桃の種
むかし、むかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山へ柴を刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると川上から桃が流れてきました。
なんと大きな桃かしら、それにとても美味しそう。
そう思ったおばあさんは、桃を拾うと家に持ち帰り、おじいさんと仲良く半分こにして食べてしまいました。
すると。たちまち二人は若返りました。さらに神通力とでも称する他ない霊妙不可思議な力を身に宿したのです。
「これは仙桃に違いない」
今は若者となったおじいさんは「種も食べればもっとすごいことが起きるんじゃないか」と欲心を起こすと、よしておけと忠告するおばあさんの制止もなんのその、パクリと一口に飲み込んでしまいました。
すると。なんということでしょう。
「あれ。あにさまがあねさまに! それともわたしがあねさまだろうか」
おばあさんの仰天したこと。目と口を丸くしてとぼけたことを言いだします。
ほんの少し前までおじいさんだった若者は、今度は若い女の子になってしまいました。
おじいさんもおばあさんもたいそう驚き、慌てふためきましたが、すぐにそんなことは気にしてはいられなくなりました。
おじいさんとおばあさんの年老いた兄妹が、若い姉妹になって何か月か経った頃、おじいさんだった女の子のお腹が、日に日に大きくなり始めたのです。
おばあさんだった方の年上の妹にはなにもありません。
思い当たるのは一つきりでした。
「これは桃の種を孕んだに違いない」
‐☆・☆・☆‐
「で、お前が産まれたってわけ」
光陰矢の如く。月日はまたたく間に過ぎ去って。十数余年。元おじいさんで見た目女の子な母親は、自分が腹を痛めて産んだ子に、その日、真実を放して聞かせた。
尚、息子はただのしょうもないホラ話だと思ったのだった。