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恋刻ノ御伽草子  作者: 逢葵 秋琉
4/9

乱入。そして、空はからかわれる。

「っは、ちょっとは手加減しろって‼」


 ずしっと腕に来る振動と太刀筋の重さに受け止めきれないと云うように思わず本音が出る。自分の刃と相手の刃が自分に向かっているからか()()りながら(あぶ)い、危いと口にするも、何故か楽しそうな笑みを浮かべて刀を反らす。滑らかに受け流すようにしながら横へとずれる。


 竹刀のようにとは云ったが、実際に振るった事などなく刀の持ち方や打ち合い、間合い等したことがなく経験は全くと云って良い程ない。その筈が、どうしたことだろうか。まるで、前にも使った事があるような手に馴染む感覚でもうとっくに目が醒めている筈なのにまだ夢を見ているような酷く現実的じゃない状況に、少し現実に友達(ダチ)と遊んだり、会話をしたりする時以外の出来事に日々に物足りなさを感じていた為か刃物を持っている男達に囲まれ相手している身の危険がある状況ですら楽しいと思ってしまう。


「でも、少し不気味だなっと!」


 呻いたり痛そうにする以外に声を出さない男達を空は少しだけ不気味だと感じていた。否、声を出さないんじゃなく出せないと相手している途中で気付く。その証拠に男達の口は幾度となく開いて何かを云っているのに。空は其れに安堵した。安堵したのには理由(わけ)があった。それは能力で生み出されたものだと確信が()てるからだった。


 同時に悪趣味だと感じ、次第に沸々(ふつふつ)と(いか)りが込み上げてきた。この怒りは男達にではなく、男達を生み出した能力者に対して空は()なしながらも怒りからか男達から放たれている殺意のある目と同じになり掛けるが


「おーい、空!」


 自分を呼ぶ、聞き慣れた声が上から()ってきてふと空の殺意が(やわ)らいでいくのが見てとれた。空は、視線は男達をしっかり(とら)えたままその声の主に向けて


李紅(りく)!? おまっ、何しに来たんだ!」


 空の同級生で女友達(ダチ)楠木(くすき) 李紅(りく)と云うらしく空は、李紅の危機感も況しては緊張感もないこの場に()ぐわない声に殺意は和らいだものの、李紅がどうして此処に来たのか、どうして上からつまり、屋根の上に居るのか、学校に遅刻しても良いのか、そもそも、何でそんなに悠長に話し掛けてくるのかが分からず、やけに突っぱねた強めの口調で云ってしまっているが、正直李紅に構ってられないのも事実で、(こま)ったような怒っているような何とも云えない表情で複写の男達、複数相手にしていた。


「何しにって.....そりゃあ、ねえ?」


 チッチッチィと舌打ちとはまるっきり違う。(かろ)やかでリズムの良い音が李紅の口から鳴り、にんまりと口許を緩ませてまるで聞き返すような質問に質問で返すような口調で、勿体振りつつ楽しげにしている気配が背中越しでも伝わり、状況分かってんのかよ。と頭を抱えたくなるが本当に構ってられないのか()かすように 


「ねえ? って、云われても分かるか! 良いから云えって!」


 李紅の真似か鸚鵡(おうむ)返しの要領でノリツッコミのようにテンポ良く返すも何時もようには状況が状況なので目の前に集中したい空は、強い口調で李紅に向けて告げる。千早のようにこの場を去るように云うこともなくかと云って邪険にしている訳でもない為か李紅との会話を本気で()めようなんて思ってなく男達(てき)から目を逸らさずに耳を(そばた)てる。


「えー、仕方ないなあ。 ただ、混ざりたいなーって.....僕も混ざって良い?」


 何時ものようなやり取りが出来ず、不満そうに声を上げる李紅だったが、にんまりと再び笑みを浮かべて、駄目かな? 良いよね? と最早、拒否権はないと云うように殺意とは違うものの李紅の視線が背中に痛いほど突き刺さる。


 見なくても分かる輝いている雰囲気(オーラ)(にじ)み出ていてきっと否、確実に目を輝かせていると空は思いながらも、千早よりそんな心配や不安はなく自分の能力よりも優れた能力を持っていて男っぽい所があるからか千早の時よりこの場に残る事に複数相手にさせることにやや悩むような素振りを見せるも抵抗はなく拒否はしないようで


「っ別に良いけど、やり過ぎんなよ?」


 悩むような素振(そぶ)りを見せたのには、理由(わけ)がある。理由は簡単で李紅は容赦(ようしゃ)がなく知らない相手にや嫌いな人には手加減しない。これっぽちも情を見せずやり過ぎる傾向がある。しかも、友達(ダチ)が絡むとますます容赦しなくなる。空からしたら心強く相手からしたら物凄く後免(ごめん)(こうむ)る。正直云って相手にしたくない、敵に回したくないのが本音だ。助かるのは助かるが、相手に同情の方が強く素直には喜べないも事実で


