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ポールの現実(ポール視点)

 司会者が叫ぶと、周囲から歓声が上がった。

 誰もがポールに注目している。


 心臓が痛い。

 今にも倒れてしまいそうだった。


 視界が眩む。

 しかし、早く前に進まなければ。


「どうした、ポールよ」


「な、なんでもありません」


 ポールはアルバートに返事をして、一歩、また一歩と前に進んでいく。


 前を見ると、国王様が自分のことを見下ろしていた。


 さすがはこの国を治めているトップである。

 雰囲気は圧倒的で、見られるだけで心臓が掴まれそうだった。


 ごくりとツバを飲み込んで、階段を登る。


 登りきり、国王の前に立った。


 さらに周囲から黄色い歓声が飛び交う。


 時間が止まったかのように思えた。

 手の震えが収まらない。


「剣を引き抜きたまえ」


「分かりました……」


 言われるがまま、ポールは剣を引き抜く。

 きらりと光る剣先。


「それでは、確認させていただく」


 そう言うと、国王様の瞳が光った。

 魔法陣が浮かび上がり、俺のことを睥睨する。


 静寂。


 そして、


「【剣聖】が確認できないが。これはどういうことだ?」


 さらに場が静まり返った。

 【剣聖】が確認できない、つまりはポールにスキルがないことを意味する言葉だった。


「ど、どういうことだ!」


 アルバートは慌てた様子でポールの下に駆け寄る。


「あ、あは……」


 ポールの脳内は真っ白だった。

 何も考えられない。


「こやつには【剣聖】なんてない。アルバート、貴様。まさか【剣聖】に覚醒していないのに、覚醒したと偽り私にここまでさせたのか」


「そ、そんなことは! 確かに息子には【剣聖】が!」


「何度でも言おう。こやつに【剣聖】のスキルはない。国王である私に恥をかかせた、ということで間違いないな?」


 大広間がざわめきだす。

 痛い視線がポールたちに突き刺さった。


「そ、そんな! まさか!」


 アルバートはポールの表情を見る。

 そして、すぐに青ざめた。


 表情が絶望を呈していて、【剣聖】がないことを証明していたようなものだったからだろう。


「本当なのか……ポールよ」


「ぼ、僕には【剣聖】なんてありません。奪われました、信じてもらえないでしょうが、奪われたんです」


 たどたどしい言葉を紡ぐが、返ってきたのは拳であった。


「ふざけたことを言うな! そんなことがありえるわけがないだろう!」


 そう言って、アルバートは「一体どこでミスがあったんだ」とぼやいていた。

 国王は自分たちを見て、


「ところで、こういう話が宮廷に入ってきた」


 アルバートは周りの兵士たちに取り押さえられ、無理やり国王の方を向けられる。


「貴様が追放した息子、アルマと言う者がSランク冒険者たちを助けたと言う話だ。冒険者たちは言っていた。彼こそが真の英雄だと」


「そ、そんな……馬鹿な……」


 アルバートは考える。

 ありえない。だって、あいつは外れスキルを引いたはずだ。


「アルバート、貴様を許すチャンスを与えよう。アルマを連れ戻し、再度ここに連れてきたまえ。私はアルマに興味がある。そこにいる……ポールと言ったか。彼ではなく、アルマを連れてこい」


「……しかしあいつは無能――」


「何度も言わせるな。周りを見ろ、これ以上恥をかいて自分の首を締めてどうする。選択肢はもうない。パーティーはお開きだ。再度、真の英雄が現れた時、集まり国を上げて祝おうではないか」


 アルバートとポールの頭は真っ白だった。

 まさか、落ちこぼれだと思っていたアルマが。


 嘘だろ……。


 しかし現実は非情だ。


 真実は、いつも一つだけであり、少なくとも二人の考えは間違っていた。


 二人が今するべきこと。


 それは、アルマを連れ戻すことなのである。

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