空と侑奈と疑惑の校長。
「......怒らねえから、正直に言え」
使ってしまった後に、怒っても仕方ない。と頭の中では分かっていてものの、やはり元は。否、今も病弱というか体が弱いのは知っているからか、やるせない気持ちと使って欲しくない気持ち、心配する気持ちがあって自分が何度云っても使うのを止めない、自分では止められない、止められない程頼りないか。と行き場のない自分に対しての怒りが、幼馴染みに強く当たって怒ってしまう。怒りに変化してしまう。
然も、相手から見れば既に怒っているように見える。声の低さと不機嫌そうな顔。そんな空の様子に、「えへ、へへ」と無理矢理笑みを作り、空の鋭い視線から逃げるように目を泳がせる侑奈。
「使ったんじゃなくって......み、見えちゃったから。だから、しょうがないでしょ?」
空の視線に耐え切れなかったのか、侑奈は後ろで自分の両手を握りやや俯き加減で、萎み気味な声になりつつも正直に云うが何も怒ることないじゃん。と云うように最後の方はむっとした顔で同意を求める。
「はあ....嗚呼、そう。なら、しょうがないよな」
見えちゃったとしても使ったことには変わりない。【奪取】する能力があれば和泉を一般の。否、普通の人として政府や能力を持たない市民に使われることのない未来をあげられるのによ。と内心そんな事を思いながら、和泉の言葉に納得はしていないものの、自分の怒りを鎮めるようにため息を吐いてからまるで自分に言い聞かすようにも聞こえる口調で云うとまた口を開いて。
「俺に恩を着せるのは、もう止めろ。お前には、さっきも云ったけど充分過ぎる程助けてもらった。だから」
_______此れからは返させろよ、これ以上は。
『えーまだ、札を取っていない生徒は今すぐ取って下さい。じゃないと部屋割りが出来ないので。取った生徒から先生に番号を伝え各教室の教卓に番号札を回収するボックスがあるので伝えた生徒から教室に行って名前記入してから回収ボックスにお願いしますねえ』
未だに取っていない生徒が居るのに、気付いてか校長がマイク越しに云ってきた。
他にまだ取っていない生徒達はまばらに居るも心なしか此方を見ているような。否、見ている。と校長の方を見て思い、慌て取るも不意にそういや、今朝の。と思い出してしまう。
彼方の人まで、複写したことに対して校長には云いたいことが、姫っちを千早を怖い目に会わせたことをまず怒りたい。
つか、生徒に危害及ぶ人まで複写してんじゃねえ。と云いたい。
後、複写の筈があんなにまるで生きているかのように動くのかと聞きたい。
あれじゃ間違って其処に居た人も建物等を複写した時に複写してしまったんじゃなく意図的にそうしたような感じがする。だって、喋りはしなかったが相手の息遣い。そして、感触がやけに生々しくはないだろう。
沸々(ふつふつ)と校長に対しての疑惑が浮上する。しかし、それは確信に変わる前に幼馴染みの侑奈の声で終わった。
「早ちゃんと李ちゃんも、番号札を取って教室先行っちゃったから、うちらも行こうか」
早ちゃんとは、千早の事。李ちゃんとは李紅の事だ。侑奈は、教室がある方を見ながら空に対して云う。あーぁ。なんて残念がるような声が話す前に入ったのは、多分気のせいではない。侑奈は、云うなり先生の元へ行って番号を伝えていた。
「お、おう。てか、お前」
さっき俺が云ったこと完全に聞いてなかったことにしてないか?と先に行く侑奈に遅れて続く空はそう言い掛けたが、何となくそれを拒むような後ろ姿を見て云うのを止めて、自分も先生に番号を伝えにいく間際、ちらりと校長の顔を見る。
校長は、俺らや他の生徒が番号札を取り、次々と先生に伝え教室へ戻っていく姿を見てか、嬉しそうにほっと胸を撫で下ろしているような顔でテレビとかドラマに出てくる校長のようだとそう何処にでも居るような校長に見え、さっきの懸念が消えていくのが分かる。
まあ、考えても俺じゃどうすることも出来ないと思う、李紅ならまだどうすることも出来るような気がすると、空は思いつつ校庭を後にした。
「ダメですよ、ちゃんと私の云うこと聞かないと。 ......ですが、これで整いました」
完全に生徒達が居なくなった後に、人の悪い笑みを浮かべて静かにそれでいて誰かに言い聞かせるように強調して云う校長は、最後に意味深なことを言い残して早馬から降りればゆったりとした足取りで見回りに繰り出す。
空の早馬は校長が去った後に、ぼふんっと云う音と白い煙が立ったと思えばすぐに早馬と共に消えていった。