3-5:モグラさんのお引越し
ケージにまずは4匹を入れる。これが1家族みたいだね。ももちゃんに顔を叩かれてしまったモグラが父親で、奥さんと息子さん2匹みたい。
そう考えると、最初の3匹+長老は、家族を守るために勇気を振り絞って出てきたんだね。お父さんの鑑だ。
「これは快適モグ」
「すごい、すごいモグ」
「ボクたち、ここにすむのでもいいモグ」
家族はケージを気に入ったみたい。適度に暗くて、適度に狭くて、居心地が良いのかも知れないね。ただそこに住まれても困るんだけどね。
「まだ入れそう?」
「狭くなるから嫌モグ」
「うるせえ。敗者に情けをかけてやってるだけ、ありがたいと思いやがれ」
デグルスさんが、近くのモグラを掴んで、ポイポイと中に放り込んだ。全部で7匹くらい入ったハズ。
ももちゃんが、あの後もう1つケージを作ってくれたので、これで残り7匹をそっちに入れたら、1回で行けるね。
「ほら、入った入った」
青年団に押し込まれる残り7匹。とはいっても、ちょっと手狭になるだけで、ギューギュー詰めとかじゃないからね。それくらいは我慢してもらわないと。
「よし。それじゃあ行くか」
デグルスさんが、ケージを持ちあげる。ちょっと乱暴な動きだったので、ブラブラと揺れた。モグラの面々から非難囂々。デグルスさんは唇を尖らせて、ケージを優しく抱え直した。
「おう。俺たちはモグラ運んでくるから、オメエらは杭打ち続けといてくれい」
「へーい。頼みやしたぜ」
「ももちゃんも、お付きの人もありがとな」
「批判を恐れず、勝ちにこだわる姿勢、良いと思うぜ」
なんか勘違いされてるなあ……
お付きの人扱いも酷いし、全く散々なクエストだったよ。まあまだ終わってないけど。
「しゅっぱつ!」
ももちゃんの音頭に、デグルスさん、青年団Aさん(もう1つのケージを持ってくれてる)が歩き出す。私も遅れないようについて行った。
………………
…………
……
南区の古井戸まで到着。ケージを開けると、モグラたちは早速飛び出して土質を確かめ始めた。
「思ったより湿ってないモグ」
「本当に使われてないモグね」
「ただ掘りすぎると、地下水脈に繋がるかもモグ」
わいわい、がやがや。
「そこまで掘らないモグ」
「ちょっと暗くて良い感じモグ」
「これはエサも多いモグよ」
全体的に気に入ってもらえたみたいだね。早くも掘り始めた個体まで居る。
と。1匹だけこっちに這ってくるモグラが。
「ももちゃん、ありがとうモグ」
顔を叩かれちゃったモグラか。ももちゃんもしゃがんで、お鼻をよしよしと撫でる。
「モグ~~♪」
「もぐ~~♪」
楽しそうだね。
「私も撫でてみて良い?」
「それはちょっと……モグ」
微妙に警戒されてるし……
周囲から笑いが起こって、まあなんだかんだで大団円。
私たちはモグラたちに手を振って、古井戸を後にした。
西へ戻るデグルスさんとも、ギルドの前でお別れ。
「ありがとな。ももちゃん、すげえ粘土捌きだったぜ」
またも胸を張るももちゃん。
「幸奈も。ちょっと引いちまったけど、オマエさんのおかげで結局は丸く収まったからな。ありがとよ」
うーん、素直に喜べない。これ、このイベント終わったら、デグルスさんとかモグラたちも感情リセットしてくれるよね? 会うたび言われるとか嫌だよ?
「じゃあな。報酬もちょっと多めに出しておくから、気持ちとして受け取っといてくれい」
そう言って、デグルスさんはギルドを過ぎて、また西の大門へと向かった。大きな背中を見送り、私たちもギルド内へと入る。
受付のパールさんがすぐに気付いてくれて、「おかえり」の挨拶をくれた。
「今回も良い働きっぷりだったみたいだねえ」
「ももちゃんが頑張ってくれました」
妹の頭を優しく撫でた。
パールさんも目を細めて、
「うん。魔法の粘土、大活躍みたいだねえ」
依頼書にハンコを押してくれた。
「えへへ」
嬉しそうなももちゃん。クエスト達成時のあのハンコの「ポン」て音、良いよね。
「さ、これが報酬だよ」
革袋を1つと、またまたフラワーコインは2枚。今回もゴミ拾いからモグラ叩きと、内容が濃かったもんね。
そして袋の中の報酬は12000Gもあるそうだ。
「また預けに行かないとね」
「それも良いけど、たまには買い物もしてみたらどう?」
パールさんに言われて、少し考える。買い物かあ。ももちゃんの冒険者用の服とか買うのも良いかもね。きっと可愛いだろうし。
ただまあ、今日はもうログアウトだね。
画面が暗くなる。ゴーグルを外すと、自室の風景が広がった。ももちゃんのも外してあげると、少し呆けた後、ハッとして見上げてくる。ちょっとお間抜けなその顔が可愛くて、思わず頬を撫でた。
「下りよっか。そろそろご飯だよ」
「うん! あ、おなかすいてる!」
そうだね。モグラ叩きは結構カロリー消費しただろうしね。
私たちは1階に下りる。既に食卓にはご飯が用意されていた……のは良いんだけど。隣の部屋にも何か置いてある。ママに目で訊ねると、
「2人のプレイを見てて、パパが思い出したみたいでね。物置から引っ張り出してきたの」
姉妹2人で、その品物を観察する。家庭で遊べる『モグラ叩きのオモチャ』みたいだ。またパパの子供の頃の思い出の品かな。
「ももちゃん、おウチでも出来るみたいだよ」
「ちっちゃい!」
そうだね。ゲーム内では半径数メートルは動いて、追っかけ回してピコピコしたからね。
これは直径で1メートルも無いくらい。座って出来るね。
「それでパパは?」
「部屋で仕事してるよ。ちょっと持ち帰ったんだって」
そっか。パパ……
モグラのお父さんたちのことを思い出す。家族のために身を挺して出てきた勇敢な3匹。
「……ご飯、呼んで来てくれる?」
「うん。ももちゃん、行こうか」
「うん!」
2人で、さっき下りて来たばっかりの階段を上る。
ご飯の後、ももちゃんが一緒にオモチャで遊ぼうと誘うと、パパはデレデレになっていた。




