BDGバトルドール・ガールズ! ※お試し用短編
このページを開いて下さり、ありがとうございます。
この作品はお試し用の短編です。本編は2020年7月上旬頃に公開予定です。
もし気に入って頂けたなら、今しばらく本編公開をお待ちください。
そよそよと気持ちの良い風が草原を駆け抜ける。下草がサァッとなびき、柔らかな陽光が降り注ぐ。
そこへ突然、何かが疾走する。一つ、二つ。その人影が走り去った後には草葉がただ、ひらひらと舞い散るのみ。
「ちょっと! しつこいのよアンタ!」
「任務:対象の追跡。その対称は叢雲」
「だぁ~! もう、調子狂う!」
叢雲と呼ばれた少女は両手で重そうな大剣を持ちながら、それでいて軽やかに草原を駆けている。長く伸びた髪は青みがかった銀。その強気な瞳は燃えるような赤。体躯はやや小柄なものの、痩せっぽちというわけではなく、女性らしい柔らかさとしなやかな筋肉の張りが見て取れる。
そして、その大剣に似つかわしくない和風の衣装。爽やかな青空のような色の袴と白衣……これは巫女装束だ。その上には直線が主体のデザインをした装甲を纏っている。極めつけには鬼の角のようなメカメカしいデバイスが額から生えている。
「ヴェルグちゃんはきちんと任務を果たす」
自身の事をヴェルグちゃんと言う、叢雲を追う少女。彼女の名前はフレイスヴェルグと言い、叢雲よりもまた一回り小さい身体を疾駆させている。風になびく黒髪は腰まであるポニーテールで、クールとも無愛想とも取れる表情は黒曜石のような艶やかな瞳が印象的だ。
一番に目を惹くのは、その背中に背負った一対の板。それは折りたたまれているが鳥の翼のような形状をしており、身体のあちこちに取り付けている装甲と相まってどこか小型の猛禽類を思わせる。
「……任務内容更新:対象の撃破。了解」
と、ボソリと呟くとフレイスヴェルグは両手に持った二丁のマシンピストルを構える。
ダダダダダダッ!
小気味よく連射される弾丸は全てが叢雲へと迫っていく。
「そんな攻撃!」
対する叢雲は手にした大剣を盾のようにして銃弾を防ぐ。金属同士が衝突する甲高い音が鳴り響くが、分厚い刀身はびくともしない。
「迂闊。ヴェルグちゃんの脚の速さを失念している」
向こうで銃撃していたはずのフレイスヴェルグ。その声が、叢雲の背後から降り注ぐ。
「くっ?!」
「驚嘆。今のを防ぐとは」
「アンタの攻撃は軽いのよっ!」
漆黒の短刀で襲い掛かるフレイスヴェルグの一撃を、咄嗟に大剣の柄で受け止めた叢雲。だが今の一撃を防御できたのは殆ど偶然、ほんの少しタイミングがずれれば危なかったと彼女は内心冷や汗をかく。
しかしそんな悠長な事を考えている暇はない。そのまま相手に体当たりを仕掛け、一度間合いを外す。大剣を持った叢雲は接近戦を得意とするが、超接近戦ではフレイスヴェルグの短刀相手には不利だ。
「……決着を付ける」
「望む所よっ!」
短刀を逆手に持ち直し、一気に懐へと飛び込もうと狙っているフレイスヴェルグ。
大剣を両手に構え、一気に薙ぎ払おうとタイミングを図る叢雲。
ジリ、と間合いを詰める。相手の一挙手一投足に神経を尖らせる。空気が、張り詰める。
「?!」
「ちぃっ!」
そんな緊張の糸を切り裂くように、虚空から一条の光が差す。
それは只の光ではなく、叢雲とフレイスヴェルグが跳び退った地面が真っ赤に融け、そして爆ぜる。これは高出力のビーム砲だ。そして、それを撃ったのは……。
「アルテミス! アンタ、趣味が悪いわよ!」
「無粋。一騎打ちが台無し」
「し、仕方ないじゃないの! あなた達は動きが速すぎて普通に照準を付けられないんですからっ!」
二人がいる地点から遥かに離れた場所。小高い丘の上に立ち、弓を構えた長身の女性が思わず叫んだ。
金髪金眼でショートカット。ややツリ目だがキツイ顔立ちではなく、女性らしいプロポーションと相まってモデルか何かと見間違えるほどだ。
ぴったりとしたバトルスーツはまるで競泳水着のようなデザインで、それだけならば防御力も何もないように見える。だが、このアルテミスは叢雲やフレイスヴェルグのような軽量型装甲ではなく、相当な重装甲を身に纏っていた。その威容はまるで、近代的な戦車を人型にしたかのようだ。
「……了解っ! 精密狙撃はもう無理ですし、以降は制圧射撃に切り替えます!」
