【剣聖の消失】
ポールは辺境まで移動し、早速試練である竜殺しを達成しようとしていた。
ここはファイガドラゴンが生息すると言われる場所。
かなり強力な相手であるが【剣聖】を持っている自分にとっては余裕である。
急な斜面を登りながら、ポールはくつくつと笑う。
これさえ達成したら、自分は本物になれる。
家も継いで、圧倒的な権力で全てをねじ伏せることができる。
考えるだけで愉快だ。
最高に楽しい。
足取りも軽くなってきた。
どんどん登っていき、ファイガドラゴンが眠っているであろう場所付近にまで到着した。
ある種の広場のようになっていて、マグマが池のように広がっている。
暑いさを手で扇ぎながらごまかし、正面を見る。
「あれが……件のドラゴンか」
正面には一体のドラゴンが眠っていた。
すやすやと寝息を立てている。
「……なんだ。この気配」
しかし異様だった。
普通のドラゴンなはずなのに、何故か異様に引っかかりを覚える。
「気の所為……か」
ポールは首を傾げながらも、剣を引き抜く。
まあいい。
こいつさえ倒せば俺は認められる。
ポールは【剣聖】を発動し、相手へと斬りかかる。
間違いない。相手は確実に死ぬ。
――ガキン!
「は……?」
剣が一瞬にして弾かれた。
というか、剣先が全て持っていかれた。
持ち手部分しか残っていない剣を眺めて、ポールは呆然とする。
『貴様が【精霊使い】の兄か。期待していたが、所詮【剣聖】止まりか』
「ド、ドラゴンが喋った……!?」
ポールはガクガクと体を震わせながら地面に突っ伏す。
なんなんだ。喋るドラゴンなんて聞いたことがないぞ。
『しかし……こいつは有効活用しなければならないからな。人間どもは殺す主義でいるのだが、お前はある程度使えるだろう』
「なに言ってんだ! お前……何もんだよ!」
『答える義務はない。さて、貴様にはいい具合に踊ってもらわないといけない。まずは……』
そう言うと、ドラゴンはポールを睨めつける。
瞬間、体が動かなくなった。
恐怖で動けないのではない。
何者かによって縛られているような感覚だ。
『【剣聖】を奪うことにする。さて、貴様はこれから絶望することになるだろう』
体から何かが抜ける感覚がした。
【剣聖】を奪う……?
もしかして今、僕はこいつに【剣聖】を奪われたのか?
『それは全て【アルマ】のせいだ。あいつが今、世界を動かしている』
そう言って、ドラゴンの姿が闇に飲まれていく。
『恨め、憎め。それが正解だ』
「お、おい待て! 僕の【剣聖】を返せ!」
ポールは立ち上がり、ドラゴンを掴もうとする。
だが、一瞬にしてドラゴンの姿は消えた。
そこにあるのは、静かなマグマ溜まりだけである。
「嘘……だよな。僕、の剣聖が奪われたとかありえない……」
そう言いながら、ポールはスキルを確認する。
胸に手を当てれば、脳内にスキルが表示される、はずなのだ。
「ない、ない! 僕の【剣聖】がない!」
どんなに探しても、【剣聖】が存在しない。
「嘘だろ……竜殺しに失敗して、挙句の果てにはスキルを……奪われた?」
頭の中がぐちゃちゃになる。
これからどうすればいい。
父にはなんて説明すればいいんだ。
意味の分からないドラゴンに奪われたと伝えるのか?
馬鹿な。そんなのが通用するとは思えない。
「隠さないと……僕のスキルが奪われたことは……隠さないと……」
【夜分からのお願いです】
・面白い!
・続きが読みたい!
・更新応援してる!
と、少しでも思ってくださった方は、
【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!】
皆様の応援が夜分の原動力になります!
何卒よろしくお願いします!




