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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

爆発王<ヒーラー>

掲載日:2025/09/09

ギャグ要素とギリギリのパロディ要素が強めな作品になってしまいましたが、本作品は至って真面目なつもりであります。少女向けに書いた王道少年バトル・ファンタジーを目指しました。楽しんで頂けると光栄です。

題:爆発王 <ヒーラー>

著:シャキーン・O


神聖ニルニア王国魔導法: 魔導の者十ヶ条


1・魔導の者は王となる資格を持たない。

2・魔導の者は領地を持つことを許されない。

3・魔導の者は政治に関わってはいけない。


4・魔導の者は魔洞窟攻略の功績を得る権利を持つ。

5・魔導の者は魔洞窟内でお互いの殺生を禁ずる。

6・魔導の者は魔洞窟発見の際に名付けの義務を持つ。


7・魔導の者は命を延命させてはならない。


8・魔導の者は妖精を傷付けてはならない。

9・魔導の者は己の神を信仰してはならない。


10・魔導の者は王に忠誠を誓うこと。



序章: 魔洞窟<ダンジョン>


イセロラは委縮していた。

化け物<モンスター>の巨大な黒い影は魔洞窟<ダンジョン>の中で一層に恐ろしく感じる。


「ヒーラーッ!!!!早く回復魔法をっっ!!!!!」

その声を聴く最中、腕が弾ける音を立てて破裂するのを直視した。ほんの2メルテル先のことで、それが自分の腕でない事だけは、分かった。腕が顔を横切って吹き飛んでゆきながら、自分の顔は血に濡れた。


イセロラは凍りつきながら思う。早く、回復魔法を発動しなければ。



第一章: イセロラ・バーンシュタイン


イセロラは、緑色に輝く鉱物で、魔性を帯びているという。その美しい輝きは聖霊を魅了し、あらゆる精霊をも傘下に置くという。魔導師たちは、それ故にイセロラの持つ魔法特性に魅了され、その美しい結晶を求めた。


イセロラ・バーンシュタインは、生まれ持った輝く緑色の瞳を理由に、実母がそう名付けた。聖霊を魅了し、精霊を傘下に置く、輝ける魔道師であれと、願いを込めて。


イセロラは、そうやって生き、育てられ、自分は魔導師になるのが人生と思い切りながら生きてきた。


幼い頃は、全てが自由になり、自分は期待通りに育ち、全ては上手くゆくように出来ていると信じて生きてきた。溶けるように曖昧に時間は過ぎて行き、自分はこのまま、思った通りに生きてゆくんだなぁ、と思いながら育った。


魔導学校に入学した当初、そして初めて初等科の実技演習を終えたとき、イセロラは、自分が落ちこぼれであると確信した。マギ・やべぇ。イセロラはマギ・やばイ、とそう自分に言ってしまった事を、一生忘れない。


「お母さん、忘れないっっ!!ちっちゃい頃はあーーーーーーーんなに優しかったのに、なんで魔導学校に入ってからグレちゃったのかしら」

イセロラの母パスタは言う。そしてイセロラは母の焼いた朝食のトーストをかじりながら思う。グレてねぇ。

「もう魔法を扱うのが待ちきれないって感じで妖精さんとお話しする優しい子だったのに、なんでこんな、マギ・ヤバい子に育っちゃったのかしらねぇ、もうっ」


マギ・ヤバくないから。イセロラは思う。それよりもマギ・ヤバいのは自分の成績。魔導学校ではエコひいきのイセロラだの、チートのイセロラと呼ばれ、実技試験までわずか二週間ときているのに、ろくな回復魔法<ヒーリング>さえ発動不足な魔導技術を持つ自分の魔法への才能のなさに呆れる。マギ・ヤバ過ぎてダンジョンがあったら入りたい。しかし、実技試験は本当にダンジョンに入ることになる。十年に一度は死者がリカバリーできずに、魔結晶化したなれの果てで回収されている。そして、ここ十年、結晶化した死者は一人もいない。


「マーギ・やばくってしょーがないわ、このこ、マーギマギどーにかしてくれないとマギ・ご近所さんの視線が痛くてお母さん肩が凝っちゃってマギ・大変なのよねー。マギもーほんとどーにかしてくれないとお嫁さんの貰い手もいないままずーーーっとマギ・ダンジョンの暗い職場でくらーく化け物さんたちとマギ・死にそうになりながらくらーーーく回復魔法とか唱えてマーギもーほんと…」

「マギマギ・うっせぇよっっ、クソババァ!!!!!!!!!」

イセロラは怒鳴った。

「それよりもマギ・やっべぇのは成績と今度のダンジョン入りなんだよっ、こっちとらマギで死ぬかもしんねんだよ、回収されずにクリスタル化してクラスメートに祀られるハメになっかもしんねんだよ、クッソババァの都合なんかマギで知るかってんだ、クソババァッッ!!!!!」


苛立った声を聴き、イセロラの母パスタは思わず一回転して驚きを見せ付けた。フリルの付いたエプロンはキッチンの前でふわりと花のように舞った。

「なにようーー、イセロラちゃんに魔導のセンスないのは自分のせいでしょっ!!!ママのせいにしないでっ!」

「誰もテメェのせいにしてねーだろっ、なに寝ぼけてんだ、つーーかハナシマギで噛み合ってねーんデスけどっっ!!!」

イセロラの苛つきに、母は対応する。

「キャーーーーーーーーーイセロラちゃんがまたクソババァっていったーーーーっ!!!マギ・モンスターチルドレンに成長してママ泣いちゃうーーーーーーーっっっ」


イセロラ・バーンシュタインは叫んだ。

「さ、さっきは言ってねーーだろっっ!!!クソババァッッッッッッ!!!


イセロラ・バーンシュタイン。17歳。まだ乙女のキスも知らぬ、三日の停学が開けたばかりの問題児。クラスメートを殴った右手と左手が、まだほんのり痛かった。



第二章: パンク・キッズ


「ちょっとーーーーー、イセロラー、右手と左手、ワンツーでノックアウトしたんだってー?」

ミューミューは自分の黒髪を尻尾のようにいじりながら、後ろから近づいてきた。


停学明けに語りかける親友は興味津々、やっとのことか、と言わんような顔つきで聞いてくる。

「ぁんだよ、っぜーーーなっ、ケツでも磨いてろっ」

イセロラは一筋の薄青い髪が走る金髪を手でさらりとなびかせ、威圧するかのように横目で見やった。

「やーーよっ、こっちはイセロラちゃんの話でー、ずーーーっと持ちきりだったんだから、もう、当事者のインタビューがしたくてみんなうずうずなのっ」

ミューミュー・キーストーンは名家のお嬢様で、優秀過ぎるほど優秀な魔導士だった。十年に一度の落ちこぼれと言われるイセロラにご就寝なのは、誰の目から見ても明らかだった。

「テメー、停学明けに語りかける一言目がそれかよ、イイ性格してんなぁ」

イセロラはクラスまでの廊下をミューミューと同じ歩幅で歩き始める。

「あたしゃーな、もーマギで学校追放か、ジョン逝きでタルクリスになっかもしんねーーーんだ、てめーにこの気持ちが分かるかぁ?」


ふてくされるイセロラに、ミューミューは後ろから抱きついた。

「きゃーーーーっ、そしたら、あっしがーイセロラちゃんのクリスタル着てあげるっっ!!相乗効果、わんりょくぷらすにーーーーっっっ!!!」


イセロラはミューミューの頭を軽く掴み、ブンブンと振り回そうと、身体ごと回転しようとする。

「ばーろーっ、テメーそこはプラス2万オーバーの、ゲンカイトッパだろ」


回転しながら、笑いながら、二人は廊下を歩いた。


イセロラとミューミューは魔導学校に入ってからすぐに打ち解けた。まるで自然と、磁石のように、気が付いたらミューミューはイセロラの周りをいつもうろつき、イセロラは彼女がいないと周りを詮索するかのように学校を徘徊した。

魔導学校は、10歳になる頃から入学し、そして8年の歳月をかけて一人前の魔導師を育成する。そして実技試験を最終試験とし、合格者を無事、卒業として学務を終了する。この時、近隣の兵士養成場の育成試験と合同して、合同の卒業試験となっている。魔法を操作、または探知する者などは魔導学校マジック・アカデミア、通称「マ・カデミア」、を目指し、そうでないものは農家や商業の実家を継ぐのが当たり前だった。兵士として若くから育成される兵士養成場、通称「ブタ小屋」は、捨てられた子や行く宛のない子供たちでいっぱいで、格差社会の構造を反映した。


イセロラとミューミューは、抱き合いながら、お互いに歩くのを邪魔しながら、クラスへと到達する。うふふ、えへへ、と笑いながら一緒に扉を開けると、いきなり演説が始まっていた。


「我々はっ、エッリィィーーーットッッであるっっ!!!!!」

教壇に立っていたのは、やたらと偉そうにしている初めて見る男性。教室の扉を開けて入ってきた二人に目も配らず、淡々とクラス全員に向けて声を放っていた。


「貴様らはっ、実に400分の1の確率で入学している社会のトーップである!!」

藍色の青い髪。血統貴族と呼ばれる人種なのは明白だった。


「卓越した魔導の技術こそがっ、貴様らに求められることでありっ、それ以外の事はっ、クソほどにも役に立たんことをっっ!!!常に自覚する必要があぁるっっっ!!!!!」

ミューミューはイセロラに半分乗りかかるように引っ付いたまま、硬直していた。イセロラはいい加減、重く感じていたが、目の前の出来事に対して同じく固まっていた。


「このワタシッ、ザ・キッシンジャーがっ!!!王家魔導技術指南役、つまり、マギ・マスターがっっ!!!貴様らのトクベツッ講師としてっっ!!!来たからにはっ、泣き言を言う時間すら与えられていナァッイっ事を自覚するべきだっっっ!!!!」

そう言うと、いまさらか、というようなタイミングでキッシンジャーはクラスの入り口に固まったまま立っている二人に向けて顔を動かした。その岩巨人<ゴーレム>のような感情のない動きに、イセロラは背筋を凍らせた。


キッシンジャーは見下ろすような目でキツく言い放った。

「貴様らか。パンク・キッズ」


イセロラは直感した。苦手なタイプだ。

魔導士<メイジ>とは魔導を一定以上極めた者の総称である。魔導というものを理解し、魔法の基本理論と事象にまつわる構造を意のままにコントロールする。その中でも、あらゆる属性に精通し、精霊の感情を理解し、卓越した魔導により魔法を誘導する者をマギ・マスターと呼ぶ。彼らは王家のために新魔法の開発や、貴族の魔導指南などを生業とし、貴族と同格として国に奉仕した。


「エッリィィーートの中のエリィイートッしか入れない、このロイヤル・マ・カデミア、十年に一人の落ちこぼれ。貴様の事はよく存じているぞ、イセロラ・バーンシュタイン。そして十年に一人の逸材と言われるミューミュー・キーストーン『さん』の事も」

