4-4:歓迎されないお手紙
「ももちゃんのおてがみ……だめだった?」
店を出たところで、ももちゃんがそんなことを言い出した。ちょっと悲しそうな声音。
「そんなことないよ。ただ、世の中には相手に喜ばれないお手紙もあるの。それは配達員さんやドローンさんのせいじゃなくてね」
ももちゃんが小首を傾げる。
「そうだなあ、例えば……」
考える。ももちゃんにも分かりやすいのだと。
「例えば、ももちゃんにティラノサウルスさんのぬいぐるみを買いませんか? ってお手紙が来たら?」
「いらない。ももちゃん、てぃらーさーるす、いらない」
プテラノドン推し過激派のももちゃんは、ティラノサウルスの方が人気、知名度ともに遥かに上なことに納得がいってない。それで、ちょっと連中を敵視してるところがあるんだ。
「それとおんなじ。さっきね、オルディアさんはもうケーキの材料あるのに、要りませんか? って言われたの」
なるほど、という顔をするももちゃん。
「いらない!」
「そう。そうなの。だからオルディアさんも、ももちゃんにキライキライしてたんじゃないんだよ」
「うん、そっか」
安心したのか、ももちゃんが足元に絡みついてくる。その頭を優しく撫でて、
「さあ。あと1つ」
と告げると、ももちゃんもおカバンをパンパンと小さな掌で打ち鳴らす。
「あとひとつ! あとひとつ! おわったら、けーき?」
「うん。お店に戻って買おうね」
手を繋いで、最後の宛名のもとへ。こちらも知り合いだ。
北へ上っていき、やがて見えてきた。数日前にも訪れた兵舎。
「かいるくん! べしちゃん!」
「ベシーちゃんはお留守番してると思うけどね」
あのクエストの後だと、やっぱり心配になる。けど、仕方ないよね。カイルくんも働かないと生きていけないし。
私たちは以前も会った門番さんたちに挨拶をする。やっぱり彼らも私たちの格好を見て、怪訝そうにしたけど。事情を話すと、なるほどと得心してくれた。
「ヨルゲンの爺さん、病気かあ」
「兵隊あがりだし、丈夫な人だけど、たまにはそういうこともあるわなあ」
門番さんたちも親しいのかな。
ていうか、元兵隊さんなんだ。
「それで……カイルだったな。ちょっと待っててくれ」
門番さんの片割れが、兵舎の中へ入っていく。
「今の時間なら、練兵場で稽古してるハズだ」
残った方の門番さんが教えてくれた。
少し待っていると、門番さんとカイルくんが連れ立って出てきた。
「おまたせ。わざわざありがとうね」
カイルくんは汗だくで、前髪も額にくっついていた。手には竹刀も持ったまま。
「精が出るね。兵隊さんの鑑だ」
と、褒めてみたけど。カイルくんは曖昧な笑みを浮かべるだけだった。ん? なんか、地雷踏んだ?
「……それで、手紙を持ってきてくれたんだよね?」
「あ、うん。ももちゃん」
言われるまでもなく、ももちゃんはおカバンをゴソゴソ。最後の1枚を取り出し、カイルくんへ差し出す。腕を斜め上に懸命に伸ばすので、カイルくんはしゃがんでそれを受け取った。
「ありがとう。ももちゃん」
ただオルディアさんの例もあるからか、ももちゃんはジッと伺うような視線を向けている。また要らないお手紙を運んでしまったんじゃないか、と。
「おてがみ、だれから?」
「ん? あ、ああ。叔母さんだよ。港町に住んでるんだ」
あ、それなら要らない手紙ではなさそうだね。事実、カイルくんも少し嬉しそうだし。
「ももちゃん、良かったね。家族からだって」
「〜〜♪」
安堵の舞。色んなクネクネがあるね、ももちゃんは。
「それじゃあ、ゴメン。僕は戻るよ。2人も、お仕事頑張ってね」
手紙を大事そうに懐に仕舞って。カイルくんは爽やかな笑顔を残して、兵舎へ戻って行った。
「おしまい?」
「うん。これで終わり」
午前の部は、ね。
「けーき!」
「はいはい」
そんな念押さなくても忘れてないよ。
私たちは門番さんにも挨拶をして、兵舎から東通りへと戻る。オルディアさんは戻ってきた私たちを見て、少し驚いた様子だったけど、
「けーき、ください!」
ももちゃんの爛々とした瞳と、私の苦笑を見て、概ね把握してくれたみたい。
2人で店内をグルリと回らせてもらい、ケーキを選ぶ。
結局、ももちゃんは前も食べたバラの花びらケーキ、私はフルーツロールをテイクアウトした。
「ももちゃん、前も食べたんだよ、それ」
「うん! おいしかった!」
まあ良いか。下手に冒険させて、おこちゃまの口に合わない物に当たったりしたら、「ねえねのせいだ」って責められかねないからね。
紙箱に入ったケーキを揺らさないよう、大事に持ち帰る。途中でギルドに寄って、依頼者への返信を受け取り、郵便局へ戻った。
「ただいま戻りました」
「あ、おかえり〜」
「早かったね」
「迷わなかった?」
「はい。矢印のおかげで……」
もし地図だけでやらされてたら……あ、でも。ももちゃんが何とかしてくれたかな。3歳の妹頼りっていうのも情けない話だけど。
「そう、それは良かったわ」
「お疲れ様」
「午後まで休憩して良いからね」
ということで。一時解放。
ももちゃんもウキウキしてる。ケーキがあるからね。
「噴水広場で食べよっか?」
「うん!」
というワケで、広場へ出た。お昼休みだし混み合ってるけど、1つだけベンチが空いてる。そこに2人で並んで腰掛け、間にケーキの紙箱を置いた。
「あ! しまった。フォークが無いや」
そうだった。前の時は、パティスリーの店内で食べたから、オルディアさんが用意してくれたけど。
「ももちゃんがつくる」
そう言って、カバンから粘土を取り出した。ああ、これまた失念してた。そうだったね、ももちゃんは何でも作れちゃうんだ。
「お写真要る?」
画像検索しようとタブへと手を伸ばしながら訊ねる。だけど、ももちゃんは首を横に振って、ベンチの上で粘土をこね始めた。
「……」
そして瞬く間に成形。幼児用の丸みのあるフォークが2本完成した。
「はい、ねえね」
片方を渡してくれる。
「ありがとう」
受け取ってから、辺りを見回した。広場に出てる屋台の中から、牛乳を売っている店を発見。すぐに買って戻ってくる。
「それじゃあ、いただきますしようか」
「うん!」
元気よくお返事して、小さな掌同士をパチンと打ち合わせるももちゃん。
「「いただきます」」
というワケで、姉妹でケーキランチ。
……フルーツロールも凄く美味しかったです。