と、手にした長弓を引き絞る。いや、それは只の弓ではなく、金属製。しかも、弦の部分がビーム状になっている。
「……ッ!」
鋭い眼光がキラリと光り、アルテミスはビームの矢を放つ。それは上空で無数の小弾に分裂し、叢雲とフレイスヴェルグがいるであろう地点へと降り注いだ。
「速い……迎撃します!」
背中に背負ったバックパック、そこへ搭載されたレーダーが二人の接近を探知する。きゅっと口を引き結ぶとアルテミスは各種兵装を起動する。肩や脚部、背部のミサイルコンテナがオープンし、無数の弾頭が次々と発射された。蛇のように尾を引くミサイルは熱源センサーに従い、自動的に目標へと飛翔する。
激しい爆風と衝撃。そして閃光。
「うわぁ! この、落ちろ!」
アルテミスは迎撃用のバルカン砲を上空へと撃ち込む。そこには、黒く大きな翼を広げたフレイスヴェルグがいた。
「お返し。爆弾投下」
フレイスヴェルグの腰に取り付けられた小型のコンテナボックスが開くと、そこからは黒く小さいボールがいくつも眼下へと落ちていく。一つ一つは小さな爆発だが、それが無数にそして同時に起爆したとあってはひとたまりもない。まるで大きな爆弾が爆ぜたかのような衝撃が上空にいるフレイスヴェルグの翼を震わせる。
「……頑丈。叢雲、任せた」
灰色の煙が晴れ、爆心地にいたアルテミスは――――
「ケフッ! コフッ! ……その程度じゃあ私の装甲は傷一つ付きません!」
ほとんど無傷のアルテミスが立っていた。やや装甲に焦げた痕が付いているが、それでも彼女の言う通りダメージは無いようだ。見た目通りの重装甲は伊達では無いという事か。
「全く、私に命令とはいい度胸ね!」
そこへ現れる叢雲。大剣を上段に振りかぶり、突進のスピードを利用して一気に斬り抜けるつもりのようだ。
「叢雲さん?! 避けられない!」
「アルテミス、覚悟!」
* * *
「いやぁ、今日も叢雲ちゃんは強かったね!」
「何それ、もしかして嫌味のつもり? 結局、アルテミスとは相討ち……勝ったのは空飛んでたヴェルグじゃないの」
茶髪のブレザー服を着た少女が手のひらに乗っている叢雲へと話しかける。それはつまり、茶髪の少女が見上げるほどに巨大……なのではなく、叢雲が小さいのだ。
「私達の作戦勝ちですね。でも、アルテミスの装甲を斬り裂ける叢雲も凄いですよ」
「勝ったのはヴェルグちゃん。マスターはもっとヴェルグちゃんを褒めるべき」
その隣にいた黒髪のツインテール少女が、同様に手のひらへと乗せたフレイスヴェルグの頭をナデナデする。
「二人とも強くなったわね~。私とアルテミスも結構やれる方だと思ってたけど、流石ね~」
そしてその反対側にいたボブカットの少女がほわほわした笑顔で喜ぶ。彼女の手のひらには当然、アルテミスがちょこんと座っていた。負けた事に落ち込んでいるのか、ショボンとした表情をしている。
「うう、面目次第もありません……」
「大丈夫よ~アルテミス。次は二人をコテンパンにやっつけちゃいましょう~?」
「あっ! 私と叢雲ちゃんも頑張りますよっ!」
「ハイハイ、精々頑張んなさいな」
「次回もヴェルグちゃんとマスターが勝つ。ちょうよゆう」
「ヴェルグ、油断は禁物だよ? それはそれとして、勝つための作戦は練っておかないと」
身長15センチの少女たち――――彼女たちはバトルドール・ガールズ。通称ドール。
高性能AIと、全固体電池、そして多機能ポリマー繊維の筋肉で構成された機械の少女。それがバトルドール・ガールズ。
そしてドールと心を通わし、彼女たちの主たるマスターの少女たち。
戦場では的確な指示を出し、信頼関係で結ばれる存在。
一人と一機。二人でひとつ。
これは、そんな少女たちの物語。
異世界に渡ったり、運命に抗ったり、世界を救ったりはしないけれど、それでも大事なモノを守る。
これは、そんな少女たちの戦いの物語。
「よぅし! 明日もバトルドール・ガールズ部! 頑張るぞっ!」
いかがでしたでしょうか。
基本的に近未来の学校、バトルドール・ガールズというeスポーツが主軸になっていきます。
身長15センチのメカ少女とマスターの少女のふれあい、部活動的な熱血展開(?)、そして全国大会優勝!
一体、どのようなストーリーになるかは、もうしばらくお待ちください。絶賛、書き溜め中でございます。
それでは、バトルドール・ガールズをよろしくお願い致します。m(_ _)m