嫌味っぽく余分な事を言うヤツだと、イセロラは思った。


「そんな落ちこぼれといつまでも一緒にいると、いい加減、格がサガリますヨ」


マギ・マスター、メイジ・キッシンジャーはまるで石のように言った。



第三章: 実技


朝の実技指導は各自各々の魔法属性に基づいたクラスに分かれて行った。マギ・マスターが「特別講師」として一日中授業に参加し、合同指導するという事になり、イセロラはキッシンジャーを眼前に迎えながら白魔導士<ヒーラー>のクラスの授業開始チャイムを聞いた。


イセロラは問題児であるため、常に最前列の席に座らせられている。そしてキッシンジャーはイセロラを四歩ほど離れたところから凝視していた。


「魔っ法ぅぅぅぅっっはっっっ!!!!!!常にっっ、発動しているッッッ!!!!」

チャイムと共にキッシンジャーは叫んだ。そして猫のように驚くイセロラから目を離さないまま彼女に一歩近付いた。


「はいいぃっっっ!!!!バーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッシュタインっ君!どういう事か、答えなさい!!!!!」

間髪入れぬ叫びながらの問いに、イセロラは思う。キッシンジャーの目はまるで昨日の晩飯の魚のようにぱっかりと開いている。コイツは、マギ・ヤベェ。


そして、クラス全員の注目はイセロラに集中した。そして一秒が経過した。イセロラは錆びついたブリキ人形のように首を回転し、それほど仲良くないクラスメート達の反応を見ようとした。そしてまた一秒経過し、イセロラは気付いた。


みな、晩飯の魚の目をしながら、助けは一生来ないよ、とイセロラに無言で語っていた。


ここで首がもげる一歩手前の石像を思い起こさせるように、イセロラはキッシンジャーの方にまた振り向く。声をきりきりとネジの擦れるように、イセロラは必死に答えをかすり切れるかのような音で放った。


「よ、よよよ妖精さんが…踊っているから…?」まるで錆びついたオーロラに音がついたような声であった。


一瞬の間を入れた後、物凄い音と共にイセロラは光る銀色の何かではたかれた。

「せいっっかいッだっっあああぁーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

キッシンジャーの怒れる叫びと共に、キラキラと輝く何かは彼の手から出現していた。クラスの皆々は、イセロラの頭から発生したけたたましくも、気持ちのいい音に無言のまま硬直した。それよりも正解の意味が分からなかった。

「っってぇえーーーなッテメェッッ!!!なにすんだぁコラーーーーーーーーーッッ!!!」

イセロラは野犬のように吠えた。キッシンジャーはたじろぐ事なく、必要ないくらいに大きな声のまま言った。

「実技指導だ!!実技をもって貴様に、正解のご褒美として光魔法を伝授してやったのだ。ありがたく思え。チッ…」

悔しそうに言うキッシンジャーにイセロラは困惑しながら返した。

「ど、どどど、どうやったらそんなんで覚えるんだ…」


キッシンジャーはイセロラの言葉を聞いていないような口調で淡々と喋る。

「受ける事で特定の魔法は身体に覚えさせることができる。幼少の頃、感覚的に魔法を発動させる者が多かったはずだ。そしてこれは魔法属性のなかでも神聖と言われる光魔法。全ての悪を照らし、世に希望をもたらす、マギ・マスター、ワタシッ、のような高潔の魔導師は扱えて当然っ。貴様のような素人同然の落ちこぼれならば100年かけて会得する事のできる高等な魔法なのだ。その中でもこれはワタシッ、が開発した新たな光魔法。その開発には王都魔導師最高位の一人、つまりワタシッの最高クラスの才能とっ、最高クラスの頭脳が重なり初めて可能となったのだ。その威力は、今まで数100年過去に遡っても同格のものは存在しないとワタシッが断言するものでー」


全ての生徒は固まっていた。

そしてキッシンジャーが一人語るなか、クラスのドアがいきなり開くと、朝の白魔導担当教師である桃色栗毛のメイジ・シャーロット先生が入ってきた。

「あ、あれぇ?」とシャーロットは呟き、誰も動かぬ石像の群れと化した自分のクラスを茫然と見つめた。


そしてキッシンジャーは続ける。


「眠ることさえ惜しみ、王のっ、我が王のためにこそと思い遂に完成させたその魔法は発動と同時に余りある神聖エネルギーが噴き出る現象、つまり輝きを放ち闇の者の目をくらますのだ、そして折り重なる感情を平常化、つまりフラットにしながら畳むことでマギ・アンプルと呼ばれる魔力増幅効果を発動させ、そしてその感情に依存する条件から詠唱と魔導陣構成破棄、つまりインスタント・マギとしてこの世に現れる、悪しき者にこそ使われていれば、まさしく身体の隅々の箇所が爆発するすさまじい威力を持つ、意識と感情が最高潮に昂った時のみに発動する!!!それこそがー」


キッシンジャーの持っていたそれは、輝きをより一層放った。

そしてキッシンジャーは、その輝く平たい魔法を神々しく振り翳し、学園を響かせるかのような声で言った。

「光魔法!!!!ハリセンだっっっ!!!!!!」


「っっっっざっけんなぁーああああああっっ!!!!」

イセロラの手からは輝きとともに、見事な金色のハリセンが現れ、そしてそれは見事にキッシンジャーの顔面を光と眩きと共にぶっ叩いた。それは、まるで天使が破裂したかのような神々しい音だったと、後のクラスメートは語った。



第四章: 合同実技


イセロラは教員をぶっ叩いた罰として教室の隅に立たされていた。魔導学校の体罰は主に水の入ったバケツを両の手に持たされ、水面を揺らさぬ事を精神安定の指導として都合のいい言い訳のもと行われた。イセロラのバケツは縁限界までたっぷりと水が注がれ、揺れ動き水が揺れるたび溢れ、溢れた水は魔法で補充された。


ミューミューは声を必死に押し殺しながら笑い続けている。

朝の第二授業は属性を混合させた合同実技の演習で、黒魔法と呼ばれる風水地火の4属性を主に扱う黒魔導師との合同実技訓練を行う。先ずは屋内の教室で訓練内容の説明、工程、並びに目的を教員が説明する。この時、質問などを終えて班に分かれる。

ミューミューはプルプルとイセロラの手が震え、水が溢れるたびに笑いが噴き出て、机をバンバン叩いた。キッシンジャーは昏倒して気絶中であるがため合同実技訓練担当教師はメイジ・シャーロット、そして学院老教員と呼ばれる古参のお目付役マギ・マスター、メイジ・パーラッセルが特別に授業を担当した。


「ーつまり、えーと、そういう事なのでぇ、みなさん分かったかなー?」メイジ・シャーロットは言った。


桃色栗毛のシャーロットはみんなの人気者。気が利き、優しく、いろいろな事を知っている。メイジ・シャーロットは、生徒全員から『シャーロット先生』と呼ばれ、いつもランチは生徒に囲まれた。26歳、独身。タイプの男性は優しい人。しかしそんなシャーロット先生の言葉よりも、ミューミューは隅に立たされた親友が面白くて仕方なかった。教壇から斜め後ろに配置された親友の姿がツボにはまる思春期であった。

そしてシャーロット先生の説明が終わると共に、バケツがついに重くて持てなくなり、イセロラの筋肉は事切れるかのように一切を諦めた。重力をふんだんに使い、水のぶちまかれた床を見ると同時にミューミューは、遂に大声で笑いながら席から転げ落ちた。


「質問はなさそうですね」とメイジ・シャーロットが言うと、イセロラのこぼした水は宙に浮き、床に転がったバケツに入り込み、そしてそれをくるりと立たせた。イセロラは懲りたというような顔つきでふらふらとミューミューに向かう。


そしてマギ・マスター、メイジ・パーラッセルの先導の元、屋外の演習場に出ると、4人ごとの班に分かれた。小隊規模の基礎訓練で、白と黒魔導の基本連携を行った。

先ずは防御魔法を白魔導士が発動させる。生命を活性化させる白魔法は、身体の細胞すらにも影響を施す。一時的に筋力を増大させることや、身体を硬くしたり、傷の治りを数100倍早めるなど、非常に便利な特性を持つ。

そして守られるように囲まれた黒魔導士の詠唱が始まる。精神を統一させ、大気中の精霊を感じ取り、それらに語りかける。その詠唱は、一定の瞑想状態<トランス>でのみ有効になり、精霊の気を借りなければ魔法は発動できない。そして精霊の命の輝き<マナ>を導き、自然を湾曲させ、ありとあらゆる超自然事象<マギ>を引き起こす。


「ちょっとイセロラッ!!!あたしに魔法かけようとしないでっ!!爆発するじゃないっ!」

クラスメート、アイリィ・シャーリィはキンっと凍りつくような声でイセロラに言い放つ。

イセロラは怒って言い返した。

「ざっけんな、テメェ、それじゃ訓練にならねぇだろっ、ふざけてんのかテメー」


しかしアイリィは自分がまるで悪くないという素振りで腕を組みながら言った。

「アナタっ、聞いたわよ。回復魔法のカエルの実験で、100匹のカエルさん達を爆発させたそうじゃない」真実であった。


アイリィは続ける。

「本来ならカイフクッをしてあげて、生き返らせたりするクラスに、なに黒魔法エクスプロージョンさせてるのよっ」しかし実際、イセロラは手順通りやっただけであった。


アイリィは続ける。

「それでカエル実験の三ヶ月の補修こないだ終わったばかりって聞いたわ、信じられない。カエルさん達みんな爆発させちゃったからじゃない!!!みんな知ってるのよっ、カエル殺しのイセロラって!!」異名は『カエル殺し』に決定していた。


アイリィは続ける。

「アナタ、カエルさん一匹でもカイフクできていたのかしら!?みんな言ってるわよ、あいつは黒魔導士界の伝説になるって。『ナチュラル・エクスプロージョニスタ』だって!!このままじゃテロリストになるかもってっ!!」そしてイセロラはカエルを一匹も回復させていなかった。


