橙野茜のアリバイは
年が明けて、1月6日に橙野茜さんの取り調べを行った。
彼女も、ゲームに参加していた人の一人だ。
自首して来たのも、同じ理由で。
『リアルな感触の夢だと話した』
内容は、青山と同じだ。
「だから、気持ち悪いくらい、左手に感覚がある夢なんだよ。私が、殺したかもしれないけど、動機が無いの。本当に、私が殺したのか知りたいだけ」
渡瀬と清盛先輩は、2029年の1月6日に、神戸へ移動して。
明石署の取り調べ室で、橙野茜に事情聴取を行っていた。
2人目の自首だ。先川晴美事件の容疑者なのか。
「橙野茜さんが、無実だと証明する事や、人はおられますか」
違う答えが欲しいが、確認のために聞いた。
「だから、私達は騙されたの。黒田って男に」
同じようだ。
俺が、パソコンに入力していると。
「VRゴーグル付けて、ゲームしていたんだよ。その日は、新作のダンジョンマスター・リバイバル3の発売日で。普通にクリアしたら、10時間チョットで終わるんだけど。やり込み要素が沢山あって。耐久96時間で、どこまで進めるかって、勝負していたんだよ。私達は」
橙野茜、26歳。Aカップかな。ベリーショートのボーイッシュな感じで、気が強い。
彼女も左利きで、ゲームのプロ。チームストレンジャーのメンバーで活躍中。
「あの時は、皆で同じ白いTシャツを来て、白いズボンも準備されていた。それがルールだと知らされて、皆部屋で着替えた。その後で、ソフトを渡されて、一斉にスタートしたの。プロは、私だけだったから、賞金の100万円は私のものだと、確証したけどね」
2年前の事件の日は、ゲーム販売日で。先行プレイしていた奴の動画は見ていたから、ある程度のサブクエは、頭に入れてあった。
オンライン、ゲーム開始の合図で、早々にエントリーしている。
女戦士で、大盾を持ちながら、巨大ハンマーを装備しているキャラを選択し。ポイントがもらえるダイスは、68が出て、やり込まずにスタートした。
最初の休憩は、4時間後のトイレだった。
上の階のトイレは、鍵がかかるようで、少し離れているが、上の階へと向かった。
帰りに。黒田が提供した、共同のクーラーボックスの中から、エナジードリンクを取り。先程の部屋へと戻った。
ここは、廃墟らしく。
黒田が、発電機を持ち込み、ヘッドホンを外すと、かなりうるさい。
電話回線は、近隣の家から盗んでいる。
「そうだ、最初に儀式をやった。サバイバルナイフを持ち、ワンホールのケーキをカットしたんだ」
それは、鑑識が捜査中だ。
無名だった指紋が、5人もいきなり現れたのだから。鑑識も、驚いていた。
青山、橙野、柴田、緑川、茶畑。
皆が、同じ廃墟にいたと言っているし。
5人とも、写真を見せて裏取りも出来ている。
殺害現場の近くで、廃虚のアパート。
赤石の実家が有り。地元で、いじめの事件となった高校は、目と鼻の先に有った。
放課後のサッカー部に、赤石は呼び出されていた。
「おい、今なんった。ぁ゙~、保つの分際で」
黒田は、何処かで拾ってきたであろう、背もたれの無い木製のベンチに腰掛けていて。大音量で、ブルーハーツが、かかっていた。
2月3日の寒い日で、3年生は近寄ることがない、サッカー部の部室に、2年生の赤石保は、正座させられていた。
目の前には、石油ストーブが置かれ。問題のヤカンも、湯気を漏らして湿度を保っている。
両サイドの壁は、コンクリートブロックで仕切られていて、大声を出すと、隣の部室から苦情が出る。
6畳が縦に2つ並んだぐらいの広さで、ドアと小さな窓は、対照的に配置されているが。今日は寒いので、両方閉じている。
男子部室らしく、少し汗臭い。
「だから、なんでお前の言う事を、俺が聞かないといけないんだよ。このバカが」
また、黒田が声を荒げて、コンクリートの床を蹴り、かかとを踏んづけて履いていた靴が脱げた。
赤石は、笑いを堪えながら、俯いている。
「聞いてんのか。さっさと4万払えよ」
赤石は、我に返り。黒田を見上げて。
「無いです」
ボソッと呟いた。
いつものように、壁に立てかけられた、竹刀を手に取り。
いたぶるように、赤石の横に振り下ろす。
「もう一回、言ってみろ」
赤石は、感情が溢れてきて、涙目になりながら。
「給料は無いです。クビになりました」
「はぁ~。ラーメン屋の洗い場をクビになるって、本当に馬鹿なのか。普通、ラーメン屋なんてクビに、なんね〜だろ。使えねぇ」
黒田は、赤石を馬鹿にするよつに、さげすみ、嘲笑い、竹刀の先でツンツンと頭を突いた。
これには、赤石も拳を握り、耐え忍んだが。途中から自分が情けなくなった。
何でこいつに、搾取されないといけないのだろう。
人の事を、馬鹿にするだけしか出来ない奴に、何故逆らえないのだろう。
恐怖から、逃れたかった。
赤石は、涙をためながら黒田を睨んだが。
「いいのか、俺に逆らっても。大変な事になるぞ」
赤石は、涙を拭いて。握り拳を解いた。
「分かれば、良いんだよ。今月分はいくら稼いだんだ」
赤石は、財布を取り出して。全てを、ひっくり返した。
一万円が1枚と五千円札は無く、千円札が3枚。小銭と病院のカード、レンタルビデオのカード。その他のカードとゴミが散らばり。
サッカー部の部室が、赤石の私物で散らかった。
その中に、コンドームも入っていたが。
これは、『黒田がお金が貯まるおまじない』と言って、無理やり財布に捩じ込んだモノだ。
本人はそれを、忘れていた。
「何だよ、一丁前にこんなモノを入れやがって。先川と、ヤれると思っているのか。変態」
これには、赤石も怒りを表に出して、立ち上がった。
黒田も、立ち上がって。赤石の胸ぐらを掴んだ。
「何だやるのか」
黒田は、竹刀の柄を使い。赤石の肩に当てた。
「根性ねぇ~クセに、いきがんなよ。この変態」
黒田は、左手で掴んだ胸ぐらを、一気に引き寄せて。
「分かったか」
次の瞬間に、左手で一気に押した。
赤石は、倒れまいと右手を伸ばして、蓋の無いヤカンを強く握った。
黄金に輝くヤカンには、半分の熱せられたお湯が入っていて、倒れ込む赤石の右手と胸を襲った。
『グワァー。熱い。熱い』
赤石の声は、部室の外まで響き。
外に居た、先川晴美が扉を開けた。
黒田は、その場から逃走を図り。
先川は、バケツを持ち何度も、何度も、何度も、水道の水を汲んでは、赤石にかけた。
救急車で搬送され、三日三晩うなされた後。赤石は、目を覚ました。
その後は、数回の皮膚移植を行い。皮膚に着いた服を、取り除いている。
黒田一家は、持ち家を手放した後。親戚からお金を借りて、慰謝料を払い。離散したと噂で聞いた。
赤石は、障害者となり。リハビリに、性を出していた。
先川晴美は、赤石のリハビリに同行しているのを、病院で何度も目撃されている。
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