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第11話 母の想いとイズミさんの気持ち

 私が起きたのは夜明けより少し早くだった。山奥なだけに少し寒い。


「私たち王族がどれだけ裕福な暮らしをしていたかが分かるわね……」


 私が布団から出るとミスズさんはもう起きていた。


「おはようございます。」

「あらセレンちゃんおはよう。」


「まだ夜が明けてないですよ。」

「ふふふ。それが仕事ですからね。私が育てた野菜をイズミが村へ馬車で持って行くの。」


「そう言えば旦那さんは?」

「もう亡くなったわ……」

「……ごめんなさい……」


 私は素直に謝った。でも、ミスズさんは明るく笑ってくれた。


「もう5年も前の事だから大丈夫よ。まぁ、私を救ってくれたのは娘たちだけど。」

「えっ……?」


「私が1人だけ立ち直れなくてねー、娘たちが働いてくれてね、レナが畑を、イズミが馬車に乗って働いてくれたのさ。」


(レナが……)


「レナはぎこちないなりにやってくれた。イズミはあの人がちょこちょこ教えてくれてたおかげでしっかりしてくれたわ。そんな2人を見て私だけ下を向いてる訳にはいかないと思ったのよ。」


「素敵な娘さん達ですね。」

「ええ、本当はお城で働かせたくはなかったのだけど、あの子が行きたいって聞かなかったのよ。」


 寂しそうに言ってるけど、楽しそうでもある。


「そしたらあなたのような素敵な方を連れてきたのだから。お城に行かせて良かったのかもしれないわね。」


「そ、そんな……私なんて……」

「あら、あなたは素敵な人よ。誰よりも他人のことを考えて、他人にはわがままは言えない人よ。」


 全く正反対な事を言われた……


「あの……私のお城の中での評価はわがまま姫の性悪女なんですが……」


 私がお城の人たちの評価を告げると軽く笑われた。


「ふふふ……それはあなたの表面しか見てない人たちの評価よ。話し方、姿勢、考え方、この半日だけで分かるわ。あなたがまともな優しい少女だって事を。」


「そんな事は……」

「それに、もしあなたが自己中心の方ならわざわざここには来ないはずよ。」

「えっ……?」


「恐らくだけど、あなたレナを私たちに返しに来たんじゃない?」

「うっ……」


 なんで分かるのだろう。そう。私の行く道はもう死出の道だ。そして私はもうレナを離す事が出来ない。それならレナの親に全てを話せばレナの両親がレナを止めてくれると思ったのだ。


 ミスズさんは私の頬に手を添えてくれた。


「もしあなたが本当にわがまま姫の傍若無人の性悪女ならレナを引き離そうと考えてたわ。お城の噂ですもの、ここまで聞こえていたわ。でもそんな事はなかったわ。だから私はあなたとレナの恋路を応援するわ。」


「ありがとう……ございます……」


 私の思惑はことごとくぶち壊されるのだった。でも……凄く幸せな朝でした。




 朝食を食べて、私とイズミさんは隣村まで馬車で向かっていた。レナも行きたいと駄々をこねていたが、私とイズミさんに頭をグリグリされて家に残ってミスズさんの手伝いをしている。


「セレンさんって本当に16歳?」

「えっ?ええ、つい先日16になりました。」


「うちのレナとはえらい違いだわー。あの子好きな物に執着する癖が昔からあるのよねー」

「はぁ……」


 半ば愚痴の様に呟くイズミさんに私は中途半端な返事をしてしまう。


「レナはあれで19よ。なのにあんなみっともなく駄々をこねるなんて、後でお仕置きしとかないと……」

「お仕置きなら私がしときますよ?」


「あらあら、あの子も私以外の子にしかも年下の子にされる様になったのね。」

「えっ?」


「昨日も言ったけど、レナは私が教育してたのよ。」

「はい、そう言ってましたね。」


 私は昨日少し話してた事を思い出しながら相槌打った。


「あの子かなりのおっちょこちょいでミスも多いでしょ?」

「そうですね。私の部屋の花瓶も何度も落としてましたし。カップも何個か割ってました。」


「……ごめんなさいうちの妹が……」

「いえいえ、そんなつもりで言ったわけでは……」


 私はしまったと思って両手をふりながら誤解を解く。そしてイズミさんは気を取り直して話を続けた。


「まぁそんな子だから荒療治で叩いて躾してたのよね。」

「え、ええ……」


(虐待よね、それ……?)


「だけどそうしたらあの子叩かれるのに慣れてしまってむしろ叩かれるのが好きになってしまったのよ。」

「う、うん……」


(レナ凄い……)


 イズミさんにしてみればやらかしたと思う事だけど、私はレナの適応力の方が凄いと驚くのだった。


「今レナの事少し引いたでしょ?」

「いえ、むしろあの子凄いと思いました。」


 私の即答にイズミさんは目を丸くしてしまった。


「あはは。あなた本当に凄いわね。レナが好きになるのも分かる気がするわ。」


 ひとしきり笑ったイズミさんは話を戻した。


「だからあの子失敗したら直ぐに私の元に来るようになったわ。目をワクワクさせながらね。だから私はやり方を変えたの。」


「それが追いかけて叩くのね。」

「そう。恐怖心を植え付けてミスは悪い事って仕込んでたんだけど。そしたらあの子今度は私を見て怯える様になったのよ。」


 そこで私はある事を思い出す。


「あれ?でも昨日帰って来てからは怯えてませんでしたね?」

「お母様が近くにいればあの子も怯えないわよ。問題は2人きりの時ね。」


(なるほど……)


 私は納得すると次の質問をした。


「レナはその時は適応出来なかったんですか?」

「ええ……というより疲れきって足を怪我してるレナに気づかずに箒で叩いたのが相当怖かったんだと思うわ。」


「……謝ったんですか?」

「……謝ってないわ。あの子が私を遠ざけてるから。」


 確かにレナがあんなにも怯えていては話す物も話せないと思う。だからと言ってこのままなのも問題である。


「では、私が中に入ります。そしてちゃんとイズミさんから謝って下さい。」

「えっ……いいの?」


「良いですよ。レナは私の言うこと聞かない事はないので。」


「あなたも相当レナの事調教した様ね……」

「あはは……」


 私は苦笑いをするしかなかった。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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