「なるわけねーーーーーだろっ!!!つか、爆発するわけなーーーだろ、カエルじゃねぇんだからよぉっ!!!」イセロラは叫んだ。

「爆発するかもしれないじゃないっっ!!アナタ、ニンゲン一人でも回復させたことあってっ!?」アイリィは大げさな動きで呆れたといった仕草をする。

そして実は一人しか回復させた事がないイセロラは、それだけは言えぬと口をつぐんだ。


「俺も勘弁だぜ」

そう言ったのは同じ班の黒魔導士グレンノ・ホノー、17歳。得意魔法は火属性のみ。

「あたしもー」

そう言ったのは同じ班の白魔導士イルミミ・オーランド、18歳。キックを放てばクラス最強。

「あたしもやーよ、爆発したくない」

そう言ったのは余りで同じ班になった黒魔導士クークリー・リル、17歳。彼氏募集中のギャル系魔導師。


イセロラはグレた。

怒りパワーが上がった。

遠くでミューミューの大笑い声が聞こえた。



第五章: ランチタイム



「あんた、またハブられたんだってー?聞いたわよー、カエルにされるって」食堂で一人落ち込みうつむくイセロラにミューミューは言った。


「ちっげーーヨッッ!!!爆発するかもってみんな怖がって手も繋いでくれねんだよ!!」

身体強化魔法の発動は手を繋くことにより、何人とでも魔法効果を繋げる事ができた。


「かぁいそーに。いまあっしが慰めたげるからねぇ」

そう言いながら抱き付くミューミューにイセロラは黙ったままだった。ミューミューはイセロラが落ち込んでいる事に、少し悲しくなった。実はすでに噂は肥大化し、イセロラは呪詛魔法『カエルの呪い』を受け、魔法が爆発のみしか使えなくなっていて、触るとカエルにされてしまう恐ろしい怪物のような存在であるかもしれない、と皆は言っていた。そんなことを面白可笑しく笑いながら告げに来たのに、これでは笑えない。子供をあやすように、ミューミューは食堂に一人で座るイセロラに抱きついたまま、よしよしと言い、ほほで擦り付いた。


「キミたちは、いつも一緒だな、パンク・キッズ」

すると、キッシンジャーが現れた。

イセロラは萎縮した。

ミューミューは沈黙した。


「キミの瞳は魔力を帯びている。知っているか?」

メイジ・キッシンジャーはイセロラ・バーンシュタインに問いかけていた。

ミューミューは真っ直ぐとキッシンジャーを見る。そして気付く。コイツは、最初からイセロラにしか興味がないんだ。気付けば、自分をオマケとしか扱っていないキッシンジャーは、何を思ってイセロラに近付くのか。


「キミの卒業試験まであと2週間を切った。キミは、キミの眼玉にもう少し興味を持つべきだな、カエル姫くん」


そう言うと、メイジ・キッシンジャーはぷい、と振り向き去っていった。

ミューミューは瞬きすらしていない自分に気付き、はっ、と抱きついたままのイセロラに首を回した。

「アンタ、眼をもっとよく見せてみて!」


イセロラはミューミューがまぶたを無理やりに見開かせようとするので、ジタバタと抵抗した。しかしミューミューが余りにも真剣なのでイセロラはやむなし、と押しのけるような仕草を緩めた。

ミューミューの眼球が己の眼玉にくっつくんじゃあないか、というくらい近付くと、イセロラはミューミューの美しさに見惚れた。

真っ黒な髪と真っ黒な眼。魔女を思わせるピッタリの要素を持ち合わせ、可愛く髪もメイクも気合いを入れまくる。髪のリボンは派手なピンクとシアン。今にも触れそうな唇にはいつもグロスのかかったリップ。おめめなんか気合い真っしぐらなシャドウにテカテカのまつ毛。頬はファンデのみか、地肌の照りでナチュラル勝負。イセロラは自分と比べものにならない綺麗でおしゃれなニンゲンに見惚れ、気付けば石のように固まっていた。

「はあーい、おめめ、おめめー」ミューミューはイセロラの眼をじっくりと見る。


そうしてミューミューは瞬きすらしないまま言った。

「イセロラの魔眼…」

ミューミューの表情は凍ったように硬くなった。それをイセロラは過敏に察し、思わずたじろいだ。

「あ、あたしの目がなんだって?」


イセロラの問いにミューミューは我に帰る。イセロラの魔眼。おとぎ話に登場する、妖精王の魔眼。その輝きはイセロラの鉱石のように美しい。


「アンタの魔眼…」ミューミューは無表情で言った。「曇っててマギ・MP 1っぽい」そう言うと吹き出すように笑った。


イセロラはミューミューに合わせ、一緒に笑い始めた。メイジ・キッシンジャーが言ったことは何だったのだろうか。そう、思いながら、自分の眼には生まれたとき、輝きがあったような事を、母から聞かされたなと子供の頃の話を思い出す。

そしてミューミューも同じ事を思い出していた。何年か前に、イセロラのお茶目な母が「生まれた頃に目が輝きを放って、それはまるでイセロラの鉱石のようだったのよ」と言ったのは、冗談や思い込みではなかったのかも知れない、とそう思った。そうして笑い終わったミューミューはイセロラに抱きついたまま考える。彼女の眼は魔眼そのものだった。輝きこそほぼ存在しないが、たしかに結晶体が目の奥底に存在する。魔眼の結晶体は輝きを放ち、妖精の踊りが見えると言う。


ミューミューはイセロラに抱きついたままいつもとは違った、とても優しい声で言った。

「イセロラ。死なないでね」

子供のような声に、イセロラは胸を痛くした。


実技試験までもう二週間しかない事に、真剣に向き合わなければならない。なんとしてもミューミュー以外の人間を爆発させずに、魔法をもう少し上手くコントロールしなければ、魔洞窟<ダンジョン>で死ぬのは確実に自分なのだから。


「あたりまえだろ、カーバ」

イセロラは真面目な声で言った。



第六章: 二週間後


そして二週間が経った。


イセロラは「キッシンジャー・ハリセン事件」以降、カエル殺しのイセロラとして学園全てに噂は広まり、全校生徒から恐怖され、ハブられていた。唯一の友、ミューミュー以外からは。


「本日はっーーーー!!!!お日柄も良くーーーっっっ!!!絶好の魔洞窟<ダンジョン>日和でありましてっっ!!!!!」

メイジ・キッシンジャーはよく晴れた校庭で叫んでいた。


王都に存在する数ある魔導学園の中で、王族が通うロイヤル・マ・カデミアの全校生徒は400人ほど。早いものは8歳から、通常は10歳になると、魔法を感知する者は国の魔導学園への入学試験を受ける資格をもらう。そして8年制の魔導カリキュラムを受け、基礎知識と基本実技を習業し、王国社会に投入される。ニルニアで貴族は魔導士の力を取り入れ、時には交わり己の武家の血統をより強くし、一族の覇権を広げた。そして魔洞窟<ダンジョン>の攻略から採掘の利権を獲得し、領土の拡張や譲渡を行っていた。


「諸君らはーーーっ!!これから魔洞窟<ダンジョン>へと入るっっ!!!生き延びて帰って来たものは試験合格とし、めでたく卒業することになるっっっ!!!これで今日が卒業となるか、教員に蘇生されて留年となるか、はたまたクリスタルと化し、永久に輝きを後世に残してゆくのか…。まことに楽しみであるっっっ!!!!」

キッシンジャーの言葉にまったく嘘がない事だけは、生徒達がよく知っていた。校庭に集められた卒業試験受験者は、イセロラ以外とはパーティを組まされないように、と切に祈っている。


マ・カデミアは最初の三年を初等科と呼び、次の二年を中等科と呼んだ。そして最後の三年が高等科として、三段階にカリキュラムは分かれていた。基本と基礎は瞑想から始まり、初等科は子供の頃に三年かけて心体を共に鍛え、身体に流れる自分の命の輝き<マナ>を感じ取り、精霊と心を通わせる詠唱<チャント>を学び、瞑想状態<トランス>の発動を覚える。初等科の最終試験はトランス発動を条件としていた。そして他に主な教養を与えるためのクラスが存在し、魔導の基本的な歴史や構造を勉強した。


「知っての通りっ、この試験はっ!!ブタ小屋の若き兵士諸君らとの共同試験であり、これからくじ引きで運命の4人編成を決める!!!今までの訓練にないことに対面するのが君たちの試練となり、生き延びて帰って来たものにだけ一人前を名乗る資格があるのだっっ!!!!」

キッシンジャーは高等科三年生徒全員に向けて叫ぶ。彼の後ろには学園教員がみな参列していた。


ロイヤル・マ・カデミアでは中等科からは精霊のマナと自分のマナを感じ取ることに修士する。精霊と心を通わせ、言葉を贈る。そして生徒たちは詠唱で精霊のマナを誘導する黒魔導と、精霊のマナを体内に取り組む白魔導に分かれる。瞑想状態のまま呼吸をコントロールし、精霊と意思疎通を通わす事で初めて魔導の道が開く。受け入れ、誘導し、命の輝き<マナ>を燃やす。中等科の試験は詠唱や歴史、魔導学などの筆記試験、ならびにマナ・コントロールを測る魔導具を用いた試験を通して合格者を選別する。


「これより貴様らは、キレイに掃除された魔洞窟<ダンジョン>へと転送される。生きて帰ってこれるくらいの大した事のないものだがしかしっ!!!気を抜けば死ぬ程度の危険があるのが、攻略された魔洞窟<ダンジョン>というものだっ!!」

イセロラが聞いたところによると、命を落とす生徒は毎年数人出るが、すぐに教員に蘇生されるそうだった。


そしてマ・カデミアは高等科に入ると実技を専門的に取り組んだ授業が主体となり、魔導の構造を学んではそれの実践をした。高等科一年目で大抵の生徒は初級魔法をいくつか発動できるようになる。二年目からは戦場を想定した緊張下で魔法を発動する訓練が行われる。三年目になると実戦で使う魔法を覚え、基本的な魔導具の使用を許される。今まで習ってきた全ての知識を使い、戦闘用とみなされる魔法の発動形式を学び、各自各々が可能な範囲で魔法を習得する。最後の一年で、生徒はだいたい三つの戦闘用魔法を使えるようになる。例外は唯一生徒の中で、イセロラだけだった。


「じゅうっーーーーねんっんにっっ!!!!んっひっっとりっはっ!!!蘇生できずに!生命石<マナ・クリスタル>と化してっっ!親族を悲しませる事になるっっっ!!!」

近所の八百屋の次男・グレッグの事だった、とイセロラは思った。今でも彼のクリスタルは店の会計席の上に祀られている。


王都ニルニア魔導学園ロイヤル・マジック・アカデミアの8年生、イセロラ・バーンシュタインは、遂に回復魔法<ヒーリング>さえ発動できずに、卒業試験の日を迎えた。


「これより貴様らを転送する!!!!」

キッシンジャーはそう言いながら、生徒達の中からイセロラを見つめた。



第七章: 校長室


ポポロン・パーラッセルは学園に3人いる『老教員』<エルダー・マスター>と呼ばれるうちの一人だ。格式のある魔導学園は、卒業生や教員の中で類稀なる功績を残した者を引退後、学園に呼ぶことが多い。メイジ・パーラッセルは、今ではポポロン魔洞窟<ダンジョン>と呼ばれるものを一人で発見し、攻略した。その他にも雨水の浄化装置を改善し、民間利用に役立てたり、農業改革にも影響を与えた偉大な魔導師の一人だった。


