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喬木まことの短編

ダメ出し王子 ーそれは致命的だなー

作者: 喬木まこと

王子、ボッチ飯してたら、ヒロインとその取り巻きに絡まれるの巻

「それは致命的だな」


王国貴族の子女達が通う学園のカフェテリア。吹き抜けの高い天井には大きな天窓が備え付けられ、鮮やかな夏の空が学生達を見下ろしていた。また、二階席は高位貴族のみが使用するスペースで、さらに王族のみの席もある。


先ほどの台詞を放ったのは、その王族専用席にて食後の紅茶を楽しんでいた、第二王子フレデリックであった。


本日フレデリックは婚約者の公爵令嬢は家の都合にて休みのため、一人でランチタイムを過ごしており、珍しくボッチ飯であった。


フレデリックは「いいさ、寂しくないもん。離れてる時間が愛を育てるのさ」などと考えている。


そして自分は甘いものは苦手なのにも関わらず、婚約者が普段、好んで食べているマカロンを無意識に注文していた。


仕方なく、一人でサクサク齧っていると、そこに乱入してきたのは、文官を多く輩出している家のアンドレ、近衛隊長の子息であるドゥエル、商会を営む家の息子トロイ、そして最近話題になっている男爵令嬢のティティの四名。


令息達は婚約者がいるにも関わらず、平民上がりの令嬢ティティに傾倒しており、学園中の注目を浴びていた。


もちろん彼らの婚約者達は、令息とティティに苦言を申し立てた。しかし、ティティは「平民だったから、わからない」「平民ではこうだから」などと言ってきかないし、令息達もティティを庇うという悪循環に陥っていた。


それにしても突然、ランチタイムに押しかけるとは。


学園に在籍している際は、皆等しく学生である。しかし、あまりに無作法な振る舞いだ。侍従や護衛騎士達は彼らを追い払おうとしたが、フレデリックは昼休みが終了するまでならと話を聞く事にした。暇つぶしにはなるかもしれない。


令息達曰く。


「このティティは元は平民であったため、貴族の常識やマナーには不慣れである」

「そのためか、中々、ご令嬢達から受け入れてもらえない」

「どうか、王子に相談に乗って欲しい」


ティティ曰く。


「元々、女の子からは嫌われやすくてぇ。ティティは仲良くしたいのにぃ。気が付いたら避けられちゃうんですぅ」


なんか、分かる気がすると思ったが、それはただの個人の感想であると考え直し、建設的な話をしようとフレデリックは決めた。


そして、冒頭の台詞を言ったのだ。


「それは致命的だな」


でもって、王子はもっとキツイことを言い出した。


「君はすでに成人を迎えているだろう。にも関わらず、同性との友人関係を維持することも出来ず、異性の友人とばかり過ごし、女性の友人が一人としていないなど、貴族夫人として生きていくつもりであるのならば絶望的だ」


フレデリックとしては、ティティの現状から生じる不利益を明確にする事で改善策を話し合うべきだと考えていた。


しかし言われたティティ本人はしばらくポカンと口を開けており、内容を理解しきれていないと言うより、予想外の言葉を言われ、その事実を受け入れられない状態であった。


令息達も、この哀れなティティの話を聞けば、フレデリック王子はティティに寄り添い、冷酷な令嬢達に注意を促すと思っていた。


「そ、そんなぁ。ひどぉい」


ティティは両手で拳を作り口元に当てる仕草に加えて、瞳を潤ませる。


フレデリックは「なるほど、これは珍妙な生物だな。これが学友の言っていた“おもしれー女”というやつか」と思った。


「では、馴染む努力をするといい」

「ありのままのティティを好きになってほしぃのぉ」


我が婚約者のように頑張り屋さんではないようだ。「おもしれー女」は「素敵な女性」ではないらしい。


今にも泣きそうなフリをするティティの様子に気が付いたアンドレが窘めようとするが、フレデリックは逆に尋ねた。


「殿下、それは、あまりにも言い過ぎかと存じます。ティティは素晴らしい女性です!」

「では、アンドレ令息は外交官を目指していると聞いたが、君は奥方が女性は苦手だから大使本人の接待をさせてくれと言ったら許可するのかい?」


外交官は他国との交渉なども行うが、当然、接待も行う。高官達は殆どが妻を伴って訪問しており、夫人達との交流やもてなしをするのは、外交官の妻の役目である。


しかし、仮にティティが自分の妻だとしたらとアンドレは考える……


「やだぁ、奥様方、ティティのこと睨むのぉ、こわぁい。無理ぃ。あーん、アニル国の大使様って、すてきぃ。仲良くなりたぁい」


ティティは美しいものに目がない。ドレスや装飾品はもちろん、美しい人間も愛しているのだ。そこに下心はないが、対外的に見てどうだろうか。


例えば、美貌と知性を謳われるアニル大使は、友好国アニル国の女王陛下の王配である。不敬、むしろ下手をしたらハニートラップを疑われて国際問題だ。


フレデリックの質問はとまらない。アンドレが答えられずにいると、ドゥエルに向き直る。


「君は卒業後は騎士団への入団を希望しているのだろう。奥方が、女性同士の付き合いは無理だから騎士団の婦人会には出席せず、騎士達と親しくしていたら良しとするのかい?」


騎士は遠征などで、長期間、家を空けることも多い。夫のいない間、夫人達は情報共有をしたり、互いに助け合い家や子供達を守る。また戦場で物資が必要な場合は騎士団の補給部隊に寄付し、支援をしてくれるのだ。


