっついてくる。
「あ、違うのよ。私たちは、えっと」
「ヨルゲンさんが聞き分けのないことを言うから、つい」
「ねえ。止めてただけだから」
大慌ての職員さんたち。ちゃっかりヨルゲンさんに責任を押し付けたね。
まあ話の流れから察するに、彼が無理に配達に出ると言い始めたのが発端みたいだから、あながち濡れ衣でもないんだろうけど。
「ぬう」
当のヨルゲンさんは唸りながら、顔を赤くして……ん?
「あ!」
その赤い顔のまま、フラついて床に片膝を着いてしまった。
「ほら、言わんこっちゃない!」
「安静にしてないと!」
「あ、これはケンカじゃないからね?」
事務員のおばさんたちが血相を変えて、カウンターの中から飛び出した。
「そうだね。やっぱりケンカじゃないみたいだよ、ももちゃん」
配達の途中でも感じたけど、ヨルゲンさんは人に慕われている。今も、彼女たちは純粋に心配だから声を荒げてしまっていたんだ。
ももちゃんはグズグズ鼻を鳴らし、納得してない様子だけど……もう少しお姉さんになったら分かるようなことなのかも知れない。
「ほら、歩ける?」
「ポーションは?」
2人が左右から肩を貸し、老体を運んでいく。さっきの更衣室の隣が休憩室らしく、そこに寝かせるつもりみたいだ。
残った1人の事務員さんは、
「ゴメンなさいね。ももちゃんも」
私たちに謝ってくれるが、なんと返して良いか分からなかった。
ももちゃんは少し赤くなった目で、ジッとヨルゲンさんの背中を見つめている。
「10年以上、皆勤だったのよね。本当に責任感の強い人で」
凄いね。それだけの時間……来る日も来る日も、荷物や手紙を届け続けてきたんだ。
「それに家々の困りごとなんかも頼まれたらやっているみたいでね。庭木の剪定なんかも、いつの間にかプロみたいになっちゃって」
可笑しそうに言う事務員さん。
口数多く、愛想を振りまくタイプには見えなかったけど。その代わり、責任感が強くてマジメで誠実な人、か。
「少し休んだら……行くからな……荷物を頼むぞ」
うわ言のように呟く声が聞こえて、事務員さんはまた呆れたように笑う。
「ポーション飲ませて、もう一眠りさせれば大丈夫でしょ」
「これだけ元気が有り余ってるくらいだから……ね!」
そう言いながら、肩を貸しているうちの1人がヨルゲンさんのお尻を膝で軽く蹴った。
そして反対側の事務員さんが、休憩室の扉を開け……3人は中へ入って行って見えなくなる。
「さ。2人は午後の業務をお願いね」
お昼休憩は実は15分くらいしか経ってないけど、局に戻るとイベントが進む管理だったみたいだね。もう就業の扱いになっちゃってる。
「配達は無いから、集荷に行ってちょうだい」
「あ、そうなんですね」
今日の午後に集荷した郵便物は、明日の午前に回されるみたい。
ポスト……というか、木箱のような物が中央広場にあるらしく、そこから回収してくるだけ。
「かんたん?」
「重たい荷物もあったりするわよ?」
侮るももちゃんに、事務員さんが釘を刺す。怯んだ顔で私を見上げてくるのが可笑しい。
「リヤカーかな。あんまり重いと」
ももちゃんに作ってもらおう。
というワケで、私たちは郵便局を後にする……前に。ギルドで預かった手紙だけ渡して、大通りへと戻るのだった。