「今年はポポロンばーさんのダンジョンだってなあ、卒業試験」

王都魔導学園ロイヤル・マ・カデミア学園長室は陽がよくあたり、大きな円窓からは校庭が見渡せ、そしてその部屋は高い塔のようなところにあった。


「キッシンジャー君なんかマーギ・ハリきっちゃって。あれ自分が試験に参加するノリじゃんねえ」

王都魔導学園ロイヤル・マ・カデミア学園長メイジ・コーランドリーは嬉しそうに言う。


「イセロラはハリセンを出したそうよ。金色のね」ポポロン・パーラッセルはそう言うと紫色のハーブティーを飲んだ。


「一マン人に一人と言われる魔導の落ちこぼれがねえ。あれ、悪魔に当たると爆発するらしいよお、ポポロン知ってた?」コーランドリー学園長は三日月のような髭を撫でてはそう言った。


「キッシンジャーの坊やが王様に使ってるアレでしょう?よく首をはねられないものだわね。あたしゃ代理でイセロラのクラスをこないだ指揮したの。マギ・ヤバいわよ。カエル爆発させまくったのバレてるじゃない。だーれもお手て繋いであげないで、最後少し泣いてたわよ。訓練にもならないで、今から魔洞窟<ダンジョン>行くじゃないの。イセロラ・バーンシュタインは死ぬんじゃないかしらね」ポポロン・パーラッセルは今までの不満を爆発させるかのようにくどくどと言う。


「もうカエルさん百匹よ、百匹。爆発させちゃったら蘇生も出来ないじゃない。クラス毎回お掃除する人の事も考えなさいよ。それもこれもコイン。アンタがえこひいきで入学させて、進学させて、進級させてっ、今の今に至ってカエルさん百匹も犠牲になったのよ。泣いてたわよメイジ・ケロック。かわいそうに、お名前付けてたんですって、アンタ知ってて?それも今日の今日で死ぬかもしれないじゃない、イセロラ・バーンシュタインは。クリスタルになるかもって先生みんな言ってて、あたしゃ呆れたね。あたしの魔洞窟<ダンジョン>で死んで欲しくないよ、まったく」


メイジ・パーラッセルがそう言うと、コーランドリーは聞こえないふりをした。

「キッシンジャー君が言うには、光魔法を使えるようにはしたので、問題はない。かれは契約を守り、そしてイセロラ・バーンシュタイン君も、彼の監視下で生きて生還するだろう。私はそう信じているよ」

コイン・コーランドリーは窓の外を眺めながら、とても男らしい声色で言った。


メイジ・パーラッセルは目を合わせようとしないコイン・コーランドリー学園長を睨む。コイツは学園の生徒だった頃からマギで自分のやる事に責任を持たない。このイセロラという、回復魔法<ヒーリング>でカエルを爆発させる奇怪な魔導師になぜここまで入れ込むのか。そして王家指南役にまで出世したマギ・マスター・メイジ・ザ・キッシンジャーを呼んだのも、イセロラのためになのか。


「メイジ・コーランドリー。あたしへの内緒事はきらいだわね。カエルを爆発させてまで育てようとしているイセロラの説明は今からするんでしょうねぇ?」


コーランドリーは思う。ポポロンマギ・こええ。

魔導士は全員が戦闘に特化するものではなく、卒業生の4割は戦闘とはかけ離れたことに従事する。最近では土魔法と水魔法を混合させた化粧品開発が盛んであったり、稼ぎはむしろ魔洞窟<ダンジョン>の外にあり、と、ビジネスに走る魔導士も多かった。悪魔との戦争も80年近くなく、戦場のために存在する魔道士は今では少なかった。魔洞窟<ダンジョン>を探索し、化け物<モンスター>との戦闘を想定した冒険者のための訓練がニルニアでは主流だった、しかし、来年度からはもっと商業文化を取り組むべきかと学園は真剣に考えていた。そんな話をポポロンにしていた筈だったのに、いつの間にか自分はまるで事件の犯人かのように問い詰められている。コイン・コーランドリーは思う。ポポロンマギ・こええ。


魔洞窟<ダンジョン>を一人で攻略し、国から戦略級魔導士とまで格付けされたポポロンは、メイジ・コーランドリーを、獲物をとらえたオオカミのように睨み続けた。メイジ・パーラッセルは思う。ポポロン・パーラッセル。流星の魔導士の異名を持つ自分でさえも、光魔法ハリセンの会得は無理であった。それを受けごたえの習得魔法<ラーニング>で発動した。初歩の回復魔法<ヒーリング>でさえ失敗させる、イセロラ・バーンシュタインが。

メイジ・ザ・キッシンジャーは虹色の魔導士と呼ばれ、全ての属性魔法を難なく極めた稀な存在だった。光魔法は特に、マギ・マスターだからといって簡単に使えるものでもない。長い歳月をかけて会得するのが常識であり、ポポロンの場合は使えるが得意とは言えないという部類のもので、彼女は土風闇の混合魔法による隕石など流星を引き寄せる超重力魔法が大好きなスケールの大きな魔導師だった。

それなのに、イセロラ・バーンシュタインはキッシンジャーが開発した対悪魔最強魔法と想定される光魔法ハリセンを発動させた。クラスメート全員の証言によると、それは金色だったそうだ。ポポロンは思う。コーランドリーを締め上げるまでは、ここからは意地でも退出しない、と。凄まじい渦潮のような音を立て、ポポロン・パーラッセルはチューリップの形をしたティーカップに入ったお茶を、吸い込むように飲み干した。宣戦布告のように。


そしてコーランドリーは窓の陽をほほいっぱいに受け、校庭に並べられた生徒たちを見渡す。

キッシンジャーの声が校庭に響き、それは窓を通してよく聞こえた。

『これより貴様らを転送する!!!!』

そうして、あらかじめ校庭に掘り込まれた魔法陣は光り輝き、生徒たちと教員を光とともに送ったのであった。



第八章: パーティメンバー


くじで決まった仲間と共に、イセロラ達はポポロン魔洞窟<ダンジョン>の入り口にいた。試験官となる教員と共に生徒たちは転送後すぐにくじで組分けされ、あらかじめ徒歩で来ていたブタ小屋のメンツと初の顔合わせをした。イセロラは試験官を見る。


試験官となる教員は、高等魔導師<ハイ・メイジ>が2人。そして6人の魔導師<メイジ>が担当する。高等魔導師<ハイ・メイジ>は白と黒の魔導に精通し、常時精霊とマナを循環させている者の総称であり、給料は通常のメイジと比べて5倍はもらっていた。精霊と意思を常に通わせる瞑想状態<トランス>を常時発動させていて、それが普段普通の状態になっている。そのため、キッシンジャーのように、人格の蓋が壊れたような者が非常に多く、貴族からは煙たがられていた。

そんなキッシンジャーが今回、特別試験官として9人目の教員となり、生徒の安全を保障する名目で試験の指揮をしていた。


「いやーマギでうちら昨日からいるし。ってか『カエル殺しのイセロラ』ってオマエのこと?助かったよーここカエル出るって聞いてるからマギ助かるわー」モブワン・ウェイブは言った。ブタ小屋出身、17歳。槍と盾を持つ見習い兵士。腰には片手剣を装備する。筋力:並。知能:並。体力:並。


「いやーくじ運悪すぎあたし…。マギ・イセロラかよーーーーーーーーー。ミューミューが良かったのになーもーーー」キックを放てばクラス最強、イルミミ・オーランドはふてくされて言った。自動発動魔法<オート・アクチュエータ>と呼ばれ、制御のあまりできない魔法を発動する白魔導士。18歳。


「ウホッ、キミらめっちゃイカしてるウホッ。さっそくパーティ登録するウホッ」ニゴウ・リラは言った。筋骨逞しい彼は、なぜか上半身裸であった。しかしブタ小屋は卒業試験の装備は個人の自由を尊重している。両刃斧と盾を持つ彼は、スペアにともう一つ両刃斧をベルトにたずさえている。年齢は若干若く、16歳。


そうして出会った運命の4人は、配られた腕輪をお互い腕にはめ、直に触れるようにした。

『契約<コントラクト>』と4人が同時に言うと、腕輪は光の輪を発生させ、それは散る花のように消えた。


「契約<コントラクト>を済ませた者は前にっっ!!!!そうでない者はすぐに済ませるようにっっ!!」メイジ・キッシンジャーは大きな声で言う。腰に見えるのは魔導の細工がしてある小剣<スモール・ソード>。イセロラはその綺麗な装飾に見惚れる。


「今から試験ルールを説明するっっ!!もう知っているだろうが復習であるっ!!!」

キッシンジャーの持つ剣は魔導剣<マギ・ソード>と呼ばれ、柄と刀身にマナを流す貴金属の装飾がされ、値段の高いものは魔結晶<マナ・クリスタル>を幾つかはめ込んでいる。実に多くの種類のものがあり、戦場に立つ魔導士は大なり小なり皆携帯していた。


「白魔導士を死なせたパーティは全員即失格だ!蘇生は一緒に魔洞窟<ダンジョン>に入っている教員が行うだろう。クジで適当に決めた貴様らだ、黒魔道士が4人中3人になるかもしれん!!しかし、それが人生という名の戦場だっ!!!各自、死亡者が出たら即座にチェックポイントにいる先生方に報告すること!!いいな!」

キッシンジャーの声を聞いたまま、イセロラは少し現実味の帯びない現状に対してぼうっとしていた。それよりも、剣に目を囚われ、少女時代の憧れを思い出していた。


「契約<コントラクト>を済ませた者は白魔法が制限されることを忘れるなっ!!!黒魔法は制限されぬ事を理解してアタマを使ってみるんだなッ!!!」おとぎ話に出てくるマギ・ソードは宝石が嵌め込まれ、金や銀で装飾され4属性の魔法を自在に発動し悪魔を追い払い、英雄の持つ剣として皆が知っている。実際には一つに属性に制限されているものが殆どで、複合属性など複雑なものは実用に向かず希少だった。まして元素属性と呼ばれる4属性を自在に操るなど、まさにおとぎ話での事だった。


「魔洞窟<ダンジョン>に今から行く者は心してかかれっ!!ここには心を惑わす魔物<モンスター>や、土の王と呼ばれる者さえもいる!!大きな大きな蜘蛛もだっっ!!!そして、蘇生魔法はミンチになってはできない事をよーっく覚えておけっっ!!」キッシンジャーは大きい声を出す。そう、イセロラは思いながらミューミューを探し始めた。


「十年に一人は、無残な死を遂げ、蘇生もできずに魔結晶<クリスタル>となって、近所の八百屋のレジの上に祀られるハメになるっっ!!!いいかっ!!!気を抜けばグレッグになってしまうのだっ!!!」グレッグの事かっ、と思いながらイセロラはミューミューを見つけた。生徒たちの奥の方でパーティメンバーと一緒に何かを相談している。彼女は黒魔導士のバーミリオンと一緒だった。ブタ小屋の二人は、当たり前だが知らない顔だった。


「最後にっ、最下層まで到達し、貴様らの大好きなシャーーーーーーーーーーーーロットッ先生っっから!!!スタンプを腕に押してもらいっ!!生きて私の元へと帰ってくれば試験終了だっっ!!!」

