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配信を終えて

1週間なら上等じゃないですか

文字数よりこまめに更新したい

 エンドカードを蓋絵にして、OBSの出力を0にする。エンドカードは直筆でコメントを残しておいた。ちゃんと反応がもらえていて嬉しい。


「あーあー、配信乗ってます?」

「ううん、ちゃんと切れてるから大丈夫」


 音声が配信に乗っていないのを茜さんに確認してもらい、ようやく大きなため息が漏れる。ある程度経ったところで配信自体を落とす。


「お疲れ様、亡くん」

「色々とありがとうございました茜さん」

「どういたしまして。どうだった? 2年ぶりの生配信は」

「毎日やってる人の気が知れないです。ストレスがやばいです」

「あはは、それはね私も同意見」


 生配信って、つまりは取り返しのつかない一発勝負。動画と違ってぽろっとヤバいことを言ってしまえばそのまま流れてしまう。常に喋ることに気を使っていないといけないってなかなかに神経を使う。


「でも、やってよかったです。みんなの反応が見られるのはやっぱり嬉しい」

「私は最近配信とかは少ないけど、やっぱりリアルタイムで反応が見られるって楽しいよね」

「ですね。少し前までリスナーだったからこそ改めて思いました」


 通話越しにほっとしたような声がする。戻るというのを伝えた時に色々と力を貸してくれた……というよりは気にかけてくれたというのが正しいか。思ったよりも恩が彼女には積み重なっている。


「これからはどうするの?」

「定期的に配信をしながら、モモたちとのコラボの時期を見定めるって感じです。新規の人たちとか向こうのリスナーからしたら、売名でコラボばっかりしてるやつに見えちゃいますし」

「モモちゃんのところのリスナーさんは亡くんの知名度は相当高いと思うけどなぁ」

「まあ、リスクヘッジということで。リスナーじゃないところからあることないこと言われるのが一番めんどくさいですから。あの頃よりも世間の注目度は上がってるわけですし」


 あの頃ですら、なかなかの速度で燃え上がったんだ。今だったらどうなるかなんて想像に難くない。最近だと別ベクトルの厄介ファンも増えてきているし。


「男女コラボ、やっぱ減りましたよね」

「ん~……まあ、ね。減ったと思うよ」

「本気で気にしちゃうようなレベルまで入れ込む人間が生まれるのは、それだけその人が魅力的なんだってなりますけど……それを本人に押し付けるとなると話は別ですねぇ」

「大変だなって思ってるよ。私は少ない方だけど、ベルサウンドさんは相当気になっちゃってるんじゃないかな、そこらへん」


 色々な界隈に存在している、いわゆるガチ恋勢。ここだとユニコーンとかって呼ばれてたっけ。上手いこと言うなぁと感心したりした。が、実態はなかなかに面倒だ。

 今まで普通にやれていたことが、彼らのせいでやりにくくなったりおしまいになったりしている。対処法などがあるわけでもないから難しいところ。


「当事者になるのとじゃ話が違うので、色々と探りながらやっていこうと思います」

「女子側からと、男子側からじゃ気を付けるところも変わってくるだろうしね。お互いこれから頑張ろうね」

「はい、ありがとうございます」

「何かお願いする時は正式にオファーをもうしていいんだよね?」

「もう休止中って言い訳は出来ないですからね。日程さえ合えば参加させてもらいます」

「よかった! それじゃあね!」

「また」


 安心したような嬉しそうな声で通話が終了する。


 はぁ……と息を吐いて椅子から立ち上がり、ベッドへとぼふりと緊急着陸する。疲れた、めっちゃ疲れた……緊張した。完全に1人になったからか弱音がぽろぽろと漏れてきた。

 反応が無かったらどうしようとか、そもそも望まれてなかったらどうしようとか本当に色々と不安になっていてその通りだったらどうしようかと準備中は考えていた。

 それも待機所を見たら消えてしまった。あれだけ覚えていてくれている人がいるのに不安になる方が失礼だろう。2年も待ち続けたのは、なんというかまさに亡者って感じだな。……ファンネームとはいえ、酷いこと言ってるな。


 Monologerを開いて、配信タグをサーチ。さっきの配信の反響を確認。

 うん、いい反応が多いな。女の子の亡ちゃんを本気で推してくれてる人の嘆きは申し訳ない。わざわざモデルも作ったしこれからも定期的に使っていこうと思ってはいるので許してほしい。いいねをぽんぽんと付けていこう。休止中はエゴサしてても、いいねとかは付けなかったからなぁ。休止してんのにそれはするのかって個人的にやめてただけなんだけども。

