3ー2:思わぬ妨害
服や布、木製品や紙類は燃えるゴミ。鉄類は燃えないゴミ。分別までは言われなかったけど……長年のクセでやってしまうよね。
それにしても腰が痛い。前屈みで作業するからだ。
ももちゃんは身長が無い分、そこまでではないみたいだけど。それでも疲れるよね。
「いよいしょ!」
――ゴン!
「いよいしょ!」
――ゴン!
あっちは杭を打ち込んでる。あれは私の腕力では逆立ちしたって出来ないなあ。
「おもち?」
「ん? ああ、餅つきみたいだね、確かに」
杭を支えてる人と、ハンマーを振り下ろす人。構図としては似てるね。
「私たちも、あと一息。頑張ろう」
大体は集め終わったし、大物の椅子とかは、あのハンマーで砕いてもらわないと、袋には入らないから後回し。残りは本当にあと少しだ。
と。再び視線を地面に落としたところで。
「ん?」
穴を見つけた。不自然に開いた穴。直径20センチないくらいだけど。
「なんだろう、これ」
「せみさん!」
「セミさんの穴は、もっと小さいよ」
これはもっと大きな……動物?
と。穴の奥から何かが出てきた。勢いよく飛び出してきて、私の眼前に迫ってくる。
「わあ!」
覗き込んでいた体勢から、仰け反ってしまう。その時に少しだけ、相手の姿が見えた。少し長い体と、茶けた体毛。
その正体を確かめる前に、私は尻餅をついてしまう。
「いたっ!」
ただ、そうしながらも目は飛び出してきた物体を探す。居た。穴にまた潜って行ってる。お尻しか見えないけど……
「モ、モグラ!?」
だと思う。私も実物を見るのは初めてだから自信は無いけど。
そこで、杭打ち班の方もにわかに騒がしくなる。
「モグラだ!」
「いってえ! 引っ掻かれた!」
「ここにも穴があるぞ!」
あっちにも出たんだ。こっちの1体と合わせて、最低でも2体のモグラ。
「ももちゃん!」
私は立ち上がり、ももちゃんを抱っこする。近くに……他の穴は無いね。良かった。
「ねえね、もぐらって? なに?」
「動物さんだよ。おじさんたちが引っ掻かれちゃったみたい」
取り敢えず、あっちに合流しよう。デグルスさんに指示を仰がないと。
「デグルスさん!」
駆けていくと、彼もまた地面を油断なく見つめていた。
「おう。そっちは無事か?」
「はい。1つだけ穴があって、そこから飛び出してきましたけど……避けれました」
華麗に避けれたというより、ビックリして尻餅ついたら、結果的に躱してたっていうのが正確だけど。
「モグラ、ですよね?」
「おう。去年はこんな連中、居なかったんだがよぅ」
去年の百花祭後から、今年のこの時期までに住み着いたってことかな。
「引っ掻かれたんですか?」
「ああ、何人かやられちまった。とはいっても、大した傷じゃねえが」
周囲を見れば、その数人が傷口を押さえながら座り込んでいる。穴が無い場所に固まってるみたいだ。
「穴は何個くらいあるんでしょう?」
「ざっと見たところは、10くらいか」
いくらモグラでも、新しい穴を掘るには相応の時間が掛かるハズだから、取り敢えずはその数で考えとけば良いね。
「どうするんでい、団長」
「意外と痛えぞ、これ」
「俺も、もうゴメンだぜ」
団員たちの士気も下がってる。これはマズイね。
「役所に言って、駆除してもらうか?」
「毒餌だな」
「ちょっと可哀想だけど、仕方ねえ」
うーん。害獣対策は綺麗事だけじゃ立ち行かないのは私も理解してるけど……
そんな話を私たちがしていると。
「毒餌なんて、食べないモグ!」
ん? この場に居る人の声じゃないような。
みんな顔を見合わせるけど、やっぱり誰もがキョトンとしてる。
「こっちモグ!」
また聞こえた。声は下の方から……って、ええ!?
「モグラが喋った!?」
地中から顔を出し、少し眩しそうにしているモグラ。多分、位置的にも内容的にも、
「そうモグ! 喋るのは人間だけの専売特許じゃないモグ!」
やっぱり。
驚いて腰が引けてしまうけど。そうだった、これはゲームだったね。
「もぐらさんて、しゃべれるの?」
「ううん。ゲームだからだよ。現実のモグラさんは喋れない」
「ふーん?」
分かってない時の生返事だね、これは。いつか動物園にでも連れて行って、本物を見せてあげなくちゃね。
「喋れるなら、ちょうど良い。俺たちを引っ搔きやがって」
「どういう了見だ」
「鍋にして食っちまうぞ」
青年団もご立腹。あの鋭い爪で引っ掻かれたせいで、血も出てるしね。仕方ない。
「どうもこうもないモグ!」
「ボクたちの家が壊れるモグ!」
「いきなり杭が下りてきて、危うく刺さるところだったモグ!」
モグラたちも援軍とばかり、2匹増えた。やっぱり全員喋れるし。
「今から百花祭のためのステージやら何やら作るんだよ」
「オマエら、どっか行けよ」
「そうだ。いきなり住み着いておいて、家とか知らねえよ」
うう。一気に剣呑になっちゃったよ。どっちもケンカ腰すぎるよ。
ももちゃんが怯えたように、私の足元に隠れてしまう。
「こっちこそ、百花祭なんて知らないモグ」
「そうモグ。人間が勝手に決めたことモグ」
「とにかく、杭を打つのをやめて欲しいモグ」
どうしよう。このままじゃ、本当に血で血を洗う縄張り争いになっちゃうよ。
そんな風に私がオロオロしていると。突然、別の穴からもう1匹のモグラが現れた。
「「「長老!」」」
モグラたちが声を揃えて、4匹目を呼ぶ。
長老さんとか居るんだね。モグラの社会、どうなってるのか少し気になるけど。今はそれどころじゃない。
長老さんは、目だけで3匹を諌め、
「……人間たちよ。我らモグラ族の間では古来より人と揉めた時は、ゲームで決着をつけることになっているモグ」
「ゲーム?」
「うむ。ズバリ……モグラ叩きじゃモグ!」
モグラの長老は高らかに宣言した。