「...、...御愁傷(ごしゅうしょう)様。 李紅に出会ったのが、運のつきだ」


 李紅のやりい。 やったー!という声を聞きながら心の底から思っているのかやけに深刻な声音で男達に対してだが、男達には聞こえないように小さな声で云ったは良いものの段々笑えてくる。危機的状況だったのに李紅が来て混ざるだけで余裕が出来たのもそうだが、自分の言葉に対して可笑しな事を云っているような気がしてそれがじわじわとツボに来てしまい、数秒声に出して笑った後に


「決めた! 俺も、手加減しない!」


 刀を普通に持ち直し、刃先を相手に向ける。空からしたら刃先を相手に向けるだけで手加減してない事になるが、矢張相手を傷付けないようにあしらい、気絶を狙っているのか刀を持っていない手で打撃を加えたりしながら、この状況を楽しんでいるように顔が(ほころ)んでいる。


「そう! 登校の妨害してくるんだから、遠慮も手加減も要らない!」


 空の言葉に相槌(あいづち)し当然と云うようにきっぱりと云い放てば、空の真横に降り立ち、にいっと(まぶ)しい程に笑みを向けて続けざまに      


「でも、そう云う空は手加減してるでしょー?! まあ、楽しそうだから良いけどさ!」


 相変わらず甘いなあ! と何時(いつ)()に相手から刀を(うば)ったのか、構えている刀が太陽の光に反射して(きら)めいている。刀が何故(なぜ)か様になっているのは何故だろうか。と空は横目でちらりと李紅を見て不思議に思うも()ぐに嗚呼、()(ほど)。と合点(がてん)したようで。


「李紅、お前......」


 お前も着物なんだな。と云うつもりだったが、何故か続けられずに引っ掛かりを覚える。前にも云った気がすると、前にも見た気がするとそんな筈ないのにさっきから其ればかり。無いことと云えば、この状況に千早が居ないこと。否、さっきのさっきまで空と一緒に居た訳で、自分が先に行かせたから此処には居なくて当然で


((いや)、何訳が分からない事を俺は云っているんだ?)


(......んなの、有るわけねえ。 夢と現実が錯誤(さくご)しているだけだ)


 刀を握る手に力が(こも)る。錯覚、混合しているだけだと頭の中で解釈をすれば、相手に集中する。自分の中でモヤモヤがまた出てきて気が触れそうになるのを(ふせ)ぐ為にも頭を(から)にして振るう。


 (さいわ)いにも李紅には自分の様子が可笑(おか)しいとか気付く事もなく男達を相手にしていた為、其れには安心した(そら)は、李紅と一致団結して男達をものの数分で倒し気絶(きぜつ)させることに成功した。


「っはあ、やっと終わった。 楽しいのは楽しかったけど...さっすがにきっつ」


 美術部なんだよ、俺は。と運動部じゃないから体力はないんだよと云いたげに空は肩で息をしながら、バテ気味なのか両手を膝についたまま弱音に等しい言葉を思わず声に出す。そりゃ女子よりはあると思うが隣に居る李紅を見ると自信と云うか気力が無くなり、つい言い(わけ)()みた言葉を付け足してしまっていた。美術部だとしても、普通に体力は人並み以上の人は居るし美術部だから体力がないと云う話にはならないのを知っているから余計に自分の首を絞めるようで息を整えながらも


「そんで、李紅。 何で、此処に居るんだよ?」


 改めて李紅が此処に居る理由を聞く。何時もなら女子寮と男子寮は隣で行く方向が同じだから。と居る理由が分かるが今日は違う複写された男達に追われ道を出鱈目に走り、学校にはそこそこ近いが何時も通る道よりも遠く見つけにくい路地裏で空の声と刀のぶつかり合う音しかなかったから益々(ますます)、李紅が居ることに来たことに疑問が浮かんで理由を聞く事にしたらしくそう聞くと李紅を見る。


「え? 何でってそりゃあ...空が此処で危ない目に合うって、(ゆう)ちゃんが云ったから」


 救世主(セイヴィヤ)って奴をちょっと、やりたくて。と何故か右頬を指で()くような仕草をしながら、相変わらず明るくも暢気な口調で今から学校行くという気持ちがないようで全く焦る様子も先を急ぐという事もなく悠長におどけたように空を見返して云う。


 (ちな)みに、李紅が云う侑ちゃんは和泉(いずみ) 侑奈(ゆうな)と云う名で李紅の親友であり、空の幼馴染みで今は同級生(クラスメート)。侑奈の能力は僅かな先にある未来を見る【予知(よち)】と水を自由に操る【操水(あやすい)】の二つを所持している。操水は珍しい能力ではなく能力の中では主流で多いが、侑奈の操水は特にずば抜けていて、予知も他の能力者より長く見ること、特定の誰かの未来を見ることが出来るという。しかし、空はよく思ってはいなくそれを聞くなり、


「あー......まあ、うん。 助かった、サンキュ」


(アイツには極力使うなって云わなきゃな......、能力は無限に使える訳じゃないしよ)


