走る
土砂降りの中、俺たちは集落を走る。
悲鳴と建物が壊れる音が上の方から聞こえてきた。
上は山になっている。
多分、そこから魔物が降りてきたのだろう。
となると、祠は山の中にあったってわけか。
にしても、どうして魔物が降りてきているんだ。
「だ、誰か助けて……!」
魔物が見えた。
どうやら攻めてきた魔物はブラックタイガー、その群れのようだった。
案の定、紋章が刻まれている。
俺は剣を引き抜き、走る。
そして襲われそうになっている村人の前に立った。
ブラックタイガーの歯が剣とぶつかり、火花が散る。
どんな威力だよ……!
足で相手を蹴り飛ばし、怯ませる。
「逃げてください!」
「あ、ありがとうございます!」
村人が逃げていくのを確認した後、俺は前を見る。
すごい、かなりの数だ。
「こんなにも大量の魔物、恐ろしいね」
「ああ。正直震える」
エレノアが隣に立ち、ニヤリと笑う。
「私、旦那様と一緒にこいつら吹き飛ばしたいんだけど、どう? 乗る?」
エレノアの肩に手を置き、俺は集落を襲うブラックタイガーを見る。
「乗ってやろうじゃないか。力を貸してくれ、エレノア」
「そう言うと思った」
俺は手のひらを前に突き出し、力を集中させる。
「来い! エレノア!」
「あーうー!!!!」
小さな精霊の姿になったエレノアが俺の周囲を舞う。
暴風が吹き荒れ、近くにいた魔物を吹き飛ばした。
風が可視化され、緑色の糸状の物体がちかちかと光る。
「シャーロット! 俺がさばききれなかった魔物を頼んだ!」
「もちろんよ! 任せてちょうだい!」
今回は俺以外にも活躍してもらう。
確かに【精霊使い】の俺と力を合わせた方が強力になるが、一人だけでも十分な戦力になる。
「君は隠れていてくれ。俺たちが絶対に守るからね」
少女Aにそう言って、俺は前を見る。
大量の魔物。ああ、心臓に悪い。
手に魔力を集中させ、駆け抜ける。
「《風の刃》」
相手に向かって風の刃を放つ。
鋭利な風は全てを貫いていき、ブラックタイガーを倒していく。
しかしいかんせん数が多い。
「任せて!」
さばききれなかった魔物をシャーロットが焼き払っていく。
雨の中ということもあり、威力はあまり出ていないようだが問題はなさそうだ。
「よし。このまま順調に……」
「ちょーと待った!」
背後から声が聞こえてきて、ふと振り返る。
そこには、少し前にギルドで吹き飛ばした男とその他冒険者がいた。
「部外者のお前らは引っ込んでいろ! 俺様たちが全て蹂躙する!」
「ちょっと待ってくれ! ここにいる魔物は通常個体とは違う!」
「通常個体と違う? たかが紋章くらいだろ? それくらい余裕だ!」
「待て、話を聞いてくれ!」
俺の忠告を聞かず、目の前の魔物たちに突撃していく。
おいおい……待ってくれよ!




