1-2:ゲーム開始
オープニングムービーが流れる。汎用デザインの小さな女の子が、色んな街を冒険し、色んな人とお話している。釣りをするシーン、動物と駆けっこするシーン、食事をするシーン……それぞれ写真みたいにフレームに納められ、色とりどりの花で彩られてる。
「わあ!」
ももちゃんの手が忙しなく動く。流れるシーンを全部掴もうとしてるみたいな。
やがてムービーは終わり、
『さあ! キミも冒険に出かけよう!』
元気一杯な声で誘われる。
そしてそのまま、目の前の風景が切り替わった。なんか小部屋の中みたい。そこに机と椅子が2組置いてあった。片方はとても小さい。未就学児用かも。
「ねえね、ぼーけんは?」
「う、うん。多分だけど、その前にプレイヤー診断があるんだと思う」
ネタバレが怖くて、あまり前情報は入れてないけど。子供の性格とかに合わせて、作中に出るイベントも違うとか、そういう感じの記述は見た覚えがあった。その選定のための診断があるとも。
「アンケートみたいな物だね」
とは言ってみるけど、ももちゃんは良く分かってない様子。
取り敢えず、机の上にアンケート用紙みたいなのがあるから、アレをやれば良いんだと思う。なんか世界観がチグハグな気もするけど。
「だっこして!」
両手を伸ばしてくるので、脇に手を入れて持ち上げる。うう、重たいね、やっぱり。
「よいしょ!」
ももちゃんを椅子の上に座らせる。すると、椅子や机の方が勝手にちょうど良い高さに調整してくれた。ていうか、これもあのマットが変形してるんだよね。運動もそうだけど、座るとか寝転がるとかの動作も補助してくれるハズだから。
……やっぱりどういう技術なのか全く分からないから、ももちゃんに疑問を持たせないようにしないと。聞かれても何も答えられないよ。
私も自分の席に座る。と、そこで。隣のももちゃんが見えなくなった。掻き消えたというより、間仕切りがされたような。
だ、大丈夫だよね? 危険なゲームではもちろん無いから、何も変なことにはならないハズだけど。
「……多分、保護者がお節介できないようにかな」
子供の自主性に任せた、なんのバイアスも無い状態の性格診断か。
そういうことなら、私もアンケートをやってしまおう。ということで目を通してみると、
『アナタは犬派ですか? 猫派ですか?』
『よく優柔不断だと言われますか?』
などなど。ありがちな質問が並んでいた。いっつも思うけど、こんなんで本当に人の性格が分かるものなのかなあ。
……まあ、やらないと進まないんだろうし、やるけどね。
3分ほどで終わった診断。目の前に、『この内容で診断します』とメッセージが出て来て、その下に『はい』『やり直す』の二択が。
私は指先で『はい』の方を押す。するとすぐに画面が切り替わった。
「ねえね!」
と、横合いから声も掛かる。ももちゃんが椅子から下りて、駆け寄ってくる。ちょっとの間、私が見えなかったから怖かったのかな。と思ったら、
「ねえね、まいごになってた!」
あ、私が迷子判定なんだね。ももちゃんからすると。しょうがないなあ、という顔をしてる。
「ごめんごめん。それで、ももちゃんもアンケート出来た?」
「うん! ぜんぶかいた!」
それは良かった。
さてと。さっき切り替わった画面を改めて見る。ステータス画面みたいだね。
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名前:城下幸奈
年齢:20
職業:大学生
得意なこと:料理
子供をあやすこと
苦手なこと:地図を読むこと
性格:動物好き
温和
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おお。大体合ってるかな。名前とかの個人情報は、普通に入力しました。
続いて、ももちゃんのも見てみると。
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なまえ:しろしたももか
ねんれい:3
しょくぎょう:ほいくえんじ
とくいなこと:ねんど
めいろ
ぱずる
ぷてらのどん
にがてなこと:うんどう
せいかく:くいしんぼう
あまえんぼう
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ももちゃんにも読めるように、平仮名表記なんだね。
「ももちゃん、ほら。くいしんぼさんって書かれてるよ?」
「ちらない」
ちらないハズないんだけどなあ。バッチリ書いてるのに。
くいしんぼ丸出しのほっぺをモチモチしてると、キャラメイクをするかどうかの選択肢が出た。小さい子供とのプレイでは非推奨(家族が知らない顔になるとギャン泣きする子が多い)らしいので、『いいえ』を選択した。
すると一瞬の暗転を挟んだ後、再び景色が切り替わった。
「わ」
驚くももちゃん。私もビックリだ。
ここは……お城? の前かな。石造りの大きな白い建物を見上げる。中央の大きな棟と、尖塔のついた左右の小さな棟。
少し遠くから見ている状態っぽくて……私は自分の立っている場所を確認する。城へと続く道、石畳の上みたいだ。視界の上部に『まずはお城に向かおう』と出ている。これは……ゲームの本編が始まったということかな。
「ももちゃん、あのお城行ってみよっか」
「おしろ? あのおっきなの?」
「うん」
「ももちゃんがみたことあるのと、ちがうよ?」
おお、よく覚えてる。半年くらい前に、小田原城に連れて行ったんだよね。
「アレはね、外国のお城なんだよ」
「がいこく?」
「うん。ももちゃんが見たのは日本のお城で、あそこにあるのは外国風のお城」
「ふうん」
多分あまりよく分かってない時の生返事だ。まあ、とにかく進もう。ももちゃんと手を繋いで、石畳の上を歩き始める。ていうか、靴も履いてないのに、靴裏越しの硬い感触が。本当凄いね、この技術。
やがて城門前までやってきた。木造りの、私の身長より遥かに高い門。
その前には兵士らしき人が左右に2人立っている。見張り番だね。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶してくれるので、
「こんにちは~」
と返すけど。ももちゃんは鎧姿が怖いのか、私の後ろに隠れてしまう。ちっちゃく「ちは」みたいな声は出してるので、完全に逃げの体勢ではないんだろうけど。
「冒険者志望の方ですね?」
「どうぞ、お通り下さい」
このゲームはプレイヤーが冒険者になって、クエストをこなしながらエクササイズ。というのがコンセプトだからね。私たちも、その扱い(まだ志望段階らしいけど)みたい。
門が開け放たれる。奥には緑一杯のお庭が広がっていた。




