私、怒った
「もう小さいままでいる必要はないよね!」
「それも……そうかな」
公爵家での俺の立場はかなり低いものだった。
ただでさえ俺が家で腫れ物だったのだ。
エレノアが人間サイズでうろうろしていたら問題だろうと、小さいままでいるようお願いをしていた。
なんなら、追放されて清々したのか嬉々とした様子でエレノアは俺の周りを走り回っている。
まあ、元気なのはいいことだ。
精霊と言っても、見た目は人間そのものだ。
服こそ派手だが、どこかのお嬢様のように見えるだけである。
少し耳がとんがっているけど、多分誰も気が付かない。
「これからアルマはどうするの? 私と一緒に溺愛生活?」
「お前なぁ……まあひとまずはアルバート領から出ようと思う。さすがにここではもう生活できない」
「そっか! 迷惑なやつがいたら私との結婚生活が台無しになるもんね!」
エレノアは少し脳内がお花畑なところがある。
いや、俺のことを好きになってくれるのは嬉しいんだけど。
「とりあえず馬車乗り場まで行って領地から出ようか」
「賛成!!」
というわけで、俺たちは領地の中心部まで移動する。
そこでは多くの馬車が行き交い、活発な貿易が行われている。
そのついでに乗せてもらう、ってのが領民たちでの常識だ。
俺はというと、あまり大きな街には行きたくなかった。
というのも、やはり大きな街になると数多くの人々がいる。
そこで毎回毎回エレノアがブチギレていると大変なことになる。
俺は不幸にも、人によく喧嘩を売られる。
多分体格のせいだろう。
俺は決して体格がいい方じゃない。
エレノアからは「優しい顔をしてる」って言われるが、外の世界ではそれはデメリットでしかない。
悪い大人にとっては格好の標的になる。
なら比較的平和であろう田舎がいい。
「クリス男爵領がいいかな」
男爵領ということもあって、かなり田舎であると聞いている。
あまりにも辺境ということもあって情報が少ないが、王都や都会よりかは幾分マシだろう。
「うわー、人多いね」
「だね」
世間では休日。当たり前だが行き交う人々は多い。
馬車乗り場には長蛇の列ができており、俺は嘆息する。
こんだけ人がいるとかなり時間がかかりそうだな。
なんて思いながら列に並ぶのだが……。
「おっとすまねえ。ここはオレ様が並んでたんだ」
「え? いや、さっきまでいなかったと思いますが……」
急に男が割り込んできて、俺を突き飛ばしてきた。
困惑しながらも、俺は反論する。
が、男は笑うのみである。
「ああ、文句あんのか。ってかあれぇ? お前、もしかしてアルバート家から追放されたって言う落ちこぼれのアルマか?」
「……マジかよ」
どうやら俺が追放されたって事実はここまで広まっているらしい。
噂の速度は速いものだが、まさかここまでだったとは。
「おいおい! 皆見てみろ! 落ちこぼれがいるぞ!」
男が叫ぶと、周囲の人々がクスクスと笑う。
……ここは一旦退いて落ち着いたら並ぶことにするか。
なんて思いながら一歩後退すると、エレノアが俺の袖を掴んできた。
「私、怒った」
「待て待て」
こうなる気はしていたが……。
エレノアがブチ切れると俺にはどうすることもできない。
とりあえず止めはする。一応責任だ。
「お嫁さんとして、旦那様に加護を付与する。ブチのめしてやって」
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