2-4:新商品戦略
美味しかった。ももちゃんも大満足のようで、小さい手足をパタパタさせている。それ、時々ねえね蹴ってるからやめて欲しいんだけどね。
「どうだったかしら?」
「凄く美味しかったです」
「おはなだけど、けーき! あまくてふわふわしてたよ」
まずは私たちの上々な反応に、オルディアさんはホッとした顔をする。
「アナタたちから見て、このケーキは売れると思うかしら?」
「味とか、見た目とか。そこは絶対問題ないと思います」
あとは値段だよねえ。手間暇が掛かる分、高くなるのは仕方ないんだけど、その程度だ。彼女の腕なら、普通のケーキも美味しいだろうし、お花の意匠に興味ない人はそっち買っちゃうかもだから……
「……」
ももちゃんが小さな指で、お皿に残ったクッキー生地を摘まんで食べている。
そうだね、子供は大喜びだから少なくともファミリーのお客さんは1度は買ってくれると思う。
「お値段は、どれくらいで考えてるんですか?」
「そうねえ。普通のショートケーキが銅貨4枚なの。これはその倍くらいをつけようと思ってるのだけど」
400円の倍で800円か。正直、現実世界でコレが800円なら買いだと思うけど。
「一応、銅貨7枚くらいのケーキも、それはそれで売れているの」
「なら、お財布的に出せない価格帯じゃないですね」
ただその700円ケーキは季節のフルーツを使った物らしく。季節限定という特別感+フルーツは高いという固定観念が働いている故ではないかと、オルディアさんは分析してるみたい。
「卵とか牛乳とか、こっちは原材料はあまり高くないのよね」
手間暇にどれだけ払ってくれるかの勝負か。この世界にSNSがあれば、デザインでバズらせるとか、そういう戦略も採れるんだろうけどね。
「ももちゃんは、このケーキとお夕飯だったら、どっちが好き?」
お夕飯もママは800円くらいで作ってると思うから、ちょうど比較になるかな。
「ん~~どっちも!」
聞き方が悪かったかな。
「ケーキかお夕飯しか食べられないとしたら?」
「ももちゃんのおゆはん……ないの?」
「あ、あるよ。あるけどね」
余計にややこしくなっちゃった。
私はももちゃんの頭を優しく撫でながら思案する。
「……新発売記念でお試し価格、ですかね」
「ちょっと下げるのね」
「限定ですよ。それで固定客がついたら、ジワジワ8枚に戻す」
「銅貨7枚で売り出して、次は7枚と青銅貨5枚とかね」
あ、青銅貨とかもあるんだ。1枚10円だね、多分。
発売記念で値札の8枚の所にバッテンを打って7枚と書いて出す。味やデザインを気に入ってもらえたところで、青銅貨5枚分値を戻す。最終的には8枚へ、って感じかな。
「7枚でまず買ってくれるか。買ってくれて固定客になってくれたところで、5枚分上げてついて来てくれるか」
「そこら辺がカギですね」
飲食店経営には色んな方策があるけど、結局これなら絶対大丈夫っていうものは無いんだよね。当たり前だけど。
最終的には、実際にやってみてお客さんの動きを見てみて、ということになる。特に新商品に関しては、あまり芳しくないようだったら、損切りも視野に入れつつだね。
というような話をすると、オルディアさんは感心したように頷いて、
「幸奈さんは、こういうの詳しいのね」
「大学で少し……」
言いかけて「大学」が分からないかと思ったけど。
「なるほど、凄く高度な教育を受けているのね」
こっちにもありそうだね、この口振りだと。そういえば、中世ヨーロッパでも大学はあったっけ。
「……くえすと、おわり?」
大人たちの会話をジッと邪魔せずに聞いていたお利口さんが、おずおず割って入って来た。
そうだった。試食して感想を言うまでが依頼内容だったワケだから、これにて達成ということかな。
「ええ。今日はありがとう。とても有意義だったわ」
オルディアさんからもお役御免が告げられる。やった。2個目のクエスト完了だ。
「かんたん!」
そうだね。今回のは超簡単だった。というか、なんかほぼ一方的に私たちが得しただけだったし。こんな美味しいクエストがあって……
「大変だー! 大変だよー!」
突然、通りから大声が聞こえてくる。
え? な、なに?
「大変だー! 馬車が事故だー!」
馬車の事故。いきなり剣呑な空気だ。ももちゃんだけは状況が分からず、キョトンとしてるけど。
「馬車……私の夫が乗っているものかも」
オルディアさんが呆然と呟いた内容に、ギョッとしてしまう。え、ま、まさか。いや、基本的に子供向けのゲームだし、人死になんて無いと思うけど。
「っ! アナタたち、ごめんなさい。報酬はギルドに預けているから!」
オルディアさんは矢も楯もたまらず、店を飛び出して行った。暴れ回るカウベルが、けたたましい音を鳴らす。
ももちゃんもよく分かってないながらも、大人たちの血相を変えた様子を見て、不安げにしている。
「ももちゃん。オルディアさんの旦那さんが、事故でケガしちゃったかも知れないんだって」
「いたい、いたい?」
「うん。まだ分からないけど、そうかも知れないから、オルディアさん走って行っちゃったの」
ももちゃんがジッと考えてる。
「どうしよっか」
「ももちゃんも」
「ん?」
「ももちゃんもいく。ねんどでおたすけするの」
ああ、優しい子。私は思わず、その小さな体をギュッと抱き締めて、後ろからほっぺにキスする。
クエスト終わりの追加イベントという配置からして、報酬と人助けを天秤にかけさせる意図だったのかな。大人でも「仕事は終わったから自分には関係ない」と帰ってしまう人も居るだろうけど……ももちゃんは選んでくれた。
「じゃあ行こう。何か出来ることがあるかも知れないもんね」
ももちゃんを抱き上げ、席を立つ。食器類とかそのままで申し訳ないけど、私たちも店を出る。周囲の人に聞き込んだ結果、現場は街の東側だと分かった。例の橋の近辺だという。
「急ごう!」
ももちゃんも抱っこをせがまず、自分で走ってる。小さいストロークながら、懸命に。
やがて。東通りを抜け、橋に差し掛かる。そこで人だかりが見えた。現場は騒然としてるみたいだった。




