2-3:いざケーキ屋さんへ
東通りに入って、昨日の魚屋さんまでは行かない辺り。小さなケーキ屋さんがあった。レンガを組んで作られた外装に、少しレトロな木の看板。丸っこいデザイン窓が可愛らしい。
「けーきやさん!」
ももちゃんが再び私の手を振りほどいて走り出した。背伸びしてドアノブを両手で掴んで回す。そのままノブに吊り上げられるようにして、引き開けた。
こういう時は、本当にアクティブだよね。
私も追いついて、ももちゃんと一緒に店内へと入る。カランカランとカウベルが鳴って、店員さんがこっちを見た。線の細い女性だった。顔立ちはアジア系じゃないけど、黒い髪に黒い瞳をしている。
「いらっしゃい……あ、冒険者さんね」
私の胸元のバッジを見て、素性を察してくれた。ちなみに。当然昨日とは違う服を着てるけど、ゲーム内では勝手に装着済みでアップデートしてくれている。着けたり外したりで紛失するリスクが無くて助かるよね。
「こんにちは」
「こんにちは!」
うわ。ももちゃんの挨拶が力強い。ゲンキンだなあ。
「依頼を受けて来てくれたのね。あら、こんなに小さな冒険者さんも」
狐顔の美人さんが優しく微笑んで、カウンター越しにももちゃんを見下ろす。
ちなみに、このケーキ屋さんは日本で見るようなガラスのショーケースは置いていない。むしろパン屋さんの造りに似ていて、商品台を店の外周に沿うように置いて、そこにケーキを乗せている。店の真ん中にも離れ小島みたいに小さな台が置いてあって、お客さんはその小島と外周の間の通路をクルクル回って商品を選ぶ形になるみたいだ。
「ももちゃんは、ももちゃんです!」
なに、その自己紹介。私は思わず噴き出してしまう。
「あら、ご丁寧にありがとう。私はこのパティスリーの副店長、オルディアです。よろしくね」
っとと。ももちゃんを笑ってたら、私だけ自己紹介に出遅れてしまった。
「私はももちゃんの姉で、幸奈と言います。今日はよろしくお願いします」
オルディアさんは私にも柔和な笑みを向けてくれる。カイルくんも良い人だったけど、今回も優しそうな依頼者さんで良かった。
「けーき!」
「こら、はしたないでしょ」
モチモチほっぺに人差し指を突き刺してやるけど、
「や~~! ふふ、ふふ!」
じゃれついてきたと思われてる模様。
「あらあら」
「すいません。まだ幼いもので」
「良いのよ。子供は素直が一番なんだから」
言いながら、オルディアさんがカウンターから出てくる。扉の近くに立つももちゃんの頭をそっと撫でてから、店の玄関扉を開けた。そして『CLОSE』の立て看板を出してしまう。
「一旦閉店ね。さあ、新作のケーキは既に作ってあるから、食べて感想を教えてね」
ももちゃんの顔がパッと輝く。内容の全部が分かってるワケじゃないと思うけど……ケーキを食べさせてもらえることは理解してるので、
「~~♪♪」
体をくねらせて喜びのフニャフニャ。私にまとわりついてくる。
「全くもう……食いしんぼさん」
そんな私たち姉妹のやり取りを他所に、オルディアさんはカウンターの奥へと引っ込んでいく。そして戻って来た時には、銀色のトレーを持っていた。遠目だけどケーキが載っているのが見える。
「ももちゃんも! ももちゃんもみる!」
ドンドンとその場で飛び跳ねて抗議する3歳児。
「こらこら。ホコリがするから、暴れないの」
捕まえて抱っこする。私の胸の高さまで来れば、ケーキのご尊顔も拝めるでしょ。
と。オルディアさんは、こっちには来ずに店を横断。窓際のテーブル席にトレーを置いた。あ、あそこイートインスペースなのか。陳列台の上のケーキに気を取られてたから、気付かなかった。私もあんまりももちゃんのこと言えないかも。
近寄って行って、そのテーブルに着く。子供用のハイチェアも出してくれているので、そこにももちゃんを座らせた。テンションの上がった甲高い声。私も思わず、
「わあ……」
感嘆の声をあげてしまった。
ケーキはバラの花の形をしていた。クリームを上手く絞って作ってるんだね。白い生クリームが繊細な陰影を生んでいて、本物の花みたい。
ブロッサムシティでお花のケーキかあ。こんなの食べる前から大ヒット間違いナシって感じだけど。この世界の技術水準で、これほどの物を作れるって……オルディアさんって天才なんじゃ?
「……」
ももちゃんも、その造形の美しさに見とれている。ていうか、もしかしたらこれがケーキだと認識できてない可能性も。
「紅茶で良かったかしら?」
「え? あ、ああ。ありがとうございます。妹はミルクで……お願いできますか?」
別で用意してもらうのは心苦しいけど、ももちゃんに紅茶は早いからね。
「分かったわ。淹れてくるから、先に食べていてちょうだい」
そう言い残し、再び店奥へ消えるオルディアさん。お言葉に甘えて、ももちゃんと2人でフォークを握った。流石にフォークは幼児用じゃないみたい。慣れないと落とすかも知れないから、
「ももちゃん、こっちおいで。ねえねが食べさせてあげる」
折角、幼児用ハイチェアを用意してもらったのに、結局二人羽織で食べることになっちゃったね。
ももちゃんを持ち上げて、膝の上に乗せ直す。
「ねえね、これおはなだよ?」
ああ、やっぱり。なんか大人しいから、そうだろうと思ってたけど。ももちゃんは、これをケーキと認識してないみたいだね。
「ふふふ。じゃあ、ねえねが先に食べちゃおうかな」
私はフォークを縦にして、ケーキを切り分ける。そしてそれを刺して、そのままパクリ。うん、美味しい。生クリームもなめらかで、バニラの香りが効いてる。ケーキ部分もフワフワスポンジに、底は柔らかめのクッキー生地みたいだ。3層が見事に調和してて、現実で食べる洋菓子と全く遜色ない。
そして、ももちゃんはというと。
「っ! !?」
このお花こそがケーキだったことに気付いて、ビックリした表情へ。そして「ねえねだけズルい」と言いたげに変わって、次いで残りのケーキに目をやった後、せがむような目を向けてくる。忙しいね、あなた。
「はい、ももちゃんも」
またフォークで切り分けて、1口分。それを妹の口元へ運んだ。頃合いでフォークをお口から引き抜く。
軽く横から覗き込んだ。ポニポニとした頬と、そこにケーキが詰まったことで押し出されるように△に尖ってる唇。食べてる時は、本当まだまだ赤ちゃんだよね。
そうして姉妹揃ってケーキを味わっていると、オルディアさんがティーポットとカップを持って来てくれた。食後にそちらも頂いて……2人でご馳走様をしたのだった。




