今わの際に授けられた異能とは
わしは、今年100歳。
じつは、もうすぐ死ぬんじゃ。
確か3日後だったかな?ニュースでそう言っていた。
心残りは、ある。
乱れに乱れた世の中で、わしは自分が何一つ、何もできなかったことじゃ。
この100年間、世界はめちゃくちゃだった。
第三次世界大戦が勃発し核ミサイルが飛び交い、わしとわしの家族は地下深くの避難所で地上の放射能が薄らぐまで30年間を暮らしたものだ。
巨大地震や巨大台風など自然災害も、頻発した。
わしの住んでいる地域も高さ50メートルの超巨大津波によって壊滅的な被害を受けた。
また宇宙からなぞの宇宙船(というより宇宙戦艦)が多数飛来し、アニメで出てくるような惑星破壊クラスの超強力な砲で地球表面をこんがり焼かれてしまった。
生き残った人類は地下都市に避難したものじゃ。
そして、極めつけは、巨大な隕石が地球に向かってまっしぐら。
ニュースによると、その隕石は地球の数倍の大きさで、衝突した瞬間、地球は粉々の木っ端みじんになるという。
せっかく100年間、生き残ってきたのに、残念無念じゃ。
3日経った。
昼なのに、空は真っ暗。空一面が巨大隕石に覆われているんじゃ。
それは、すぐそこにあった。
既に社会活動は、止まっておった。
というか、ビルの上から人が次々に落ちてくる。世をはかなんで飛び降りているんじゃ。
わしの家族も、昨日、薬物による一家心中をしてしまった。わしも誘われたが、せっかく100年間生き残ってきたいのち、最後の最後まで抗うと断った。
そして、その瞬間が訪れた。
ものすごい風が人を吹き飛ばし、ビルを吹き飛ばし、地面も吹き飛ばした。
わしも吹き飛ばされて、空中高く舞い上がった。
なぜか下を見る余裕があった。もはや地面どころか、列島が丸ごと吹き飛ばされておった。
宇宙の黒い空間が目に入った。
空中に飛ばされた近くの人たちのほとんどが隕石の破片にやられたり、強い風で窒息したり、意識を失ったりしていた。
わしは、その中をかいくぐり、かいくぐりして、何とかいのちを長らえておったが、宇宙に出ればそれもおしまいだ。
空気が、酸素が、なくなる。
いや、既に地球の大気は雲散霧消しつつある。
やがて、のどが苦しくなった。息が詰まっているんだ。
「あ・・・終わりか・・・無念・・・生きたい・・・」
わしは、つぶやいた。声も出せないのに、つぶやいた。
まばゆい光が差してきて、わしを、わしの身体を包み込んだ。
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「ケイタ・・・ケイタ・・・」
「うん?誰だ?俺の名を呼ぶ者は?」
わしは目を覚ました。
どうやら気絶していたようだ。
自分の身体はとあちこちを見たが、無事だった。というか、なんだか身体が軽い。
「うわ?俺、生きとるじゃん?やったあああ!」
わしは生き残った喜びのためか、口調が何だか若返っていた。
「ケイタよ・・・こちらの姿はお前には見えないと思うが、聞くとよい。われは、神じゃ」
厳かな声が重々しく響いた。
ふと、数十年前に流行した異世界転生もののラノベやアニメの転生の瞬間シーンを思い出した。
「ケイタ、お前は、この百年間、驚異的な能力により、常人ではなしえないことをした・・・」
え?俺はこの百年の人生で、何一つできなかったんだが?
「ケイタ、お前が百年間生き続け、最後の瞬間も生き残ろうと努力した、その素晴らしき魂に対し、贈り物を与える・・・ぞんぶんに使うがよい・・・そしてンンン年後、また会おう・・・」
んんん年後?よく聞こえなかったのだが?
それに、なんだか視界がぼやけていって・・・・・
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「ケイタ、ケイタ・・・おい、何寝とる?」
俺は、いきなり怒鳴られた。
せっかく気持ちよく寝ていたのに、誰だ?俺の安眠を妨害するやつは?
と顔を上げたら、禿げ頭。なーんだ、先公か。
それは、担任教師の禿げ頭だ。
「うーーーん、よく寝たー」
と大あくびをし、伸びをしていると、遠くのほうからキィィィィーーーーンという何とも言えない耳をつんざく音がした。
俺は、なにげに窓の外を見た。
上空の、けっこう近い距離の、低空のところに、500人乗りの大型旅客機が飛んでいた。
それはきりもみ状態で頭からまっしぐらに降下していて、しかもその降下している方向がなんと?俺の学校の、俺のいる教室???
強い既視感が、俺の脳裏に浮かんだ。
あの日、高1の5月、夏のように暑いその日の午前9時すぎ、俺の在校する高校に旅客機が墜落し、乗員乗客全員が死亡、激突された高校の校舎は木っ端みじんに破壊され、その校舎で生き残ったのはわずか一人、俺だけだった。
その瞬間、俺の本来の知識とは違う新しい知識というか情報が、浮かんだ。
俺には、異能がある!
人や物を瞬時に異次元バーチャル空間に飛ばすことができる、異能。
その異能の名は・・・・・
俺は、そのまっしぐらに突っ込んでくる旅客機に向かってVサインを作り、叫んだ。
「ヴいいいいいいいいいい!」
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俺は、異次元空間にいた。
その中には、高校と旅客機が、リアルと寸分たがわぬ状態で存在していた。
旅客機は高校の校門の前に駐機。乗員乗客が慌てた様子で、ダッシュボードを使って降りてくる。
中にはダッシュボードの端から下にこぼれおち十メートル落下した者もいたが、無傷で立ち上がり、本人はきょとんとしていた。
高校の生徒たちも、ぞろぞろと出てきた。
特に、旅客機まっしぐらの俺の教室の生徒たちや担任教師は、みな直前の恐怖のため顔が真っ青。
生きているのか死んでいるのか分からないような呆けた顔で、ぞろぞろと校舎の外に出てきた。
やがて人々は
「ここは、どこだ?」
「助かったのか?」
「助かったー」
「やったー!」
と口々に叫び、安堵し、泣きはらしている人もいた。