その声と共に豚小屋の男達は歓声を上げた。


「生きて帰れば試験は合格だッ!!!!!」

そして、キッシンジャーは金と銀に輝く魔導剣<マギ・ソード>を鞘から抜くと、天高く翳して言った。


「試験開始っっっ!!!!!」



第九章: 魔洞窟<ダンジョン>


魔洞窟<ダンジョン>は急に地層から噴き出るように出現する。街の中にいきなり出現したものは過去に三つあり、他はほぼ全てが人里から離れた所に点在した。洞窟内は様々で、中には都市があるとも言われている。


「イセロラー、アンタマーギまだ回復魔法<ヒーリング>使えないの?」

イルミミは口をつぐんだイセロラを見て続ける。

「マギやっばイ。チョーひくんデスけどー」

洞窟は至る所に魔道光<ライト>が設置され、足元を見ずとも楽に進めた。イセロラ達は他の生徒たちと一緒に進み始める。ポポロン魔洞窟<ダンジョン>の地面は歩きやすく、石などがあらかじめ取り払われており、観光で訪れる旅人からはベスト魔洞窟<ダンジョン>トップ・テンに毎年入っていた。

「なーに、カエルなら爆発されせるんだろ?これってマギ楽勝じゃね?俺たちのパイセンでポポロン行った奴らみんなサイケ・フロッグやばいって言ってたしー、このチームカエル殺しがいるんだからマギ楽勝っしょ?」

モブワン・ウェイブはへらへらと上機嫌だった。ポポロン魔洞窟<ダンジョン>は中央付近までほぼ一本道で、試験生一同は各班にまとまったまま、全員が一緒に進むことになる。

「ウホッ、楽勝だウホッ」ニゴウはおやつの栗饅頭を食べながら言う。


イセロラはパーティの先頭を歩きながら、ああ、とか、まぁ、などの対応でその場しのぎをしていた。爆発って、意図的にじゃないんデスけど、とは言いにくく、まぁ、と濁すのが精一杯だった。


洞窟の中はとても綺麗で、どこからか滴る清水、青々しい苔、光るキノコなどが辺りを彩り、生徒たちはみな見惚れながらも進んでいった。そしてそこら中に設置された魔道光<ライト>は植物を育て、ところどころに色鮮やかな花々が咲いていた。そして看板など道筋や方向を示すものがそこらじゅうに設置されており、吹き抜けのような大きな空洞を通り過ぎるときには、地質学者の書いた大空洞の解説と発見された歴史が書かれた石板があり、みながポポロン・パーラッセルの偉業を読むこととなった。魔導生徒はブタ小屋のパーティメンバーと打ち解けながら談笑し、一同は洞窟中央の休憩所があるエリアまでは遠足気分だった。


イセロラは『魔道楽カフェここから500メルテル』という看板を発見すると共に、隣に設置されていた魔導窟<ダンジョン>マップをまじまじと見る。

「イセロラー、アンタどのルート通るつもりー?」

すると、いきなり後ろからミューミューが声をかけてきた。彼女のパーティは少し離れた所からイセロラ達を見ていた。


地図によると、ポポロン魔洞窟<ダンジョン>は、最深部までの攻略ルートが3つに分かれている。カエルが出るルート。クモが出るルート。そしてクラック・ヘッドと呼ばれる人型モンスターが出現するルートだった。

「あんたカエル・ルートよねーっ」ミューミューは嬉しそうに言うと、イセロラの匂いを嗅ぎ始めた。

「んっだよ、てっめ、ばっか嗅ぐなよなあ」

イセロラは少し嬉しそうに抵抗し、ミューミューのパーティメンバーに目をやった。風のバーミリオンのあだ名で通る赤い髪の女の子は、背の高く姿勢の整ったガラス細工のような女の子で、人といる事が滅多にない生徒だ。炎のように長く伸びた長い髪は黄金にオレンジがかかったような色で、黄昏を連想させた。高度な風魔法を発動させるそうだが、問題児としてよく知られている。

「あたしたちは一番早い方」ミューミューは言った。イセロラに抱きつく右手のくすり指には魔導具の指輪がはめられており、試験中は生徒一人につき一つの魔導具の使用が許可されていた。王都魔導学園の裕福な親が子に与えるものが全てであるが、使いこなすにはそれなりの経験が必要で、生徒で魔導具を持参してきたのは実に3割ほどだった。


モブワン、ニゴウとイルミミは、少し離れたところからバーミリオンとブタ小屋の2人を品定めするように眺めて、彼女は優秀なヤツだの、同期の男はかなりやべぇだのと話していた。イセロラは、そちらはどう思っているのか、と聞こうと一瞬迷い、流石にカエル殺しのパーティの事をどう思っているかなんて聞けなかった。不安や期待がはこびる卒業試験。ミューミューとこうしていられるのも、最後なのか、と思いクリスタルになる運命を、可能性を受け入れようと、イセロラは思った。



そうして別れ際に、ミューミューはイセロラの頬にキスをして、肩が砕けるくらいに強く抱きしめた。


卒業試験にポポロン魔洞窟<ダンジョン>に入る生徒たちは、中央地点にあるカフェや、お土産屋さんに小遣いを使いに入った。普段は観光地、そして採掘され尽くされた採石場跡などでキャンプをしたり、ボランティアのモンスター駆除に励む冒険者<アドベンチャー>を相手に商売をするとてもオープンな魔洞窟<ダンジョン>だった。苔などの植物に覆われたカフェは、赤いふわりとした花が幾つも入り口付近に垂れ下がり、ドアの前には『ようこそ!魔道楽カフェ!!』と書かれた看板が置かれていた。


「イセロラ、早くカフェに入るわよ」

イルミミは寄り道をせずに進むミューミュー達をよそに、颯爽と『魔道楽カフェ』に向かった。イセロラは去り行くミューミューを目で追いながら、仲間と共にカフェの扉を開けた。



第十章: ようこそ!魔道楽カフェ!!


満席の店内でイセロラ・パーティーは丸いテーブルを囲み、座っていた。

「ヤッベ、うちら回復役マギ・いなくね?」イルミミは笑いながら言う。「マーギ・回復<ヒーリング>アタシ苦手でさー、カエルくらいなら回復させれるけどー」

「うっひゃっひゃ、さっきレジでポーション買ったし、カエル・キラーの活躍でイケるっしょー、マギ・楽勝じゃね??」モブワンは一緒にイルミミと笑う。通り名の微妙な進化にイセロラは突っ込まなかった。それよりもイセロラはモブワンの持つ青い小瓶に目を囚われていた。

「ウホッ、死んだら来年があるウホッ!」ニゴウは嬉しそうに言っては、胸を叩いた。イセロラは冗談じゃねえこっちゃマギ・クリスタルになっかもしんねんだゴリラてめぇこっちゃ十年に一人のクリッタルちゃんかもってビビリまくってんだ毛ぇむしったろかゴリラ、と突っ込みたかったがイセロラの理性は強かった。


そして周りの騒音が響く中、近くを通りかかった店員にイセロラはイチゴアイスフロートミルクティーにチョコとキャラメルソースドリップ、プラス周りに生クリームのホイップたっぷり付けを注文した。

こまごまとした可愛い店内は、やたらと丸みの帯びた支柱がところどころに根を巡らせるように建っている。まるで生えているかのような柱は、店内の植物と合わせて森の中にいるようだった。


そしてイセロラは店内にいる周りの生徒達に目を配る。

「親父から預かった炎の長剣<ファイヤ・ロングソード>だ」

手を繋いでくれなかったグレンノ・ホノー。長剣を鞘から半分抜き出すと、うっすらと炎を刀身から出現させた。テーブル三つほど離れた所にいる。

「アタシのネイルみてよー、これー、今日モンスターにかじられないとイイけどー」

キレイな爪を見せびらかすのは同じく手を繋いでくれなかったクークリー・リル。店内の奥の方ではしゃいでいた。

「いや、マギだって。モグラ・キングいるここは舐めてると10年に一人はクリスタルになるんだって。グレッグ兄さんはモグラ・キングに蘇生ができないくらいスプラッタにされちまったんだ」

八百屋の四男、フレッドだった。影の薄い彼はナレーションのような声で淡々と続けた。


「モグラ・キングはおとなしいモグラが巨大化して、ついでにテンパり方も巨大になった、おそろしく情緒不安定なモンスターなんだ」

イセロラはやっべーよなんだそれ聞いてねーよキッシンジャーが言ってた土の王ってこれでしょこれなにこれここクモとかカエルしかいないんじゃねーのかよここ巨大なモグラがスプラッタマシーンかよこれフラグじゃね、と心の中心で突っ込みを叫んでいた。

「モグラ・キングに気づかれたらオシマイなんだ。気付かれたら3秒以内にハッキョーするんだぜ。暴走化しちまうんだ。近くにいる生きもの全てぐっちゃぐちゃにしちまうんだ」

イセロラはフレッドの言葉に集中していた。マギで十年に一度のフラグは自分のために用意されている確信に近づく。

「十年に一度は眠りから覚めるってパーラッセル老教員が俺に言ったんだ、グレッグの事は不幸だったって。でも大丈夫だ。父さんからモグラ・キングの出るルートは教わってる。俺たちの通るルートはー」

「イチゴアイスフロートミルクティーにチョコとキャラメルソースドリップ、プラス周りに生クリームのホイップたっぷり付けでーーっす!」

いきなり現れた元気な店員にイセロラは肩を上げて驚いた。自分の注文したものが目の前に置かれると、礼を言う前に彼女は泳ぐように去っていった。


「よし、じゃあ、行くか!」

そしてフレッドのパーティメンバーは勢い良くそう言うと、全員で立ち上がった。


「ちょっとイセロラー、さっきからボケっとしてマギ・ノリ悪すぎなんデスけどーー」目でフレッド一行を追うイセロラはイルミミに指を突きつけられ、注意される。

「あたしらマギ・カエル・ルートの対策練ってるんデスけどー」イルミミはふてくされた顔で言った。イセロラが自分の生死に関わるであろう重大な事を八百屋の四男フレッドから盗み聞きしたことを言おうとすると、モブワンが先手を取るように声を上げた。

「だからイセロラ隊長がマギ・先頭でえ、俺とニゴウが後ろで守りながらイルミミちゃんが後ろとか見張ってくれれば……、マギ・楽勝っしょーーーー!!」

いつの間にテメェの隊長になったんだ、ーとイセロラが突っ込もうとすると、いきなりニゴウが両腕を上げて満面の笑みで言った。

「楽勝だウホーーーーーーーーーーーーッ!!」


そして無言のまま、イセロラ隊長は死んだ魚の目をして諦めた。



第十一章: カエル出現


イセロラは死んだ魚の目をしたまま、隊長として魔洞窟<ダンジョン>を進んでいた。

ポポロン魔洞窟<ダンジョン>の中継地点から最深部までのルートは厳密には2つである。元々の空洞と、ヒトが作った補装された道である、が、カエルが掘ったルートというものがある。洞窟内のカエル達は命の輝き<マナ>の影響で巨大化し、中継地点とダンジョン最深部を行き来していた。その穴がちょうど人が二人は並んで通れるくらいに広く、そして微妙にスリリングな事から夏のダンジョン・キャンプ・ベスト・カップル成就率スポット・トップ10に毎年入っていた。


