社畜の学園デビュー
「おはようございます、父上、母上」
リリアに思いっきり殴られてから俺の脳内は、この巨乳……じゃなかった、肉体の持ち主であるルイーザ・サレンツィオの普段の言動がある程度わかるようになった。
殴ったら思い出すとか、昔のアナログテレビかよ……。
「あら、今日は少し起床が遅いんじゃなくて?」
さすがに、母は目敏い……やっぱり母親って子供のことよく見てるんだよな。
テストの結果が悪くて隠してたときも、隠し事してるってのがバレてたりするし。
「すみません、私が部屋にお伺いしたところ自慰……ゲフンゲフン、Gと戦ってらっしゃったので」
おいこのポンコツメイド、今、自慰行為って言いかけたよなぁ?
この淑女であるルイーザがそんなことするわけないだろ?
「ゴキブリが出たのか、珍しいなぁ。王国の南部は暖かくてよく出るが……」
おい、パッパ、お前も余計な知識を披露しないでいいから!
じゃないとその場しのぎの嘘がバレちゃうダロォォン?
「まぁ!ルイーザはゴキブリが苦手だったのね!」
「えぇ、とっても!」
セ、セーフ!怪しまれなくて済んだ!
てか、今更ながらに気付いたけどこの世界にもゴキブリがいるのか……。
どこでも生息できるとかホントに生命力高いな。
「さ、冷めないうちに食べるぞ」
パッパがそう言うのでとりあえず席に着いた。
食器はお箸じゃないのか……そりゃそうか、ここは異世界だもんな。
目の前に置いてあるのはフォークとナイフとスプーン。
元いた世界じゃちゃんと使えてたかは謎だけどこのおっぱいが……身体が知ってることは大抵、実践できるっぽいから問題ないだろう。
マジでおっぱいに引きずられ過ぎてるな。
思わず自分の胸元を見てしまう。
「あら、また大きくなったのね?」
母が俺の胸をガン見した。
なんとも言えない気分になる。
これがあれか、男に体育の時間で体操服の胸元を見られる女の気分なのか……。
「アンナに似て、体つきが魅惑的だからなぁ」
パッパが隣にいる母の胸をつついた。
「やだ、ちょっと……侍女達もいますのに」
あー……いい歳した親のそう言うのは見たくないです。
「ルイーザ、世の中こういう男達ばっかりですから、十分に気をつけなさいね?」
「はい、母上」
パッパの言う通りで母は、間違いなく男ウケのいい体つきだ。
なんなら俺よりもデカイかもしれない。
「別にルイーザの事なら心配要らんだろうに。ルイーザは魔術が得意だもんな?」
そもそも俺は、心が男だし、他の男に触らせる気はない。
てか、ちょっと待て。
この巨乳、魔術が強いのかよ……。
魔術が強い胸とか最胸じゃん(意味不明)。
そんなこんなで終始思考がおっぱいに引きずられたまま、朝食が終わって自室に戻る。
「ルイーザ様!準備は整いましたか?」
ん?準備ってなんのことだ?
この後、俺は何をするんだっけ……?
「早くしないと学校に遅れてしまいます!」
え、学校……?
肉体の持ち主の記憶を漁ると、確かに学校に行くことが日課としてあるらしい。
学校名は……エルドニア王立魔法学院か……。
お、ってことは魔法バトルとかやるってことか?
元いた世界では、よくラノベとかアニメとかで読んだり見たりした光景だ。
俄然学校行く気が湧いてきた。
◆❖◇◇❖◆
馬車に揺られること二十分くらい?
大きな学校みたいなものが見えてきた。
敷地面積で言えば、職場のあったビルよりも大きいことは間違いない。
「ねぇリリア、これ転移で来たら何か問題でもあるのかしら?」
馬車に揺られるのも悪くないが、その二十分を屋敷でダラダラ過ごせるならそっちの方がいい。
「ル、ルイーザ様!?そんなことも出来るんですか!?」
俺は知らんがこの身体はやり方を知っているのだからできるんじゃないか?
「た、多分?できそうな気がするのよね」
確証は持てないし、はぐらかしとくか。
こういう風な言い方なら後から、やっぱり出来ませんでしたーとか言っても問題なさそうだし。
「それは凄いです!」
目をキラキラさせるリリア。
あれひょっとしてそんなに凄い魔法なのか?
「やっぱり私のルイーザ様は違いますね!人前で自慰行為するような変態かもしれませんが、魔術の腕は一流かもしれません!」
このポンコツメイド、まだそのネタを引き摺るのかよ……。
「自慰行為?なんのことかしら?で、転移が使えるのってそんなに凄いこと?」
異世界モノの作品なんかだとよく見るやつだけど。
「え、ご存知ないのですか!?仕方ないですね〜この優秀なリリアが説明して差し上げます!」
リリアが対面の席から俺の横へとやってくる。
「よろしいですか?転移というのは瞬時に異なる二箇所の場所を繋げて質量を持つものを転送する魔法です。距離を無視して強引に空間を繋げるということは魔力量を莫大に消費するということ。使用できる人は結構少ないんですよ?」
なら、人前で使うと良くも悪くも目立ってことか……。
外見はルイーザだけど心が俺だから、変に注目を集めちゃうと後々ぼろを出したときが大変そうだ。
どうにも遅刻しそうになったとき以外は、使用を控えておくか。
「なるほど、説明ありがとう。さすがはリリアね」
「えへへ〜もっと褒めてくださっても良いのですよ?」
あ、コイツ凄くチョロい……。
扱いやすくていいかも。
「なら褒められるように頑張ってちょうだい」
「かしこまりましたっ!」
リリアは対面の席で軍隊みたいな敬礼をしてみせた。
そんなことをしている間に、馬車は魔法学院の前へと到着した。
同じ制服に身を包んだ生徒たちが沢山いて、馬車ではなく徒歩で登校している人もいるようだった。
「ではルイーザ様、今日も一緒に勉学に励みましょうか」
「まかセロリ……じゃなくて、言われなくてもよ」
わかっていても、いいとこの令嬢ぽく喋るのは難しい。
ボロを出さないようにしなきゃな……緊張感を胸に正門をくぐったのだった。
というか、リリアも一緒なのか……。