第10話 姉と母
私が荷台に上がるとレナが怯える様に座っていた。
「レナ、何を怯えてるの?」
「お、怯えてなんて……」
そう言ってはいるが声が震えていた。そこをイズミさんが説明してくれた。
「レナは私が怖いんですよ。」
「えっ、イズミさんを?」
「ええ、レナの教育は私がしてたんですよ。その時に叩き回したのでトラウマなんでしょう。」
「そうなんですか?でも、私がビンタしても私には怯えてはいませんよ?」
「それはたぶんセレンさんの叩き方が優しいんでしょう。私は追いかけ回してレナが疲れ切ったところを狙って叩き回してたのでそれが恐怖なんでしょう。」
「は、はぁ……」
追いかけ回して叩き回す……そしてレナのこの怯えよう……一体何をしたのか。知らない方が良さそうだ。
それから本当に少しの時間でレナの家に着いた。
「さぁ、着きました。レナ、セレンさんを家の中に案内してあげて。それが終わったら荷物下ろすの手伝って。」
「はい……」
そうしてレナは私の手を握ると家へと案内してくれた。家の前には畑があり、他は何もない。一軒ポツンとあるだけだ。その家も昔話に出てくるような茅葺き屋根の木造平家だ。
「お母様、ただいま。」
「ん?あらレナ?なんで帰ってきたの?」
「お城でお休みもらったの。それで好きな人が出来たから連れてきた!」
無邪気に言うレナが羨ましくもあり、恥ずかしくもあり……私はどんな顔して出れば良いのか迷っているとレナが私の手を引っ張った。
「……女の人?」
まぁ……普通の反応ね。好きな人連れてきたと言えば普通男の人だから。でも、私は気を取り直して自己紹介した。
「こ、こんばんは。セレンと言います。レナさんにはいつもお世話になってます……」
少しの沈黙が続くそこでレナが機転を効かせてくれた。
「まぁまぁ立ち話もなんですし、家の中に入って下さい。ここじゃ寒いですし。」
「そ、そうね。どうぞ中へ。」
ぎこちない対応だけど私は家の中に入る。そしてレナはイズミさんの手伝いをしに馬車へと走って行った。
そして再びレナのお母様と二者対面する。
「あー、すいませんお茶も出さないで。」
「ああ、お気遣いなく……」
「いいえ、お客様にお茶も出さないのは失礼です。少しお待ち下さい。」
(あれ?レナのお母様だよね。その割には手際が良いような……)
「お待たせしました。粗茶ですが。」
「ありがとうございます。香りがいいですね。」
「ほほほ。ありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。レナとイズミの母親、ミスズです。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
そう言って私とミスズさんはお茶を飲んだ。
「それでは、改めて聞かせて頂きますか?レナとの事を。」
「はい。」
私はこれまでの事を話した。私が元王族で追い出された事、レナが追いかけて来てくれた事。これから2人で生きて行く事を。
「なるほどね。話は分かったわ。でも、この国から出て行く必要はない気がしますよ。」
「何故ですか?」
「国王様は好きな所へ行けと言われたのでしょう。ならばここに居ても問題ないのではないかしら?」
「……そうでしょうか?」
私は首を傾げながらお茶を飲んだ。
「ええ、なんならここの家の裏にもう一つ部屋を作りましょうか?」
「えっ?出来るんですか?」
「ええ、この家は増築がしやすいんですよ。平家で石など使っていないのでもう1つ部屋を作るのにそこまで苦労はないの。明日にでもイズミと一緒に村の大工の所へ行くといいわ。腕は確かだから。」
「……ありがとうございます。」
すると馬車から荷物を下ろしていたレナとイズミさんが帰ってきた。
「疲れたー……眠い……」
「何呑気な事言ってるの!夕飯の支度するわよ!」
「ふぇー……」
レナばかりにやらせるのは忍びないので私も手伝う事にする。
「あの。私も何か手伝いましょうか?」
「ん?あー、セレンさんはそこに居ていいわよ。お客様を働かせるなんていけないわ。」
「でも、泊めてもらう以上何かしなければ……」
「そこまで言われたらなー……じゃあ明日の朝食をお願い出来る?母さんも一緒だから安心よ。」
「朝ですか?わかりました。」
という事で私は明日早起きだ。そして首根っこを掴まれて台所へと連れて行かれるレナ。
(あのお姉さんはレナの事大事にしてるなー……)
そんな事を思いながら私はミスズさんと雑談するのだった。中でもお城内での恋バナによく食い付いた。この方はドロドロした恋バナが好きな様だ。
(弱みのネタがこんな風に役に立つとは……)
そして話しているとイズミさんが鍋に料理を入れて持ってきてくれた。レナは後ろからお皿を持ってきていた。その日の夜は夕食を食べて就寝するのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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