第9話 家路
隣国の王宮にて、
「クラウド様、セレン様との婚約は破棄されました。」
「ああ、ご苦労だったな。」
「しかしよろしかったのですか?」
「何がだ?」
「セレン様は幼子の頃は大人しく従順な方でした。そんな方の婚約を棄てるのはいささか勿体ない気がするのですが?」
「だが、今は傍若無人な性格になったのだろう。俺は従順な娘が良い。その点妹のシュウラという娘は大人しく従順と聞く。ならばそっちを選ぶのが正しいだろう。」
「クラウド様がお決めになった事です。私はあなた様に付いて行くだけです。」
クラウドの従者は深々とお辞儀をするのだった。
一方セレン達はというと……
私たちは山奥を歩いていた。レナに手を引いて貰いながら慣れない山道をかれこれ3時間歩いている。
「レナ、本当にこの道で合ってるの?」
「合ってますよ。いつも馬車に揺られながら帰ってましたから。」
元気よく言うレナ。だけど私はそれを聞いて苦笑いをする。
「馬車……?」
「ええ、馬車ですよ?」
「私たちは今何してるの?」
「歩いてますねー?」
「レナは最初なんて言ってたかしら?」
「えっ?歩いて1時間……」
「それ馬車で1時間の間違いじゃかいかしら……?」
「……あはは」
「ふふふ……」
鏡なんてなくても自分でも分かる。今私は鬼の形相をしているのだろう。レナは手を振り解いて逃げたそうだが残念ながら私の力の方が強いから逃げられない。
「ねぇレナ知ってる?」
「な、何をですか……?」
話しながら私は近くにあった細くてしなりのある木の枝を折った。
「木の枝ってね、こんなにしなるのよ。」
「そうですね……」
私は木の枝を振って見せた。木の枝は振る度にヒュンヒュン音を立てていた。
「まるでムチの様でしょ?」
「……」
悟った様だ。レナの顔が青くなってしまう。前に一度だけムチを使った事があるけどその時はお尻を2回叩いただけで泣き出したのでやめたが今回は泣いても許さないつもりだ。
「大丈夫よ。顔は叩かないから。」
無言で首を振っていた。そしてもう泣いていた。流石にそこまで鬼になれなかったので私は枝を捨てた。
「えっ……」
「流石に叩く前に泣かれたら叩けないわよ。それより野宿の準備をしましょう。もうすぐ日が落ちるわ。」
私が枝を捨てた事でレナは泣き止んだが、問題は山積みだった。
「流石にこの時間に馬車は通らないわよね?」
「……2日に1度この道を通っていますので、今日行ったのなら明日は……」
「食料は何か持ってる?」
「宿屋の方からサンドイッチと揚げ鳥を頂きました。」
「それで夜は待つわね。問題は明日ね。もし明日馬車に合わなければ……」
「その時は私が実家まで走って迎えを呼びに行きますから!」
最悪の状態を考えたのだろう。焦って対策を考えたレナ。
(だけどレナ、人はそう簡単に餓死しないわよ……)
と言おうと思ったけどレナの心配そうな顔が可愛かったから言わない事にした。
夜になって、少し寒くなってきた。私たちは焚き火に当たっていた。
「セレン様、寒くありませんか?」
「レナ、私はもう王族じゃないのよ。様付けはやめてよ。」
「そういえばそうですね。でも、私の大切な方なので、様を付けさせて下さい。」
「じゃあ私もレナ様ってつけようかしら?」
「……様付けやめます。」
「うん、私も変な気分だからしたくないわ。」
2人でクスクスと笑った。すると馬が通る足音がした。
「こんな時間に馬車?」
「もしかしたら乗せてもらえるかもしれませんよ。」
そう言うとレナは走って見に行った。そして……
「いやーーーー!」
とてつもないレナの叫び声が聞こえたので私も急いで走った。この国は治安が良いとはいえ山賊が居ないという保証はないのだ。
私が道まで来るとレナは頭を押さえてうずくまっていた。
「レ、レナ⁉︎何があったの?」
「うー……」
「すいません。ウチの妹がご迷惑をお掛けした様で……」
すると馬車の上から声がしたので私は顔を上げた。するとそこにはレナと同じ髪色の女性がいた。
「あっ、申し遅れました。私、レナの姉のイズミです。」
「あ、私はセレンと言います。こちらこそレナさんに大変お世話になってます。」
「まぁ、ご迷惑をかけていませんか?」
「ご迷惑なんて……」
「無理しなくていいですよ。今この現状が既にセレンさんを困らせてますからね。」
そうしてうずくまってるレナの頭にゲンコツを落とすイズミさん。怖い方だ。
「立ち話もなんですから馬車に乗って下さい。今荷台を整理しますので、ほらレナ、アンタも手伝いな!」
「は、はい……」
「では、私は焚き火の火を消してきますね。」
私はそう言ってさっきまで居た場所に戻り火を消して自分の荷物とレナの荷物を持って馬車のある道へ戻った。
「お待たせしました。」
「いいわよ。ごめんねウチの妹がご迷惑をかけて。大方馬車で1時間を間違えて徒歩で1時間なんて言ったんでしょー?」
(流石はお姉さん。妹の事をよくわかってらっしゃる……)
「街から家まで歩いたら5時間はかかるんですよ。」
「あはは……5時間……」
「さぁ、荷台に乗って下さい。馬車でしたらもうすぐそこなので。」
私は言われるがまま荷台に乗り込むとイズミさんは馬にムチを打って進み出すのでした。
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