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北藤岡 八高線

関東平野のギリギリ端っこ。

出入り口にある群馬県高崎市。


Googleマップで見ればわかるが、日本の背骨近くにあり、東京までの距離を日本海側に行けば糸魚川になる。


ちょうど平野が途切れるあたりであり、日本海側文化と太平洋側文化の結節点だったと地理的には予想される。


日本海側と太平洋側だと意外と文化が違う。

わかりやすいのは食文化だろうか。


今でこそテレビの影響で殆ど差がないが、テレビがなかった時代は今よりずっと違う文化圏だったと思われる。


都市と田園でも違うし、人の文化グラデーションが今よりもっとはっきりしていた時代だったのかもしれない。


八高線は関東平野を囲む山際を走る電車であり、八王子まで続いている生活路線だ。


こんななんもない場所を走ってどうする?


と群馬県と埼玉県に住んだことがある俺は思っていたが、戦前は生糸生産で栄えた街道沿いにあたり、需要はあった。


群馬県で出来た生糸を横須賀まで持っていく。

八王子まで行けば相模川や多摩川の水運が使えた。


歴史を確認すれば、当時必要だったが今は廃線直前。そんな路線だとばかり思っていた。


倉賀野駅始点だが、高崎駅に乗り入れており、実質は高崎始発である。


JR東日本の割に、まだ非電化路線。

かつ東京近郊路線なのに東京都心部に行かないから地方交通値段という非常に珍しい電車の中は、1時間に一本も下手したらないからか、満員電車だった。


車内には若い人から見るからに国外の人までいる。


沿線利用者として、自動車社会な群馬県で自動車を運転しない人達向けであることは想定内だったが、まさかこんなに若い人達が多いとは、さっきのどう考えても「昭和」な世界がまだ続いているように感じている。


そう。古い車内にはいっぱいの高校生。午前中に高崎駅に行ってきた方々でいっぱいだった。


部活動の帰りだろう。

集団のひとつが弓道部なのは弓があるからすぐにわかった。


あちこちで、携帯電話そっちのけでおしゃべりに興じている子たちを見ていると、本当にわからなくなる。


おそらく、調査対象もこうして、この電車に乗って一駅、移動していた。友達とかと一緒に、いつまでも続いて行きそうな、そんな時間とエネルギーで。


50年と簡単にいうし書くが、人の歴史において、半世紀の文化が継続していることがどれだけ大変なのか。


例えば、シオラレオネの平均寿命は34歳。

難しいことは容易にわかるだろう。


1976年から1979年の間、調査対象は高校生として八高線で通学していた。この事実に対して2023年9月に実地確認をしている。


これだけ実体時間が流れても「ああ、そうだったのだろう」と感じさせてくれる。それは「高校時代」という文化共通項を調査対象と俺が持っており、今、目の前の「彼ら」が表しているからに他ならない。


今見ている「彼ら」の時間は最大3年間。

いつまでも続かない。それは「わかっている」。


だが、夢ややりたいこと、これからのことや直近のテストなど、たった5分の間にころころと話題を変えながら話している「彼ら」を見ていると、それはずっと続くような錯覚が起こる。


夢が続く。ずっと、若さも体力もエネルギーも無限にある。信じて疑っていない、明日が来ること。


調査対象は「カリスマ」だった。

若くして成功し、人が数になるぐらいの動員数を誇った「歌手」であった。


ステージ上からは、人の「顔」など見えなかっただろう。人が単なる数字であったことは容易に想像がつく。それが「ビジネス」だ。


彼は、一体、なんだったのだろう。


スイッチを押して、扉を開く。

曇天の中天。水と電車の鉄錆の匂いが鼻を掠めた、北藤岡。

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