「けっこう人多いじゃん、カエル・ルート」イルミミは傾斜を下りながら言った。

「ああ、ここ結局、毎年死者ゼロだし、分岐いっぱいあるけど、下に進めば最深部に必ず到達するってみんな知ってるからじゃね?」モブワンは鼻くそをほじりながら言った。

「楽勝だウホーーーーーーーーーッ!!!」ニゴウは言った。盾は背に構え、両手で壁を押さえながら進んでいた。


イセロラは不機嫌なまま、灯りを付けた携帯魔導光<ポケット・ライト>を腰にぶら下げて、慎重に進んでいた。


そしてやや大きな空洞に辿り着いた。そこはカエル達の通路が集まり、奥にまた通路が幾つも見えた。無数の通路の集合地点のような空洞に、わらわらと他のパーティが幾つもの通路から出てくると、生徒達は再会にはしゃぎ和気藹々とおしゃべりをした。


「一匹カエル出たってよ」

「ヤッベ、コイツちょービビってさー」

「ウケるー、なにそれヤバくなーい」


「カエル広場」と通から呼ばれるその空間はもう一つの大空洞と隣接していて、カエル達によって見渡せる孔が幾つも掘られていた。その孔から眺めることができる大空洞は「正規ルート」と呼ばれる、元々の魔洞窟<ダンジョン>発生の際にポポロンが通ったルートにあり、ミューミュー達が言った「一番早い方」のことだった。斜面がキツく、臭いのキツい固まった態勢を取る人型モンスター、クラック・ヘッドの出現するルートとして知られていた。


イセロラはニゴウ達パーティメンバーと、動かない人型モンスター、クラック・ヘッドの群れを眺めていた。いつ死ぬか分からないイセロラは、ぼうっと上の空のまま孔に寄りかかり、首を休めるように真上を眺めカエル(赤)が天井に張り付いている事を網膜に焼き付けたが、脳が一瞬固まり、身体も固まった。イセロラは1メルテルはある、巨大なカエルと目が合って、叫んだ。


「サ、サ、サ、サイケ・フロッグがあらわれたあぁーっ!!!」

サイケ・フロッグが現れた。


壁に張り付いていたそれは、真っ赤な大きなカエルだった。イセロラは思う。コイツは、赤のフロッグ。暴走化<バーサク>させる液体を出す、サイケ・フロッグの中でも一番厄介なヤツだ。目と目が合う。爬虫類と意思疎通ができるなら、愛と平和を伝えたい、白魔導師として。そうイセロラが願った瞬間、サイケ・フロッグ(赤)は頬を膨らませ、錯乱状態を引き起こす毒液をたっぷり吹き出した。


顔に噴射されるその瞬間、後ろからいきなり肩をクラスメートのアイリィ・シャーリィにつかまれ、イセロラは引っ張られた。サイケ・フロッグの毒液はイセロラのローブをかすり、紙一重で直撃から逸れた。

「イセロラッ!!アンタちょっとどいてなさいなっっ!!!!」

アイリィ・シャーリィは、イセロラを守るように自分の後ろへと押しやった。そしてブタ小屋の男子が三人揃って前に出ると、盾の編成で毒液から身を守りながらカエルに向けて盾を合わせた。


「アイリィ!!!炎の詠唱行くからっ、下がってて!!!」

後ろからアイリィとは別のパーティが大きな声で言った。コントラクトの制限が効かない黒魔導師達の合同詠唱の合図だった。



第十二章: マルチ・キャスト・マギ


広場にいる黒魔導士達の詠唱<エンチャント>が始まる。複数の魔導士達の詠唱は音階を調整した和音を奏でる。複数の人数が同時に別々の詠唱部分を詠い、幾度も繰り返し詠唱する事で精霊を操る。イセロラ・バーンシュタインの憧れだった。


ライラ・ライラ・ライラ・ライラ

(おいで、おいで、おいで、おいで)

ライ・ラライ・ラライ・ラライ

(さ、はやく、はやく、はやく)


ライラ・ライラ・ライラ・ライラ

(おいで、おいで、おいで、おいで)

ライ・ラライ・ラライ・ラライ

(さ、はやく、はやく、はやく)


精霊が集まり、そのマナを感じると、魔導師達は次の詠唱を詠う。それはまるで、音楽そのものだった。


ラララ・ラライ・ラライ・ラライ

(あつまれ、はやく、はやく、はやく)

タンタ・タンタ・タンタ・タン

(おおきく、おおきく、おおきく、なあれ)

ラララ・ラライ・ラライ・ラライ

(あつまれ、はやく、はやく、はやく)

タンタ・タンタ・タンタ・タン

(おおきく、おおきく、おおきく、なあれ)

タント・タント・タント・トン

(もっと、もっと、もっと、そう)

タンタ・タンタ・タンタ・タン

(おおきく、おおきく、おおきく、なあれ)


魔導師達の詠唱は重なり、精霊の動きに光が交わる。

イセロラは実技以外の実戦で初めて見ることになる。そして精霊達は活発化し、炎を具現化した。


ライラ・ラオラ・ライラ・ラアラ

(おいで、なかに、おいで、かたまれ)

ライラ・ラオラ・ライラ・ラアラ

(おいで、なかに、おいで、かたまれ)


炎は収束し、魔導師達の頭上に球のように集まる。


タンタ・タンタ・タンタ・タン

(おおきく、おおきく、おおきく、なあれ)

タンタ・タンタ・タンタ・タン

(おおきく、おおきく、おおきく、なあれ)


手のひら程の炎球が肥大化する。周りには炎の精霊達が木の葉のように火となって現れ、空中に渦を描きながら舞い始める。


ラタ・ライタ・ラオ・ライラ

(おまえは、つよく、はやく、なあれ)

ラタ・ライタ・ラオ・ライラ

(おまえは、つよく、はやく、なあれ)

ラーラ・ラータ・ラタ・タ・タンタ

(いまだ、そうだ、すぐに、かけろ、おおきく)

ラーラ・ラータ・ラタ・タ・タンタ

(いまだ、そうだ、すぐに、かけろ、おおきく)



精霊が具現化する炎は光球へと変化する。赤い炎が黄色く、そして中心が白くなる。初級の複合発動魔法の臨海突破温度の象徴だった。イセロラは魔洞窟の壁の中で反射する光と、精霊の発する炎に当てられて、この世のものではない不思議な感覚に包まれた。


そして詠唱者<エンチャンター>全員の詠唱が一度に発生する。

その発声は勢いよく、叫ぶように放たれた。


『ラーザ・ザー・タ・ラーラ・ラーラ!!!』

(あいて、めがけ、かけろ、いまだ、いまだ!!!)


その瞬間、光球は一気に一線となって、詠唱者達の掲示する方向めがけて走った。

複合詠唱魔法<マルチ・キャスト・マギ>の発動だ。



第十三章: 白魔法キルキルキル発動!!!


黒魔導師達から放たれた炎は一線となり、集められた光球から一気に一線となってサイケ・フロッグへと直進した。そしてすぐに鎮火した。マルチ・キャスト・マギの失敗だった。そして赤のサイケ・フロッグが生徒達に向かって飛んだ。


「うわああああああっ」

「ぎゃああああああああっ!」

「にげろーーーーーー!!!」

「グェポッ!」

カエル(赤)が歪な音と共に毒液を吐く。そして生徒達は散るように拡散する。


「あの大きな通路に進むウホーーーーーーッ!!!」

「やべぇ、奥の穴にカエルめっちゃいっぱいいるってば」

「後ろから赤いのが来てるっ!!!!」

「やべぇ、前からめっちゃいっぱい出てきたーーーーーっ!!!」

大混乱の中、モブワンは瞬時に隣に居合わせたイルミミを掴んで自分の前に押し出した。そして赤いサイケ・フロッグの毒液が放出された。


イルミミは後にこの出来事をポエムにして発表し、作家デビューを果たす。


題: 戦場の君の腕

『オトコノコ

 力強い手で

 私を振り回す

 人生の渦

 なぜかしら

 心がときめかないの

 だって私は盾

 剣よりも安い

 都合の良い存在

 ああ、カエルさん

 顔に毒を吐かないで』

作: イルミミ・オーランド


そしてイルミミの自動発動魔法<オート・アクチュエータ>が発動した。

「ふ…ふ……」

イルミミは俯いたまま笑うかのように声を出す。みな、名前と噂だけは知っていた。白魔法『キルキルキル』。将来歴史に名をのこすこと間違いなし、と教員の評判である白魔導白士イルミミ。武闘派白魔導<アタック・ヒーラー>の夢と憧れを形にしたような魔導、それが白魔法『キルキルキル』だった。


「ファあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー⚪︎っックッッッ!!!!!」

イルミミの右ストレートが炸裂した。


そしてサイケ・フロッグは吹き飛ぶように炸裂した。イセロラは真横でそれを記憶に焼き付け、カエルの体液を顔に浴びた。これが奴等の呪いか、と一瞬戸惑い腰を抜かした。急いで仲間達の後ろにへと虫のように這うと、すでにイルミミはサイケ・フロッグ(青)の群れに突進していた。


「ファファファファファファファファファファッ!!!!」

凄まじいパンチの連打は、空圧だけで1メルテル離れた柔らかい皮膚を持つカエル達(青)をスプラッタにする。飛び散る目玉や顔の破片やハラワタは、ニゴウ達にトラウマになるような惨劇を見せた。


「ファファファふぁあーーーーーーーーーーーー⚪︎ック!!!」イルミミは華麗なステップを刻みながら残りのサイケ・フロッグに突進してゆく。

「ファッ!!!」

右ジャブがサイケ・フロッグ(緑)に当たると、カエルの顔面半分が炸裂したかのように吹き飛んだ。

「ファッ、ファッッッ!!!!!」

軽快なステップと共に、左のボディからの右ストレートですぐ後ろにいた2匹のサイケ・フロッグ(虹)を炸裂させると、イルミミは最後のサイケ・フロッグ(大)に向かって回転しながら大技を繰り出した。

「ファーーーーーーーーーーーッ!!!!」

イルミミは回転しながら空を飛ぶ。そして溜め込んだ一心の力を天井に向け、炸裂させた。


「⚪︎ッッッッッキューーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!l」

凄まじく回転しながら宙を舞い、滑空する竜の如く蹴りを放つイルミミは、魔導の力により爆裂するかのようにカエル(大)に向かって突進した。彼女が天井を蹴った事で生じた衝撃波は、腹に響き渡るほどの重低音となって響き渡った。


イセロラとモブ2人は刮目した。最強戦士が近年、なぜ白魔導士たちだと言われるかを。竜巻のように回転したイルミミの蹴りは、カエル(大)を炸裂させるかのように真っ二つに引き裂いた。2メルテルはあった生き物が、腹を境に破裂し、身体中の体液を臓物といっしょにパーティーメンバーに浴びせる事となった。

