舐めきったポール(ポール視点)
ポールは長い廊下を歩きながら考える。
さて、アルバートは一体自分に何の用があるのだろうか。
「さっそく家を継いでもらうなんて、な」
さすがにありえない、か。
嬉しいが、まだないだろう。
ポールは扉の前に立って、ノックをする。
声を確認した後、扉を開く。
「待っておったぞ。未来の当主よ」
「おまたせしました、父上」
未来の当主と言われ、思わず笑みがこぼれた。
悪い笑みだろうが、これくらいはいいだろう。
ポールは一礼し、前を見る。
「何かございましたか?」
「うむ。お主は私と同じ【剣聖】に目覚め、この家の跡継ぎに相応しい男となった」
相応しい、か。
いい言葉だ。
「しかしだな、まだ試練が存在する」
「試練……ですか?」
ポールは首を傾げる。
昔から【剣聖】が覚醒すれば……というのは聞いていたが、試練というものはあまり知らない。
聞くと、アルバートは答える。
「竜殺しである。この家を継ぐということは、つまりこの国一番の剣士。真の剣聖になるということだ。こう見えて私も竜殺しをした。【剣聖】に目覚めたお主なら、きっとできるはずだ」
「竜殺し……なるほど」
ドラゴンとなると、最低でもSランクは確定。
かなりの強敵である。
「できるな、ポールよ」
「もちろんです、父上」
このポールに不可能はない。
なんせ、【剣聖】に目覚めたのだ。
その時点で自分は最強に至る素養があるということだ。
「そう言ってくれると信じておった。それでは、お主には竜殺しを頼む。証拠として角の確保も忘れるなよ」
言いながら、アルバートは懐から一つの魔石を取り出した。
「これは『帰還の魔石』。ドラゴンが生息する場所は辺境故、帰還するのに苦労する。これに魔力を注げばすぐにここへ帰還できるから、これを使いたまえ」
「ありがとうございます」
ポールは魔石を受け取り、ぐっと握りしめる。
父に認められている現状を嬉しく思う。
最高だ。
今頃アルマの野郎は何をしているだろうか。
きっと自分と違って途方に暮れているだろう。
死にたい、なんて思っているかもしれない。
ああ、簡単に死ねるだろう。
この世界は厳しい。
負け組になった者には未来なんてない。
「それでは竜殺しに参ります」
「期待しておるぞ。馬車は用意しておる。近くまで運んでもらうといい」
ポールはこくりと頷いて踵を返す。
早速ドラゴンを討伐しに行こう。
自分なら簡単に討伐することができるはずだ。
余裕である。
竜殺しと言ってはいるが、所詮ドラゴンを殺すだけだ。
ドラゴンなんて《剣聖》の力の前にはゴミムシに等しい。
それほどまでに強力な力を手に入れたのだ。
庭に出ると、馬車が確かに用意されていた。
乗り込み、御者に吐き捨てる。
「早く行け。僕はさっさと試練なんて飛ばしたいんだ」
「かしこまりました。しかし……見たところかなりの軽装にように思えますが……」
御者が言った瞬間、ポールは馬車の壁を蹴る。
「は? 僕にとってはこれくらいで十分なんだけど。もしかして舐めてる?」
「い、いえ……少し心配に……」
「舐めてるよね? あのさ、僕の言葉次第ではお前も簡単にクビ。なんなら殺すことだってできるんだよ?」
「す、すみません!」
はあ。
全く失礼な使用人が多いな。
ポールは嘆息しながら背もたれに体重を預けた。
しかし、もう既に没落への道を進んでいることにポールはまだ気が付かない。
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