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恋刻ノ御伽草子  作者: 逢葵 秋琉
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素直とは欠け離れている二人

 空が能力で出してくれた早馬は、千早が心配なのかそれとも、まだ能力の効果が消えてないのかはたまたその両方で其れに加えて空の()めた思いが強いのか千早を送り降ろしても消えないまま千早に寄り添い周囲を警戒している。今、千早が居るのは校庭だった。


 校庭には、千早以外の一部の生徒を(のぞ)いた生徒全員も集まり、放送で流すのを止めた校長先生の話を長々ともう一時限目始まるか始まらないかの瀬戸際で長々とそれはもう長々と聞かされていた。


 (さいわ)いにも、自由に座ったりクラス順に並ばなくても良いらしく聞いていれば能力の使用も可と云う事で空の能力で出来た早馬も先生に強制的に消されずに済んでいる。だが、肝心(かんじん)の空が学校にまだ来ていない事に千早は徐々に不安が(つの)っていき、


鴇永(ときなが)君、大丈夫だよね? やっぱり、先生に云った方が良いかな?」


 誰に聞く訳でもなく千早は、口にして心の裡で大丈夫だと自問自答して何回も云い聞かせていた。それと同時に先生方に伝えた方が良いかどうかも悩んでいたが、先生と生徒の距離はかなり離れていて生徒達の前に居る為、幾分か自由に出来ると云っても先生の所まで行くのはどんな理由であれ目立つ。目立つことが苦手な千早はたった其れだけで躊躇(ちゅうちょ)してしまっていた。


 それじゃなくても、千早の名前が姫咲 千早と云う読み方だけを聞けば分からないが、珍しい名字で能力も滅多にない変身だからかは知らないが、名も顔もこの学園中に知れ渡っている。目立つことが苦手と云うより、恥ずかしいと云う気持ちの方が強くこの馬に乗ってきた時も注目の的だった気がしてならなかった。その時の事を思い出したのか、見る見る内に顔が赤くなり、馬の首辺りに顔を(うず)めて


「~~っ‼ も、もうっ.....鴇永君の馬鹿、馬鹿っ」


 自分の能力は見られたくないけど、でも! と確かに学校には間に合ったし助けられたが、馬に乗って登校するなんて、能力者だけが集まり能力だらけだとしても誰一人やるものは居ないだろう。其れがまさか、自分がやってしかも、鴇永君の能力で登校したなんて思いもしなかったものだから、気持ちがまた落ち着かなくなってしまう。


 目立つことは確かに苦手だけど鴇永君達が居たら不思議と恥ずかしくなく周りが気にならなくなるから大丈夫なのだが、一人だとそうもいかなくなり、声は極力控(きょくりょくひか)えつつ、どう気持ちを落ち着かせようか分からず、馬を軽く本当に痛くない程度に叩きながら何度も何度も馬鹿と云う。


 何十回目になる馬鹿を声に出して云おうとした千早だったが、其れは出来なかった。


「あー、と......何か悪い事したな。 姫早」


 自分の世界に入っていた千早に声を掛けるか否か悩むような躊躇(ためら)った声を出してから、自分の後頭部を掻くような仕草をして何とも云えない表情で僅かに苦笑いを浮かべれば謝った方が良いだろうと直感的に思い、千早をちゃんと見て口にする空は、此方を見た千早の林檎のように赤くなっている顔を見てしまうと直視出来ないようで目を()らす。


 空のやや後ろ隣に立っている李紅は、二人を特に空の様子を見てぷっははっ! と何がツボだったのか分からないが声に出して盛大に笑っている。それはもう、校長先生のマイク越しで話している声の大きさと同じくらいか或いはそれ以上か。


「~~っ‼ 笑うなって、李紅!」


 李紅に笑われてか。最初は()えていた空だったが、一向に収まらない笑い声に千早と同じくらいに顔が赤くなり、堪えきれずにくわっと李紅の方を振り返り、口で制しようとするも李紅は其れだけでは笑うのを止めてくれず、寧ろ笑い過ぎているのか涙目になって腹を(かか)えて笑っている。一体何がそんなに可笑しいのか、というより良いから黙れよと云う思いで、李紅の方へ()め寄ろうとするが何処(どこ)からともなく(いや)、正門から水が川のように流れてきて


『!!?』


 殆どの生徒達は校長先生の方を向いているためどっと押し寄せて来る大量の水に驚いて目を見張る者や即座に自分の能力を使い避難をするものも居たが勢いよく流れてきた為か大半は流されていた。