 口では、歯切れは悪いものの感謝の意を表す言葉を云うが、侑奈の事になると別らしく声にはりがなく何とも言い難い表情になりつつ、後頭部を掻きながら侑奈にどう云おうか。どう使わなくするか。考えを(めぐ)らしていた。能力は空が云うように無限に使えるという訳じゃなく気付かない内に知らない内にそれ相応(そうおう)対価(たいか)を払っている。


 其れは命や寿命、記憶や関係性、体力や視力、味覚等と多種多様で中には髪だったり、言語だったり、能力に回数があったりもし大人になったら使えなくなった等よく聞く話で、その逆も多い。その逆は短命や寿命。寿命においては使う一回毎に3日か5日減るというもので其処まで影響はなく余程一日に頻繁に使わなければ尽きない為、緩やかなものだが。命そのものは体に影響を(きた)す。侑奈は、能力か元からかは(さだ)かではないが小さい頃から体が弱く、女子寮・男子寮とは違う寮で暮らしている。その為か、空は侑奈が能力を使う事をよく思ってない。


「あー.....まあ、うんは、余計! 侑ちゃんにも(れい)、忘れないように!」


 空の真似か男っぽい声を最初に出して、辛気(しんき)(くさ)いオーラを出している空の背中をばしんと強めに叩く。大阪のおばちゃんのような行動だが、わざとやっている。こうでもしなきゃ自分まで空みたいな否、それ以上に侑奈の事で一杯一杯になると感じて空気を変えるように元気にはっきりと云う。


「っ()! ちょっ痛いって、(ちから)入り過ぎだかんな?! ......わーったよ、礼は云うから」


 背中をばしんと思いっきり叩かれた空は、更に前のめりに勢いもあって倒れそうになるが、何とか()()り叩かれた箇所を(さす)りつつ、痛いというより衝撃がかなり強く危うく倒れそうになったからか、叩いたことに対して怒ってはないが加減しろと云う意味で李紅に告げれば、侑奈に礼と云われて罰が悪そうな顔をして渋々ながら承諾する。


 だが、侑奈を目の前にすると礼よりも能力を使ったことに対して怒ってしまいそうだ。否、怒らなくても責めるような言い方になってしまいそうだ。と空は思う。現に侑奈が使う度に心配からかつい、責めるような言葉を投げ掛け仕舞いには礼を云うタイミングを何時も見逃す。感謝はしている。感謝はしているのに、それよりも心配が(まさ)ってしまう。侑奈は其れなのに、何時も何時も変わらない明るさで過ごしているものだから余計にかもしれない。


「ふふっ、御免御免! んーーっ、よし! ちゃんと、空が礼を云うかその時は影から見守ってる!」


 空が怒ってないと分かっているからか、笑って軽い感じに謝り、空の様子に(しば)し考えるような仕草をしながら(うな)っていると(ひらめ)いたように自分の両手を一回叩いて空の方を見て名案でしょ?と云っている清々しい顔ではっきりと云っていて。


「は?! ちょっ、そっちの方が余計だからな? 礼くらい、云えっから和泉(アイツ)が相手でも」 


 李紅の軽い謝りに対して仕方ない奴だな。なんて云いながら李紅に()られるようにして笑っていた空だっだが、まるで保護者のような発言に素で驚いているのか()頓狂(とんきょう)な声を出して慌てたようにやや口早(くちばや)に不本意だと云わんばかりにそして自棄っぱちになり気味(ぎみ)に云い、そっぽを向く。


「またまたあ。そんな事云っちゃってー! そう云ってるけどその時になったら礼、何回も云いそびれてるじゃん!」


 空の言動が可笑しいのか。くすくすと笑みが()まらないようで笑いながら、そっぽを向く空の顔を覗くようにしてまるで今までも見てきたかのようにつらつらと饒舌(じょうぜつ)に。ね、そうでしょ? そうでしょ?と僕の読み当たってるよね?と云うようにくすくすからによによと笑みを(たた)えつつ決して目を合わせようとはしない空に何とか目を合わせようとしながらも同意を求めてるように何度も聞く。


「っだー‼ しつこいっての! 其れは俺の問題だから良いの! ほら、行くぞ!」


 聞こえないと云うように李紅の言葉を(さえぎ)り、この話はお仕舞いと云うようにやや強引に話を終わらせると、(きびす)を返して学校へと李紅を置いていく形で向かう。


「あっ、ちょっと! 逃げるなーっ! まだ、話終わってないんだから!」


 しつこかろうがなかろうが関係なく続けるから! と一足先に行く空に対してしまったと云うような顔をして反応が遅れてしまったものの、慌てたように少しだけ怒っているような声を上げてタッと駆け足で空に直ぐ様追い付けば、空は自然とペースを落とし歩きに変わり、李紅と変わらないペースで一緒に歩いて学校へと向かい始める。


 例え、能力を使おうがもう遅刻には変わらない為、この際ゆっくり一時限目の途中からでも終わり頃に教室へ入っても良いか。と疲れたという事もあってか、普段授業は体調が悪かろうが何だろうが受けている空は珍しくそんな考えなのか。能力を使うこともなく李紅の話の続きを時々(ときどき)曖昧(あいまい)にはぐらかして聞いていた。

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