スタートラインに立った二人
「とりあえず試験官を用意しますので、奥の闘技場でお待ち下さい!」
「わ、分かりました」
また戦うのか、俺。
なんだかずっと戦っている気がする。
でも、やらなきゃいけない。
覚悟を決めろー! 頑張れ俺ー!
「戦うのかぁ! ワクワクするね!」
「エレノアの精神を俺にも分けてほしいよ」
「え……! 私の一部を分けてほしい!? もう、少しだけな――」
「静かにしましょうねー」
ひとまずエレノアを落ち着かせながら、闘技場の椅子に座って待っている。
すると、ガチャリと扉が開く音がした。
俺がそちらの方を向くと、受付嬢さんと見に覚えのある人物がいた。
「全く、仕方がねえなぁ!」
うわ……さっき俺にものすごく絡んできた人だ。
なんでよりによってあの人なんだろう。
「受付嬢さん……あの、人選ミスってませんか?」
俺は恐る恐る受付嬢さんに尋ねる。
しかし、返ってきたのは満面の笑みだ。
「この方が、当ギルドの試験官をしているんですよ!」
「そうだ! ガハハ! 俺が、してやっているんだ!」
うーん、お腹が痛くなってきた。
退散するなら今だろうが、引き返すわけにはいかない。
やっぱり人間と戦うのは慣れないなぁ。
「というわけだ。早く木剣を握れ」
「分かりました」
俺は木剣を握り、相手を見る。
見たところパワー系。無理やり力でねじ伏せるタイプだろう。
「エレノア、加護はいらない」
「え? いらないの?」
「これは俺の素の力を試すもの。どちらにせよ、ここで勝てないと冒険者として生きていけない」
「分かったぁ」
どこかしょんぼりとしながら、エレノアは椅子に座る。
さて、と。
俺は覚悟を決めて相対する。
これでも剣聖の家で育ったのだ。
剣の練習なら死ぬほどやった。
「来ないのか? なら俺から行くぞ!」
相手が剣を振るってくる。
さすがは試験官になっている男だ。
かなりの実力を持っていると見た。
だが、あまりにも力任せすぎる。
俺は剣を飛び越え、相手の懐にもぐる。
「なっ!?」
まさかこんな動きをしてくるとは思わなかったのだろう。
相手は動揺するが、俺はその隙きを逃さない。
剣の持ち手を相手の胸に思い切り当てる。
「あがっ!?」
男はよろめき、肩で息をする。
急所をついた。多分、簡単に息はできないだろう。
「……まだだ! こんなのじゃ認めねえぞ!」
さすがはパワー系。
この程度じゃ簡単に倒れてくれないか。
胸を押さえながら、再度俺に突進してくる。
だが、甘い。
俺はバックステップで避けて、剣を構える。
「なっ!? なんで避けんだよ!」
「こっちも必死だからです!」
試験にクリアしないと、お先は真っ暗なんだ。
避けないと失格になってしまうだろう。
「こ、この野郎――」
相手が構えた瞬間、俺はすかさず剣を『投擲』した。
想定外だったのだろう。相手は動けず、投げられた剣を避けようとする。
その時点で俺に勝ちは決まった。
勢いよく接近し、相手の腕を掴んでそのまま投げた。
男は土煙を上げながら地面に倒れ、目を開いて動揺している。
「う、嘘だろ……」
「さすが旦那様!!」
ふう。これでひとまず試験はクリア……かな。
ちらりと受付嬢さんを見ると、驚いた表情を浮かべながらもこくりと頷く。
「勝者はアルマさんです! おめでとうございます!」
「よしっ! やった!」
これで俺の冒険者生活が始まる!
ガッツポーズをすると、エレノアが抱きついてきた。
「やったね!」
「ああ! 次はエレノアの番だ!」
「よーし、やっちゃうぞ!」
そう言って、エレノアは闘技場に入っていく。
倒れた試験官はどうにか立ち上がり、新たな試験を開始。
した瞬間に、エレノアに吹き飛ばされていた。
さすがは風の精霊である。
「勝ったよ! 旦那様褒めて!」
「さすがだな!」
俺はエレノアの頭を撫でながら、ハイタッチを交わした。
これで俺たちは無事、冒険者になれたってことだ。
だが、やっとスタートラインに立てた。
物語はこれからである。
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