「っ、ごほっ! 何なんだよ、この水!」


 やや後ろの方、李紅の方を見ていた空は、流れてきた水に一瞬飲み込まれ、流されそうになるも能力を解除していない。否、何故か消えずに居る自分が出した馬が身を(てい)して流れに抵抗したお蔭で顔を出すことが出来、喋ることが出来たが飲み込まれた際に水を少し飲んだのか、やや苦しそうな声を上げてから皆が思っている事を代弁するかのように云う。


 しかし、この不自然な水に心当たりというより思い当たる事が、空にはあった。その上、飲んだ水は少しそう、校庭で止まり、円を描きながらまるで大型の洗濯機のように回っているように食道までいく間口の中で同じように回っていたから此れは誰かの操水だと分かる。


 ただ能力である水を飲んでしまったことと思い当たる人物にチクリと心が痛くなるような感覚になる。


(否、まだ和泉(アイツ)がやったとは限らないけどっ)


 嫌な予感ほど、当たる。当たるから外れることはないと空自身思っているが、違ってほしい一心(いっしん)で声に出さずに心の裡で云う。


 和泉は、この学園に入ってから能力を派手に使うことが多くなっていた。ものの回数を増幅(ぞうふく)させる能力者も学園内には居て、更には活力や身体能力等を上げる付加まで居るので学園に入る前よりも多く使っている節がある。それも、空の目の前で堂々と使う時がある。まるでもう、大丈夫だと云っているように。


(いや)、それよりも今は!」


 「姫早と李紅は?!」と生徒や先生を巻き込んで校庭に(とど)まり、渦を作っている水は学校にあるプールの深さよりあり、能力だからか地面に吸われる事なく時計回りに流れていてるからか。結局、流れに逆らうことが出来ず、馬の首辺りに掴まって呼吸が出来るように顔を水面から出しつつ悪い予感から()らすように口に出して二人を探す為、辺りを見回す。 


「おーい! 僕と(ちー)ちゃんは、此処(ここ)だよ! 此処!」


 辺りを見回せば、空より流されているようで横を向いた途端(とたん)此方に向かって手を振る李紅の姿とその隣に千早の姿がちらちらと見える。


 どうやら、李紅は能力を使ったらしくこの世界には空想とされる魔獣に乗って顔だけではなく全身、水に()かってなく魔獣(まじゅう)の背にちょこんと二人とも座っていた。その光景に空は安堵したようでほっと息を()く。


「あー、()かった! 二人とも水中に居たらどうしようと!」


 「無事なら()い」と(もし、水中にまだ居たら、生きた心地しないからな)と内心で思いながら、心から口にする。


 二人が溺れるとは思ってはない。李紅は、泳ぎが和泉と同様に上手く千早は、泳ぎが得意じゃないものの人並みに泳げるため、溺れる事はないと空は思っているものの。急な事だったので、水を飲んだり他の生徒達と揉みくちゃにされたり流れが早いから上手く息継(いきつ)ぎが出来ず、顔も出さない状況だったからか万が一を想定していた空は、心底安心したと云うように良かった。を繰り返す。


(二人が無事なら、後は他の奴等(やつら)を助けないと! 先生方もつか、校長先生も?! 流されてるけど、俺の能力はこのままじゃ使えない!)


 言霊か、李紅の能力【召喚(しょうかん)】や自分の身一つあれば出来る能力じゃないとこの状況は打破出来ない。況しては人助けなどもこうも流れがある水面かでは絵現なんて到底出来そうにない。空は、何とかしてこの状況を(だっ)しようと考えを巡らせて自分が掴まっている馬に目を映す。


「っそうだ! これでいける!」


 【早馬、校長先生を助ける。】乾いた筈の噛んで血を出した示指は、水に濡れたせいか微量ながら流れていて血を使って有筆を馬に直接使い、書けば発動させる。空を助けるようにしていた馬は血で書かれた言葉の通りに空から離れ生徒達に交じって揉みくちゃに流されている校長先生を助けるために動いた。掴まっていたものがなくなった空はまた飲み込まれそうになるが


「御人好しだなあ、鴇永は。 うちの能力だから、水飲めば息は出来るよ?」


「げっ、和泉! やっぱお前の仕業(しわざ)かよ?! 使わ.......」


 飲み込まれそうになったのを助けたのは、この水を出した張本人。和泉(いずみ) 侑奈(ゆうな)で、空を水で出来た蛇が空の首根っこ正しくは服を(くわ)えて会話出来るように水面に出したまでと云った方が良いかもしれない雑な助け方。


 だが、その事には触れずに目の前に居る幼馴染みを見て、嫌がってるような怒っているようなどちらとも云えてどちらとも云えないそんな複雑な顔をして、つい礼よりも先に能力を使わないでくれと能力を使ったことに対して(とが)めそうになるも、横から来る視線。李紅の視線がその続きを云わせまいと制していて。空は、その視線から逃れるように顔を逸らし和泉の方を横目で見る。  