だが、ティティがドゥエルの妻だとしたら……


「やだぁ、奥様方、ティティの事、怒るのぉ。もう、婦人会に行きたくなぁい。あっ中隊長様、すてきぃ。筋肉触らせてもらいたぁい」


ティティは努力家である騎士を讃えており、その肉体美を好ましいと言っている。しかし、他者からは純粋な感情だとは思われない可能性がある。


夫達の体に触りまくるティティを不愉快に思い、ドゥエルの隊は支援が滞るかもしれない。会員以外からの友人のツテも最大限利用する彼女達の寄付は馬鹿にならないと聞く。また、風紀の乱れを増長させた場合、出世が危ぶまれるかもしれない。


そして、フレデリックは当然トロイにも尋ねた。


「ご実家の商会の仕事を君も手伝うのだろう。奥方が顧客の細君ではなく、夫達の案内をしたいと言っても構わないのかな?」


商人の妻は当然ながら、商会の品々の宣伝をするが、決定権を持っているのは、実は当主よりも家政を取り仕切っている奥方だ。食料から酒、茶葉、菓子類などの嗜好品に、石鹸やリネンなどの生活必需品はもちろんのこと。ドレスや宝石など単価の高い商品を購入するのは貴族女性だ。


もし、ティティがトロイの妻だとしたら……


「やだぁ、奥様方、ティティのことバカにするのぉ。もう、お話したくなぁい。商品の説明なんて出来なぁい。あ、伯爵様、カッコいい。一緒にいたぁい」


ティティは堅苦しく相手をもてなすことよりも、気兼ねない愉快な会話を好む。それは彼女の天真爛漫な気質によるものだが、顧客から見たら不快に感じられるかもしれない。


顧客の夫と親しくなろうとする商家の嫁など言語道断だ。夫人達の情報網は侮れない。1ヶ月もしないうちに、社交界から締め出され、店は追い込まれるだろう。


生々しい想像で現実を直視した三人に対し、ティティは全く状況を理解していない。


「君は将来どうするつもりなのかな?それによって対策は変わるだろう」


そう尋ねられたティティは答えた。


「えっとぉ、ステキな人とけっこんしたぁい」

「今のままだと貴族男性とは無理だな」

「えっ、じゃぁあ、王子様とけっこんしたぁいですぅ」

「王族はさらに難しい。同性の貴族女性と交流出来ない妃など論外だ」

「でもぉ、王妃さまって、女の子で一番偉いんですよねぇ?ティティのいうこときかないとフケイでしょお?」

「我が王家では、そのような女性は迎え入れないよ」

「けどぉ、好きになったらカンケーないですよねぇ」


フレデリックは段々面倒になってきた。


「少なくとも私の愛する婚約者は同性の友人は多数いるよ」


そう言うと、ティティは何やら悲しげな顔をつくる。


「やだぁ、政略できめられた婚約者なんて、おうじさま、かわいそぉ」


それは、フレデリックの砂粒程度に残っていた親切心を吹き飛ばすのに十分であった。


「なるほど、分かったよ」


フレデリックは恐ろしく優しげに柔和に微笑む。


「君は性格が悪いんだ」

「ほぇっ?」


奇妙な鳴き声を上げる珍獣に丁寧に説明をしてやる事にした。


「聞こえなかったかい?もう一度言うよ。君はとても性格が悪い。だから同性の友人ができないのさ。私は先ほど言ったよ“愛する婚約者”とね。それを可哀想だと?残念な頭だね、馬鹿も休み休み言うがいい。君は人の話を聞いていないし、己の迂闊な発言で相手がどんな気分になるか想像も出来ない無神経さを持っているんだよ。思いやりと気遣いが足りていない。私なんか、たった十数分過ごしただけで、君の性格の悪さを理解出来たよ。長く一緒に過ごしている、君と同じ淑女科のご令嬢達には、もっと不快な思いをさせているのではないのかい?だから、人が離れていってしまうのさ」


一見、この第二王子は非常に柔和で穏やかな貴公子に見えるので、寛容な性格だと多くの者は勘違いしているが、フレデリックがどこまでも寛容に甘くなれるのは婚約者ただ一人である。その他の事柄、人間に対しては酷く辛辣なのだ。


しかし、生まれた時から染みついた王子様微笑み(スマイル)は、どんな時でも発動する。そのため、どれほど鋭い言葉の刃を突き刺している最中でも笑顔なので、言われてる方は脳が理解出来ない(バグる)


その時、昼休み終了の鐘が学園に響き渡った。


「じゃあ、私は自分の教室に戻るよ。これ以上は相談に乗っても力にはなれないから、もう話しかけてくるのはやめるように」


フレデリックは、もう用はないと立ち上がった。そして呆然としているティティと三人の令息に向かって、改めて言い放つ。


「性格が悪い。それは致命的だ」

アンドレ、ドゥエル、トロイの三人はティティに親切にしてやらない、婚約者達に「思いやりがない」「気遣いがない」「性格が悪い」などと言ってました。


また、フレデリックは、この後、彼らのパパ達にこんな事あったよー。君らの息子ってバカなのー?将来の見込みなさそうだねぇー。という手紙をしたためました。もちろん、彼らの婚約者の家にもです。


そして彼らの婚約は白紙になったとか。


エッセイ【短編の後書きとか解説とか】に解説や人物紹介を公開中です。

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「これではヒドインに品性を求めるなど絶望的だな」
言われて直ぐ解像度の高い想像ができるのに、言われるまで想像しなかったのか。 ちょっとでも想像できていたなら婚約者を失うことなどなかっただろうにw
3人とも目が曇っている割には、想像の中の阿婆擦れ女の解像度が高い(笑)
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