 あ、この人は完全に初見さんだな。亡者に囲まれてる……ホラーゲームかな? 本人として布教活動に勤しんでおくとしよう。『新人なので、今から推しておくのがいいですよ。推してくださいね』と……これでよし。こういうのが出来るのもやっぱり楽しいな。あとで見返そう、いい反応してくれると個人的にはとても嬉しいんだけど。本人から反応が来るのって、いつまで経っても慣れないんだよね。仕方ない仕方ない。


 そうこうしていると、Lincordにメッセージが届いた通知が。モモだろうなと思いながら確認すれば、予想通りモモからだった。


『お兄さん!!!!!!!』と非常に勢いのあるメッセージが届いている。思わず笑いがこみあげてくる。いい反応してくれるなぁ本当に。


『なんだよ、勢いがいいな』

『なんで教えてくれなかったんですか』

『配信で説明しただろ』

『教えない方が絶対面白いから』

『なんで私は知らないのにマネージャーは知ってるんですか』

『そりゃあ事前に教えたからな』

『マネージャーさんとそういえば交流ありましたね……』

『通話でいいですか、話しづらいです』

『はいはい、どうぞ』


 と、返事をした途端通話がかかってくる。準備がよすぎるだろ。個人の通話へと入れば、開口一番「ずっと待ってました……」とどう聞いても鼻声のモモが言った。待ってくれ、驚かせるのは好きだが人を泣かせるのは趣味じゃないというか本当に困る。


「あー……モモ、悪かったから泣くのは勘弁してくれ……」

「だって……この前なにも……」

「サプライズにしてたんだから、言うわけないだろ。サプライズにならんだろうが」


 唸り声のような鳴き声のような音が返ってくる。こいつ、普段は事務所のリーダー的な存在だからもう少ししっかりしてるのに。どうしてこうもぐっずぐずになってるんだ。


「マネージャーさんから連絡はもう貰ったんだろ?」

「ぐす……はい、夢お兄さんから打診をされてる状態だって。本人はまだ知らない状態だったからあくまで企画段階で止めてあるって」

「うん、合ってる。あとはモモがやりたいかなんだけど」

「バカにされてます? やるに決まってるじゃないですか」

「はは……悪い。それでも、意思確認をしないわけにはいかないんだよこれからは」

「これからは……」


 活動を再開したからにはただの友人ではなく、友人であり仕事相手としての側面を持ち始めてくる。俺に関しては個人Vtuberだから自分の活動に対しての決定権は自分にしかない。だが、モモのようなバックにしっかりとした会社がある場合は話が別だ。本人と会社での意見のすり合わせ、そこからスケジュール調整も入るだろうから動く人数はもっと増えるんだろうな。


 今回に関しては会社としては割と好印象が返ってきてくれたのはありがたかった。これはなんというか現役時代……今も現役にはなってるか。休止前にモモの事務所の社員さんたちとの面識が結構あったおかげで俺に対しての好感度が残っていてくれたみたいだ。あの頃は新人だったスタッフさんが、今は結構重要なポジションにいると聞いた時は流石に2年の流れを感じざるを得なかった。


「そうだろ? とりあえず、そっちでスケジュールを調整してくれ。どうせ俺の方が調整しやすいに決まってるんだから」

「あはは、そうですね。分かりました、最優先で調整します」

「案件とかは蹴ってくれるなよ……?」

「それは社長から怒られるからやりません」

「安心した」


 やりかねないというか、今だったりあり得そうだなぁとか思ったり。なんて考えていると、「……夢お兄さん」と少しだけ強張った声でモモが呟く。


「なに?」

「戻ってきて、よかったと思ってますか?」

「思ってるよ。戻って来れてさ」


 ほっと息を吐いたのが通話越しにもわかった。多分、俺がこの世界に戻ってくるのを誰よりも願っていたのがこの子……この人だ。モモ・シャーティーという女性がいなければ、俺はこの世界を観測するだけの人間になっていたと思う。それぐらいの恩を彼女には感じている。これを本人に伝えることは無いだろうけれど。それでも、


「ありがとうな、モモ。待っててくれて」

「……はいっ」


 これぐらいは伝えてもいいだろう。何気ない感謝に、代えがたい感謝を込めて。

次回は自分の混乱回避のためにもキャラまとめをする予定です

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなに早く出してくれてありがとうございます! [一言] 無理せずがんばってください
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