4-2:配達員になったよ
奥の部屋は更衣室だったみたいで、木製ハンガーに沢山の制服が掛かっていた。なんかアルバイトの初日みたいだね。まずは制服に着替えてください、的な。
「そっちの小さな子の服も……あ、ありそうだね」
あるんだ。流石は幼児もやるゲーム。ここら辺、抜かりがないね。
その後、私たちだけを更衣室に残して女性は出て行った。着替え終わったら出て来てね、ということらしく。
「ももちゃんも、おきがえするの?」
「うん。ちょっと待っててね」
まずは私の方が着てみることに。下は長ズボンと、上はちょっと男子の学生服っぽさがあるけど……シャツにブレザー。色は深緑で統一されてる。
「ネクタイまであるね」
自分では着けないので、やや手間取る。検索も駆使して、どうにかこうにか。ともあれ着替え完了だ。
「ねえね、ぱぱみたい!」
実際、パッと見は男性のスーツ姿にちょっと似てるもんね。鏡を使って自分でも確認するけど……まあ一応変な所は無いかな。もう少し上背があれば、カッコよく見えるんだろうけど。
「さ、次はももちゃんだね」
子供サイズの制服を持ち、ももちゃんの傍に屈んだ。
………………
…………
……
ももちゃんも完成。ちっちゃい体に、ピタリとフィットしてる制服。ちっちゃな袖口から、丸いお手々が出ていて、肩口から掛かった子供用郵便カバンの紐を掴んでる。頭にはミリタリーチックなキャスケットを被っていて。
「あぁ……可愛い」
ていうか、子供配達員用の制服だけでも可愛いのに、子供配達員用カバンやお帽子まであるとか、反則でしょ。
「ちょっとくるしい」
首元までシャツが来てるからね。あんまり、こういう服は着ないももちゃんからすると、そう感じるのも無理はないか。
ちょっと邪道かもだけど、第一ボタンだけ外してあげる。うん、思ったより目立たないし、
「らく!」
本人も楽になった模様。
そして、今度は鏡の前へ。自分の姿を見て、目を輝かせてる。
「ちっちゃなぱぱ!」
私は思わず噴き出してしまう。自分で「ちっちゃな」って言っちゃうんだ。
今日はパパも休みで、私たちのプレーをモニターしてる(着替えの最中はこっち側でオフにしておいた)からね。きっと今頃、悶絶してるだろう。
「よし。それじゃあ、行こうか」
手を繋いで、更衣室を出る。先程の事務員さんたちが、また一斉に顔を上げた。
「着替え終わったの」
「あら〜〜可愛いわね〜〜」
「お姉ちゃんに、着替えさせてもらったの?」
ももちゃんは嬉しそうにクネクネ。
一通り、「可愛い」の合唱を浴びたところで。
「それじゃあ、早速だけど。配達業務に入ってもらいます」
話が進んだ。
ももちゃんは褒めちぎられてヤル気も高まってるのか、まんまるお手々を上に突き上げ、
「はい!」
と元気にお返事した。
おばさんたちは、また微笑ましそうに見つめる。
「今日のは……お手紙が4通と、小荷物が1つね」
職員Aさんが、折り畳まれた羊皮紙を4枚。革袋を1つ、テーブルの上に置いた。
羊皮紙の方は蝋で留めてあるだけで剥き出し。日本の過包装に慣れてると、なんか不安になるよね。
「さあ。おカバンに入れて、ももちゃん」
手紙の方をももちゃんの小さなカバンへ。小荷物の方は私のカバンへ。重いし少し土臭い。多分だけど、中身は野菜だ。
こっちはヒモで袋の口をグルグルに縛り、そこに宛先と差出人が書かれた紙が挟まっているだけ。やっぱり不安になるテキトーさだ。
「それで、えっと地図みたいなのは?」
読むの苦手だけど、言ってられないもんね。幸い、この街は中央噴水広場から東西南北に伸びる大通りという、凄く分かりやすい作りになってるし、やってやれないことはないハズ。
「ああ、順路図ね。はい、これ」
「でもまあ、近くまで行けば」
「いつものように矢印が出るハズだから」
メタい……
でもあの親切矢印が出るのは助かるね。
私は順路図を受け取り、事務所の出口へ。
「「「いってらっしゃい」」」
私たちも振り返り、いってきますをして……配達開始だ。
「まずは……西側に1つあるね」
地図の左端の方。すぐ近くだ。ていうか、目の前に矢印も出てるし。
「ぎるど」
ということでした。まあ最初だし、配達の流れを掴む意味でも、おあつらえ向きかも。
私たちは、さっきぶりの扉を押し開けた。書類作業をしてたパールさんが顔を上げ、私たちの顔を見て目を丸くする。
「もうクエスト終わったの? あ、違うか。郵便」
セリフの途中で、私たちの服装に気付いて色々合点がいったみたい。
「そうです。えっと……」
確か小荷物の宛先は南区の方だったから、手紙のうちのどれかだね。
ももちゃんに目を向けると、既にカバンをゴソゴソとやっている。丸いお手々で引っ張り出した手紙4通。私もしゃがんで検めると、
「あった。宛名が王都ギルドの手紙」
それを持って立ち上がり、受付カウンターの上に置いた。
「ありがとう」
パールさんは、早速蝋を切って広げる。
「なんのおてがみ?」
「依頼書作成の予約みたいだね」
そんなのあるんだ。という目を私がしていたからかは分からないけど、パールさんは詳しく話してくれる。
「依頼したい人の中には、こうやって手紙でアポイントメントを取る人も居るんだよ」
忙しい人や、遠方の人とかかな。多分、近場で暇な人は直接ここに来るだろうし。
「それでこっちも返事を出して、日時が決まったら、ここに出向いてもらって依頼書作成。貼り出す、という形だね」
なるほど。それが私たちの目にする依頼書、ってワケか。
まどろっこしく感じられるけど、その分、なんだか魂がこもってるようにも感じてしまうよね。何度も手間をかけてでも、叶えたいこと、解決したいこと。
「返事を書いておくから、また配達の帰りにでも寄ってちょうだい」
「分かりました」
「はい!」
ということで、ギルドを後にする。
次は……南区が近いかな。私たちは中央噴水広場へと出て、そこから南へ下った。




