3-1:不法投棄ですよ
今日も今日とて、『ブロッサム・クエスト』の世界にダイブする。またまたギルド前だ。
ステータス画面を見て、達成クエスト数とフラワーコインが増えていることを確かめてから。
「こんにちはー」
「ちはー」
姉妹でギルド建物内へと入る。パールさんも挨拶を返してくれて、という流れも少し慣れてきたね。
私たちは早速、掲示板を見る。前回お残ししたクエストが、そのまま貼られていた。
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No.2
<花見会場の設営>
依頼者:青年団団長デグルス
内容:イベントの設営。杭打ちやゴミ拾いなど。
報酬:7500G
フラワーコイン1枚
備考:街の西側にある百花樹の下に集合。動きやすい恰好で参加すべし。
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剥がして受付へと持って行く。
「おっきなおじちゃん?」
「うん。前回は助けてもらったけど、今度はおじちゃんが困ってるんだって」
「じゃあ、たすけないとね」
ふふ。一悶着あった『No.2』の順番問題。結果的には、こっちの順番でも大丈夫だったね。ももちゃんは優しい子だから。
「お願いします」
「はい。ありがとう」
パールさんが慣れた手つきで『受諾』のハンコを押してくれる。
よし、それじゃあ出発だね。
「西に抜ければ、すぐだよ」
去り際、パールさんが助言をくれる。
ギルドも街の西通りだから、そのまま西進ってことだね。
建物を出て、中央広場とは反対の方へ。流石に、これくらいは覚えてきたよね。ていうか、また矢印も出てるし。
ももちゃんと手を繋いで、ひたすらテクテク行く。あ、銀行は……まあ次で良いか。折角、西側だけで完結しそうな依頼だしね。
歩き続けていると、次第に人通りが疎らになってきた。街の外へと続く大門が見える。その手前には門番が立っていた。
「こんにちは」
「ちは」
「おや。冒険者か。街の外へ行くのかい?」
門番さんは私たちの胸のバッジを見て、そう訊ねてくる。
「くえすと」
「ああ。もしかして、百花祭のための設営かい?」
「ひゃっかさい?」
「知らないのか。毎年、百の花を咲かせる百花樹。その開花の時に祭をやるんだよ。花見客や出店で大いに賑わうのさ」
なるほど。日本で言うところの、お花見+夏祭りみたいな感じかな。確かにそれは賑やかそうだ。
ももちゃんはイメージが出来ずにキョトンとしてる。もう3歳だし、来年はももちゃんを連れて行ってみようか。というのは家族で話したことはあるけど。もしかしたら、夏が来る前にこのゲームで体験できちゃうかも。
「おかし、いっぱい?」
結局そこに行きつくんだねえ。
「ああ。お菓子だけじゃなくて、ご馳走も一杯だぞ」
門番さんが答えると、ももちゃんの目がキラキラになる。
「ももちゃんも、おまつり!」
「うん。そのためにはフラワーコインを100枚集めないとね」
ある意味では、それがコイン集め(つまりゲームクリア)へのモチベーションになってくれるかもね。
私たちは門番さんに挨拶して、街の外へと出る。するとすぐに、大きな樹が見えてきた。5メートルくらいあるかな。それこそ神社の御神木みたいだ。
街を囲う壁と大門の高さをもう少し下げたら、街中からでも見られるのにな。勿体ない。
「おっきいね!」
ももちゃんもビックリしてる。繋いでる手をブンブン振られて、ちょっと肩が痛い。
木の下に、既に青年団らしき人たちが集まってるのも見えた。う。みんな男の人か。現実だったら尻込みしちゃうけど、ゲーム世界だからね。臆さず行こう。
「こんにちは」
「ちは」
姉妹で挨拶すると、集団が一斉に振り向いた。うう、みんなムキムキで強面だ。
「おう、冒険者だな」
「よく来てくれた」
「キツそうって言って、誰も受けてくれなかったんだ」
「助かるぜ」
一様に歓迎されてるみたいだけど。出来れば私だって回避したい内容のクエストなんだよね。
「お。幸奈と、ももちゃんじゃねえか」
最後に奥から出てきたスキンヘッドのおじさん。
「デグルスさん。こんにちは」
「ちは!」
デグルスさんは、その大きな体をかがめて、ももちゃんの頭を撫でる。ももちゃんもフニャッと笑っていた。
「さてと。受けてくれたのは嬉しいけど……まあ正直、オマエさんたちに力仕事は厳しいからよ」
うん。こっちも別作業の方が助かります。
「ちょいとゴミ拾いをしてもらおうかな、と」
デグルスさんが、周囲を見回す。
確かに百花樹から少し離れた辺りから、雑多に物が転がってる。朽ちたフライパンや、ボロボロの衣類、酷いのは椅子まで落ちていた。
百花樹って、別に崇められてるとかじゃないみたいだね。樹のすぐ傍に捨てるのは躊躇われるみたいだけど、ちょっと離れた場所なら平気でゴミ捨て場にしちゃってる。
「ふほーとーき!」
「おお!? ももちゃん、よくそんな言葉知ってるね」
パパかママ、もしくはテレビかな。
しかし、ゲーム世界の中でも倫理の無い人は居るんだなあ。
「大物は無理しないで良いから、細々したのを集めてくれ」
デグルスさんが皮袋を渡してくる。
「了解です。ももちゃん、始めようか」
「うん。ふほーとーき。ふほーとーき」
褒められたから、嬉しくて繰り返してるんだね。
「あ、そうだ」
私は視界の端のタブをタップする。検索窓が現れるので、そこに『ゴミ拾い用 火ばさみ』と打った。
すぐに画像が出力される。
「ももちゃん、これ作って」
「ん? うん」
よく分かってないまま、カバンから粘土を取り出すももちゃん。そして画像と見比べながら、ちゃっちゃと作ってくれる。正直、これなら私でも作れそうなくらい簡単なフォルムだからね。
「はい」
粘土の火ばさみは銀に色づき、やがて感触や硬度もステンレスのソレへと変化した。
受け取って、カチカチ。
「あ! ももちゃんも」
残りの粘土で、もう1本作ると、ももちゃんもカチカチ。
パン屋さんとかでも、トングでカチカチするの大好きだもんね、ももちゃんは。
そうして。姉妹でやかましい音を立てながら、私たちはゴミ拾い作業に従事してくのだった。