イセロラは炸裂し飛散したカエルの皮を被り、そのぬめりはピシャリと軽快な音を立て上半身を血に染めた。コイツの血液は青いのか。イセロラは思った。

次に腸はモブワンに掛かるように飛び、竜巻のような蹴りから生み出された回転により、それは巻き付くように回転しながら胴体に絡まった。なんかコレ気持ちイイかも。モブワンは思った。

サイケ・フロッグ(大)の頭はというと、その爆発的な威力で顔の下は吹き飛び、頭部部分のみが飛翔し、天井と壁にぶつかりながらニゴウの頭にすっぽりとはまった。カエルゴリラが現れた。



第十四章: コンサート・ホール


その大きな空洞は『コンサート・ホール』と呼ばれ、いつしか夏には音楽祭が毎年行われるようになっていた。


「水魔法!!メイク・ドロップ!!!」

黒魔導師のクークリーはそう言うと、手のひらから水を出現させた。イセロラは、その清き水を顔から浴びる事となり、綺麗にカエル達の臓物と血を洗い落とした。


「緑のカエルはなんかぼーっとしたり、妙に素直になったりしてー、青のカエルのがなんかピキーンって賢者みたいにいきなりなってさー、そんで赤がイルミミちゃんの暴走<バーサク>化だったんだってー」モブワンは盾として突き出したイルミミに言い訳をするかのようにカエル毒の説明をしていた。


「女の子を盾にしてチョーひいたんデスけどー」先ほどクークリーに洗浄されたイルミミはブツクサと文句を言っていた。


「ウホッ、マギ・ダサいウホッ」ニゴウはオヤツのバナナを食べながら言った。


すると洗浄されたばかりのアイリィがイセロラに威勢よく歩み寄った。

「勘違いしないでよねっ!!別にアンタを助けたわけじゃないんですから。ただ、こないだは、ちょっと悪いと思っただけですわ!別に、仲良くなろうとか思ってなくてよっ!!」

アイリィはそう言うと、イセロラの返答も待たずに振り返り、自分のパーティへと向かった。


そして仲間たちの会話が続く中、クークリー達がカエルが掘った幾つものある吹き抜けの孔から何かを指して言った。

「みんな、アレを見てっ!!!」

「コンサート・ホールに誰かいるわっ!!」

「風のバーミリオン様がコンサート・ホールの会場に立っていらっしゃるわっ!!!」


女性の人気が異様に多いバーミリオンは、『風のバーミリオン』のあだ名で通る。

イセロラはミューミューを見つけて、確かにバーミリオン等がいる事に気付く。彼女達が立つ大空洞の奥は一部だけ盛り上がり、まるでステージのようになっている。



第十五章: 『ザ・リヴィング・デッド・ボーンズ』


「行くぞ、お前ら!!!」バーミリオンは叫ぶ。

「おうっ!!!」


その瞬間、ミューミューは影に潜むように、沈むように消えていった。闇魔法の発動を目にしたイセロラは、遠くから彼女の魔道具の暗い輝きを見た。


そしてバーミリオン・メタルスミスは叫んだ。

『あたしのっ!!!!歌をっ!!!!聴きやがれッッッ!!!!!!!!!』


風魔法だった。

イセロラは大分離れた場所から、まるで目の前で聴こえるバーミリオンの操る風の振動を身体中で体感した。そして直感した。この子は天才だと。


イセロラがそう思う最中、地響きのような音の振動が凄まじい連打と共に洞窟内を駆け巡った。ドラムス担当、棍棒二刀流のハード・ロックだった。郷土魔法<マジック>という、魔導に満たない平民がつかう民間魔法の発動だった。地面の土を圧縮し、盛り上げて形を作る技法だが、それを棍棒で叩き、魔法の動きで周辺の地面自体が太鼓のように機能していた。そして観衆にざわめきが起きる。特になぜか男子達の声が上がった。


「くっ、すげぇサウンドだっ!このドラム、只者じゃねぇっ!!」

「郷土魔法<マジック>かよ、土を耕す魔法をドラム代わりにしてやがるぜっ!」

「やべぇ、バーミリオンのヤツ、半端じゃねェヤツ等をメンバーに入れてるぞっっ!!!」


風の魔法で振動が何倍にもなっているのだろうか、とイセロラが思う中、次は両手両刃斧<バトルアクス>の『フリーク』が獲物を肩から勢い良く風車のように回しながら、両刃を腰に当て、柄を逆に構えた。ミューミューは未だ影に潜んでいた。


「なんだあの斧の構えはっ!」

「待って、まるで弦が張っているように見えるわっ!?」

「違う、あれはバトルアクスなんかじゃねぇっ、アレは、先生に見つからないように偽装した、バトルアクス・ギターだっっ!!!」

「ウホーーーーーーーーーーーーーーーッッっ!!!!!」


そして電撃のような音が響き渡る。キリギリスの叫びを思わせる音を出したかと思えば、稲妻のようなものに瞬時に変わり、洞窟内はまるでコンサート・ホールそのものと化していた。風のバーミリオンの異名は伊達じゃない。


そしてバーミリオンは杖<ロッド>の魔道具を構えると、口元に当て、発声した。エメラルドの宝石が輝き始めた。



第十六章: クモ・ルート


グレンノ・ホノーは叫んでいた。

「うおおおおおおおおおおおっっ!!!」

炎の長剣<ファイヤ・ロングソード>は空を切る度に、しゅぼぼ、と音を立てて、炎を鎮火していた。

「ち、チキショウ!お、俺の、俺の剣がっ!!!」

グレンノは思う。

親父の魔導剣<マギ・ソード>を内緒で持ってきたのが悪かったのだろうか。それとも使った事もないのに今日持ってきたのが悪かったのか。本来ならばこの魔導の剣は刀身に永続的な魔法の付与がかかり、とても格好良いものだった。しかし、なぜ炎が荒々しく出現しないのかが分からなかった。分かっているのは自分が最高にカッコ悪いという事だけだった。

「グレン、邪魔だ、黒魔導師は前に出るな!!!」

豚小屋の生徒に乱暴に言われて後方に後ずさると、グレンノは悔しさに舌打ちをした。

「チックショウ、こんな筈じゃなかったのに」

その時だった。グレンノは聞き覚えのある声を聴いた。整った姿勢は孤高に立ち、夕日を思わせる髪は腰までなびく。皆が風のバーミリオンは、片思いと憧れを奪い取るような存在だと、クラスの陰で告白していた。

『あたしのっ!!!!歌をっ!!!!聴きやがれッッッ!!!!!!!!!』


その声を聴いた直後、近所の工事現場のような地響きが起きた。リズムに乗ったその振動がドラムだと気付いた瞬間、痙攣するようなギターの音が耳に届く。グレンノ・ホノー、17歳。バーミリオン・ファン・クラブ会員番号001番。風のバーミリオンの得意魔法が発動している事に気付いた。


そして歌が始まった。

『誰にも媚びない 眩く視線

 孤高の戦士 疎まれるのは何故』

歌詞がグレンノの心に響いた。


『あなたは 爆裂の申し子

 世界を変える 革新の落とし子』

心が彼の想いを奮い立たせた。


『忘れないで 妖精の踊りを

 あなたはまだ 燃えてもいない』

そして確実に自分の人生とシンクロしている、と勘違いするファンの心が暴走した。

<この歌詞は、確実に俺の事かもしれない>


グレンノはその瞬間、剣を捨て、炎魔法の気合詠唱<キアイ・エンチャント>を始めた。

「俺のこの手が輝き燃えるぅ!!!!!!」

グレンノの右手は発火した。

「ぅおぉまえを燃やせと、焦がせとさぁけえぶぅっ!!!!」


グレンノは目を涙で滲ませながら思う。俺は間違っていた。俺は本当の俺になるべきだったんだ。盾役三人のパーティならば、この「男子100%」の軍団なら、俺の剣が格好良くサイコーに格好良く俺が主役になれる、と思い上がっていたのだ。グレンノはブタ小屋の仲間達の元へ駆けた。


そして、グレンノ・ホノーは叫んだ。

「うおおおおおおおおおおおっっ!!!」


『忘れないで 眼の輝きを

 あなたはまだ 視えてもいない』

グレンノ・ホノーは高く飛び上がり、右手は業火の如き瞬きを見せた。


「しゃぁく熱っっ!!!バーーーーーーニング・フィンー



第十七章: モグラ・キング


イセロラは全生徒の視線を感じながら仲間たちと最深部へと到達した。待っていたかと言うように影からいきなりミューミューは現れ、イセロラに飛び付いた。

「イセロラーーーーーーーーーーーッ!!!」

ミューミューにいきなり抱き付かれたイセロラは久しぶりに喋った、気がした。

「ミュ、ミューミューーーーーーーーッ!!!」

イセロラは泣きながらミューミューを強く抱きしめて、流れる涙を彼女のローブに擦り付けた。


「やーね、曲のタイトル『爆発王』だってー、あれ絶対イセロラのことじゃんねー」

最深部へと到達した他の生徒たちの囁きがイセロラの耳に入る。

そしてミューミューが所属するパーティは既に「リヴィング・デッド・ボーンズ」というバンドと化し、伝説となっていた。


白魔法「キルキルキル」発動事件以降、何事もなく最深部まで辿り着いたイセロラ達は、桃色栗毛のシャーロット先生と再会し、颯爽と腕に魔道の輝きが光るスタンプを腕に推してもらい、バイバイの手を降ってもらった。これで試験も終わりか、と思うと、ミューミューと手を繋いだイセロラは安堵の念を覚える。


魔洞窟<ダンジョン>最深部では湧き上がるマナを抑える封印の石杭が観光名所として普段は賑わいを見せ、休むベンチなどが設置されていた。そこでは、試験生皆がバーミリオン達の事をわいわいと話していた。


「キッシンジャー、マギ・ブチキレててチョーうけたわー」

「今度からカエル姫のこと、爆発王って呼ばないとねー」


飛翔魔法で飛んでやってきたメイジ・ザ・キッシンジャーにライブは一曲を経て中止され、バーミリオンと他二名はとても怒られた。


そして生徒達は、己の冒険を語り合った。

「グレンが炎魔法でスゲぇ活躍して、アングラ・スパイダーみんな退治したんだって」

「マギかよー、こっちのカエル・ルート凄まじかったぜぇ、地獄絵図ってかんじ」

「ねーククリ、こんどメイク・ドロップ教えてよー、あたし水出せっからさー」


そしてアイリィは未だイセロラの周りを離れずにいた。

「か、勘違いしないでよね!バーミリオン様に唄われたからって、羨ましいなんて思っていないんですから!!」

「だから、別に羨ましがられるコトじゃねーって!!皆んなの視線マギ・ウザいし!!」

「あの後、うちのメンバー、ダンジョンの入り口まで連行されて、あたし一人で降りて来たんだよー」


和気藹々といつの間にか、イセロラは皆と笑い合っていた。

そして生徒一同は地上に戻る準備をする。


「帰りはクモ・ルート通ってこうぜ」

「道が鋪装されてて一番楽だし」

「もうクモいないんでしょー?グレン君が燃やしたってみんな言ってるよ」


そんな時、フレッドが走りながら、クモ・ルートと呼ばれる舗装された通路からやってきた。

「モグラ・キングだああっっ!!!!」


フレッドは叫んだ。



第十八章:デッド・フラグ・フレッド


命の輝き<マナ>を元に、精霊と生命は魔法を起こす。

その現象は、精霊のマナ<エレメンタル>と、肉体のマナ<プラーナ>に分かれた。魔洞窟<ダンジョン>はマナの噴き出る暴走から出現する。過度のマナにあてられた生命は、巨大化し、凶暴になるものも総じて怪物<モンスター>と呼ばれ、モグラ・キングもその一種であった。


