世界に存在する【風】は俺の味方をしている
男に案内してもらい、件の戦場へと向かう。
飛び交う炎と轟音。
耳をつんざくような音が響き渡る。
「あれが……未知のドラゴン」
黒々しい鱗に、鋭い瞳。
まるで地獄からやってきたかのような姿である。
「それに、状況も決してよくない」
ドラゴンの周りには冒険者が数名いるが、誰もが傷だらけである。
いつ倒れてもおかしくはない。
「こんな状況なんだ。一周回って笑えるだろ」
男は乾いた笑いを浮かべて、涙を流す。
まさに絶望しているって感じだ。
「全員に退避命令を出してください」
俺がそう言うと、男は驚いた様子で俺の肩を掴む。
何度も揺さぶって、
「君、馬鹿なのか!? 本当に死ぬぞ!?」
正論である。
もしかしなくても、こんなことをすれば俺が死にかねない。
「でも、このままだと犠牲者が出てしまう」
戦場を再度見渡す。
ドラゴンと戦っている冒険者たちはいつ倒れてもおかしくはない。
俺の視線を追いながら、男は唇を噛み締める。
「分かった。責任は……取れない」
そう言って、男は全員に退避命令を出す。
全員が驚いた様子でこちらを見て、口を開いている。
「いいから! こっちに早く逃げてきてくれ!」
男が催促して、やっと全員が逃げてきた。
ドラゴンもこちらを見て、声を上げる。
「これで……本当にいいんだね?」
「はい。それで大丈夫です」
手袋をきゅっと奥まではめる。
少し気合いを入れるためだ。
さすがの俺も、こんな魔物を相手するには緊張する。
というか、死を覚悟する。
「やるよ、旦那様」
エレノアがこちらを一瞥する。
「ああ。乗ってやる、エレノア。俺に力を貸してくれ」
俺が拳を差し出すと、エレノアの拳と当る。
瞬間、エレノアが精霊の姿になり、俺の周囲を飛ぶ。
小さなエレノアが俺の視線の先と飛び、一瞬目が合う。
こくりと頷いて、俺は深呼吸した。
「やってやる! 覚悟決めたぞ!!」
地面を蹴り飛ばし、思い切り加速する。
やっぱり魔物を相手にするのは怖い。
体が恐怖でヒリヒリする。
でも、やるっきゃない。
誰かを救うためには、俺がやるしかないのだ。
「加速しろ! 吹き荒れろ! 風よ、力を貸せ!」
風が可視化され、俺の周囲を飛び交う。
手袋を再度はめて、ドラゴンを見据える。
やるぞ!
跳躍して、空中で一歩。
力強く虚空を踏みしめる。
風が地面となり、体を空中に浮遊させた。
――ビシャァァァァァァァンン!!
ドラゴンが轟音とともに翼をはためかせる。
風を巻き起こし、俺を吹き飛ばそうとした。
だが――無意味だ。
今、この世界に存在する【風】は俺の味方をしている。
相手が発した風すらも俺が巻き込み、自分の力にする。
ぐっと拳を握りしめ、後方へと引く。
深呼吸。風に意識を集中させる。
「あーうー!!」
エレノアの声とともに、俺は拳を前に突きつけ、
「《風の刃》ッッッ!!!!」
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