「な、何でもない。 その......和泉、ありがとうな」


 何とか咎めるような言葉を、飲み込んで代わりに礼の言葉を小さく本当に聞こえるか聞こえないかの声で和泉に云う。面と向かって云うのは初めてかもしれない。否、咎めるような言葉を投げた後に礼は云ってはいた筈と空は思うも改めて云うのは、何と云うか(こそばゆ)く和泉からも目を逸らす。


「......べっつにー。 うちはただ、鴇永(ときなが) (そら)に恩を売ってその倍返してくれるよう仕向けてるだけだから」


 空の礼が聞こえたのか。(きょ)()かれたような鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、数回(すうかい)(まばた)きを分かりやすくした後。両腕を後ろにやり自分の両手を組んで満更(まんざら)でもない様子でさらりと要求してくる和泉は満面の笑みを空に向けた。


「はっ......別にそれぐらい云われなくても倍返してやる。言葉だけじゃ足りないって思ってたんだ。 能力を使っても使わなくても俺は、和泉(いずみ) 侑奈(ゆうな)に感謝している」


(お前が居たから、俺の今はある。でも、もう助けられるのは御免(ごめん)だ......御免なんだよ)


 (れい)の言葉だけじゃ足りないくらい和泉に助けられた。守られた回数は日数は幼い頃と今の今までを入れて数えきれない程あった。あったから礼で済ませようなんてしていない。(むし)ろ、要求を内容も詳しく云って欲しいくらい足らない。


 そうじゃなくても、昔と今は違うと今の今までじゃ駄目だと思っているのもあって和泉の体も心配で和泉が自分を等閑(なおざり)にしている感じがして、何処か無理をしているような気がして自分が未だに和泉に助けられている事にも嫌で嫌で仕方ない。確かに他の奴等と比べたら弱いかもしれない。と自覚はしている。


「ばっ、馬鹿じゃないの! そ、そんな真面目に云うとかない、ないから!」


 空の真面目な声と表情に調子が(くる)ったのか。動揺を隠せないでいる和泉は数秒の()があった後に後ろにしていた両手を前に自分の顔の前にやり、左右に振ってから思わず空の言葉よりも先にそんな言葉が出てしまう。


 御互いに(ひね)くれている部分があるからか改めて云われたりそんな表情をされてしまえば、困惑の方が(まさ)る。


「何だよっ、真摯(しんし)に云わないと伝わるもんも伝わらないだろ!? ....さっきの言葉、本音だから」


 「信じてないかも知んないけど。」と見るからに困惑し動揺を隠せてない和泉に、此方まで困惑してしまう。しまっているからか、やや早口になりがちでけれど、はっきりとした口調で告げる空は、李紅に笑われた時よりは紅くはないが、照れ臭さからか少しだけ顔が紅くなっていた。


「っそうだけど......何か調子が狂っちゃうな。でも、空が本気で云った言葉だってのが、ちゃんと伝わったよ」

「なら、良いけどよ」

「楽しみに待ってるよ」

御礼(おれい)は、何が」


《えー、今からこの水で寮の部屋割りを書いた番号札を流します。 明日から寮は男女関係なく一軒家で一人や二人、三人で暮らす形になるので諸君は必ず番号札を取って近くにいる先生方に伝えて下さい》


 空が、御礼は何が良いんだ?と云い切る前に早馬に助けられ背に乗っている校長先生が、マイク越しで今年度の部屋割りについて説明する。クラスは()り上げなので特に新学期の説明はなく一日目で授業が始まり部屋割りもしないと思っていた為か、予想していない事に暫し沈黙(ちんもく)するが、校長先生の云った通りに番号札が流れてきて


「なあ、和泉。 もしかして、予知したのか?」


 空が番号札を取りやすいようにしてか水で出来た蛇は空を手先まで上げていたのを肩まで下げるも、首根っこを咥えたまま流されないようにしている。(もっと)も、和泉の能力なので流れを止めれば良い事だが、操水は制止よりその流れを維持(キープ)していた方が対価を支払わなくて良い。()める場合は徐々に流れを緩やかにしていくのが良いらしく今の時点でさっきよりは流れが少しだけ(ゆる)やかになっていた。その最中、空はこの状況が道理だと思ってないようで静かにそれでいてはっきりとした声で和泉を見て聞く。


 聞いた瞬間。(とき)が止まったように空と和泉、侑奈の周りだけ静寂(せいじゃく)に包まれたような()が数秒あった。それは、周りからしたら一瞬、二秒もしないかも知れない時が二人に()ちる。

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