フレッドは出血する肩を押さえながら、怯えるように言った。

「あ、あ、アイツ、クモは嫌いだから、こっちにはいないはずなのにっ!!いきなり大音響が鳴ったり、グレンがアングラ・スパイダー全滅させたから、眠りから起きてクモ・ルートに引っ越しちまったんだ!!!ひいいっ、なぜか俺を追ってくるんだあっ!!!」

フレッドはそう言うと震えながら通路を指差した。

そこには、魔導光<ライト>に当てられた、大きな生き物が見えた。そしてブタ小屋の生徒達が盾を構えて勇みよく前に出ると、魔導師達はみな後ろに下がった。


「フレッドを守れ!!グレッグにはさせんな!!」

「大丈夫、モグラ・キングは十年に一度は討伐されてるわ!」

「俺たちならやれる!俺たちの戦いはこれからだ!!」

生徒達の声が響いた。


イセロラは委縮していた。

化け物<モンスター>の巨大な黒い影は魔洞窟<ダンジョン>の中で一層に恐ろしく感じる。


「ヒーラーッ!!!!早く回復魔法をっっ!!!!!」

その声を聴く最中、腕が弾ける音を立てて破裂するのを直視した。ほんの2メルテル先のことで、それが自分の腕でない事だけは、分かった。腕が顔を横切って吹き飛んでゆきながら、自分の顔は血に濡れた。


イセロラは凍りつきながら思う。早く、回復魔法を発動しなければ。


思考が巡るなか、モグラ・キングは薙ぎ払うかのような体当たりで、眼前にいたブタ小屋の生徒達を吹き飛ばした。


「イセロラッ!!早く逃げて!」ミューミューは陰に半分身を埋め、イセロラの手を掴もうとした。しかし大きな爪と共に突進してくるモグラ・キングに萎縮され、手を掴み損ね、陰へと落ちていった。


「イセロラッッ!!危ないウホッ!!!」ニゴウはイセロラに向かうモグラ・キングに盾で体当たりをして、なんとか攻撃の軌道を逸らした。そして瞬時に吹き飛ばされた。


「イセロラッッッ!!!アナタ、なにぼうっとしてるの!!」アイリィは叫びながらイセロラに駆け寄り、身体全体をイセロラに当て、突き飛ばす。モグラ・キングの爪が空を切る。


「舐めンじゃねえぞ、コノヤローーーッ!!」そして即座にイルミミはモグラ・キングに向かって叫び、イセロラ達を守るように立ちはだかった。


「ひいいいいいいいいいいいいっ!!!」

モブワンは悲鳴をあげ、イセロラの横で腰を抜かした。


イセロラは、その瞬間、瞳の中で何かが鼓動するのを感じた。




第十九章: 『爆発王』


花びらが身の回りを舞うようだった。


ミューミューは闇の魔眼で妖精を見ていた。全てが闇の中で、彼女の魔眼は精霊と生命を視る。イセロラの周りには、どこからか妖精達と精霊が集まり、踊っていた。そして、イセロラの瞳は、緑に輝いていた。


イセロラは自分がおとぎ話の中に入ってしまったかと錯覚をして、咄嗟に口を開いた。

「アンタ達っ!力を貸してっ!!!」

イセロラは妖精達に語りかけた。妖精達はイセロラの言葉を理解した。踊るように空を飛び、木の葉のようにイセロラの腕を軸に、遊ぶように回った。


そして、妖精達は個々が各個個別の意思を発し、生きている事をイセロラは直感した。

イセロラには妖精の声が聞こえた。


それは頭の中で鳴り響く、気持ちのいい鐘のような声だった。

いいよ。

いいよ。

だって、イセロラのことだーいすき。

あたしたち、みんなイセロラがだーいすき。

いつもいっしょ。

いつでもいっしょ。


イセロラは思い出した。妖精は、子供の頃に見えていて、今と同じようにいつも話しかけていた。いつも、一緒にいた。


イセロラ、しんじて。

イセロラ、かんじて。


妖精達がそう言うと、精霊の束が光として現れ、渦巻き、イセロラの手に集まった。まばゆい光は収束し、剣のような形を作ると、質量を持ち、イセロラはそれを掴んだ。


モグラ・キングはその光で驚き、両手を開けて仰け反りそうになる。イルミミは既に数ヶ所から血を流しており、片腕片足で立ちはだかるままであった。そして生徒達は見た。光の剣を持ったイセロラが、勇敢に、果敢にクラスメートを守るように、怪物<モンスター>に突進して行くのを。


「うわあああああああああああああっ!!!」

イセロラの恐怖にも似た叫びと共に、モグラ・キングの腹の中心に光眩く剣は刺さり、一瞬辺りが暗くなった。

そしてモグラ・キングは光の爆発と共に破裂した。身体の中から、光が漏れるように、モンスターの体は散り散りになりながら、光に包まれ、浄化されるように消えていくのを皆は見た。


それは、光の紙吹雪のようで、ダンジョンは光る雪の降るような異世界に数秒、包まれた。


「爆発王だ…」沈黙を破り誰かが言った。

「爆発王だっ!!イセロラが、モグラ・キングを爆発させやがった!!」新たな声があがる。

「爆発王よ!!!バーミリオン様の予言だわっ!」泣き始める生徒達と、歓喜に叫ぶ者達が一斉に声をあげた。


イセロラ

イセロラ!

イセロラ!!


皆は声をあげ、新しい英雄を迎えた。

イセロラ・バーンシュタイン。『爆発王』の誕生だった。



ー了ー




登場人物 

イセロラ・バーンシュタイン: 白魔導師/生徒 「カエル殺し」

ミューミュー・キーストーン: 黒魔導師/生徒 


イセロラ・パーティ: 『爆発王のパーティ』

*イルミミ・オーランド: 白魔導師/生徒 

モブワン・ウェイブ: ブタ小屋生徒。槍・盾・片手剣・短剣。

ニゴウ・リラ: ブタ小屋生徒。両手両刃斧x2、盾・短剣。


ミューミュー・パーティ: 『ザ・リヴィング・デッド・ボーンズ』

バーミリオン・メタルスミス: 黒魔導士/生徒。ボーカル。

ハード・ロック: ブタ小屋生徒。両手棍棒<ダブル・メイス>。ドラム。

フリーク:ブタ小屋生徒。両手斧<バトルアクス> 。ギター。

ミューミュー:陰に潜む。陰ながら応援。



ザ・キッシンジャー: マギ・マスター「虹色の魔導師」


コイン・コーランドリー: マギ・マスター 「無色の魔導師」

シャーロット・リリ: 白魔導師/メイジ (イセロラ担任) 「シャーロットせんせい」

ポポロン・パーラッセル: マギ・マスター (老教員) 「流星の魔導師」


アイリィ・シャーリィ: 白魔導師/生徒 

グレンノ・ホノー (グレン): 黒魔導師/生徒

キララカ・カラー (キララ): 白魔導師/生徒

クークリー・リル (ククリ): 黒魔導師/生徒




用語解説


魔法剣<マジック・ソード> : 精霊のマナを剣にする。(伝説)


魔導剣<マギ・ソード>: 剣と杖を合わせたもの。殆どが小剣<スモール・ソード>。

ランク1(銅):柄に銅の装飾。

ランク2(銀):柄に銀の装飾。魔結晶を嵌め込む細工がよく施される。

ランク3(金):柄に金の装飾。魔結晶を幾つか嵌め込むものが多い。

杖<ワンド>: 魔力を流す媒介。短い。

長杖<ロッド>: :魔力を流す媒介。長い。

長剣<ロング・ソード>: 両手で扱う身の丈ほどの長い剣。

小剣<スモール・ソード>: 針剣<レイピア>を市内や屋内でもっと使いやすく、小さくした剣。

針剣<レイピア>: 長く、細く造られた市内と決闘用の剣。

両手両刃斧<バトルアクス>:両手で持つ大きさの両刃の戦斧。


瞑想状態<トランス>

命の輝き<マナ>

精霊のマナ<マナ・エレメンタル>

自己のマナ<マナ・プラーナ>

超自然事象<マギ>

合同詠唱<マルチ・キャスト・マギ> 

自動発動魔法<オート・アクチュエータ>


魔法名:

黒魔法ブラック・シャドウ: ミューミュー専用魔法。影に潜める。

白魔法キルキルキル: イルミミ自動発動白魔法。トランス制御不能時の身体強化魔法の暴走。

光魔法ハリセン: ラーニング可能。悪魔を爆発させる接近戦用魔法。

炎魔法バーニング・フィンガー:燃えた掌で相手を掴む。とても熱い。

水魔法メイク・ドロップ: どんな化粧も落ちる。


モンスター名:

モグラ・キング: とても大きなモグラ。テンパると人を襲う。

アングラ・スパイダー: 地下に生息する大きな蜘蛛。

サイケ・フロッグ: 毒液に錯乱作用がある。誰彼かまわず体液を口から飛ばす。

クラック・フェイス: 人型モンスター。身体を捻ったまま絶妙なバランスで硬直する。


法律・条例:

1・魔導の者は王となる資格を持たない。

2・魔導の者は領地を持つことを許されない。

3・魔導の者は政治に関わってはいけない。


4・魔導の者は魔洞窟攻略の功績を得る権利を持つ。

5・魔導の者は魔洞窟内でお互いの殺生を禁ずる。

6・魔導の者は魔洞窟発見の際に名付けの義務を持つ。


7・魔導の者は命を延命させてはならない。


8・魔導の者は妖精を傷付けてはならない。

9・魔導の者は己の神を信仰してはならない。


10・魔導の者は王に忠誠を誓うこと。

人間とは何か、との問いに「優しさ」ではないのか、とふと思ったことがありまして、そんな思いを機に筆を取り始めた作品です。優しさとは一旦かけ離れたキャラクター達が垣間見せる言動や対応に、なぜか優しさを感じれたらな、と試行錯誤して執筆した箇所が多々あります。どうやったら、私たちはお互いに優しくなれるのか、をテーマにした作品にしては、やたら爆発という単語が多くなってしまいました。


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