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恋刻ノ御伽草子  作者: 逢葵 秋琉
3/9

君を想う感情は、思いの外俺を動かす

 空が駆け出すと、追い掛けてくる足音が複数聞こえて来る。1人だと思っていたからか、その多さに思わず振り向こうとするが


「いやー! ちょっ、ちょっと何で追い掛けてくるの?! 来ないで!」


 聞き覚えのある声が空の耳に届き、反射的に足が聞こえてきた方へと駆ける。空が今の現状より優先したような行動は、同級生(クラスメート)友達(ダチ)姫咲(きさき) 千早(ちはや)の声だからというのが大きく、声を聞く限り混乱(パニック)状態で空と同じ誰かに追われているような只事(ただごと)ではない状況だってことは声だけでも分かる。


 近付くにつれ、行く手を阻んでいる。恐らく千早を追い掛けている見掛けない学園内には居ないような男達を見てぴんっと来たのかはっとしたような顔をした後に。


(あの校長(やろう)、向こうの奴等(やつら)まで複写(コピー)したって事かよ!)


「っ姫早(ひめさ)!」


 空自身が付けた千早の渾名(あだな)。この渾名は千早と初めて会ってから二日(ふつか)もしない内に付けて其れ以来ずっとこの渾名で呼んでいる。


 時たまに、姫っちとか姫なんて色々別の渾名で呼んでいるが、其れは千早の緊張や不安そうな顔をした時、余計な事を考えている時に笑わせたいが為に呼んでいる渾名。


 千早の渾名を呼び、自分も追い掛けられている身である為か止まることも後ろを振り返る事もなく千早を追い掛けている男達の合間(あいま)()(くぐ)り、千早の手を掴んで手を引きながら学校へと走って向かう。


 追い掛けている男達を()くように出鱈目(でたらめ)に。

 

 けれど、確実に学校へと近付いてたが、この状況では撒くには時間的にも無理がある事を悟る。


 しかし、千早一人で逃げられる可能性は先程の光景を()の当たりにした空からしてみれば低くかと云って千早が空と複数相手にする、()しては千早を(かば)いながら相手をするのは(あま)りにも無謀(むぼう)だと云えた。


 本音を云えば、傍に居てくれた方が安心するが、傷付けたりされたりする光景を千早に見せたくはない。其れに千早が悲しんだり心配したり怖がられたりしたら困るのも事実で空は、走りながら時より千早を気遣(きづか)うように目を(くば)り、声を掛けつつ思案(しあん)をする。


 だが、頭の中で幾ら思案しても良い案は中々出てこず、体力と気力が無くなりかけているからか次第に

 

「んやろっ!」


 (なか)自棄(やけ)に近い心境で。空は、自分の示指(しじ)()んで血を出せば、壁に走り描きのように絵を素早く描き、殴り書きで【大きい早馬。千早を学校まで乗せ()く。】と有筆と絵現の能力を発動させる。


 大きい早馬と書いたのは急いで描いた馬で小さく雑だから。描いた大きさで雑なまま実体化してしまう可能性があるので有筆で付け足したのだった。血で描いたのでとある映画に出てくる感染した犬のような()で立ちになるかと危惧(きぐ)した空だが、建物が木材で出来ているからか色味が(うつ)り、赤いオーラを(まと)う力強い赤茶の馬が(またた)()に現れて


「きゃっ?!」


「その馬は俺の能力だから、安心して良い! 姫早を頼んだっ!」


 完全に実体化した時には千早を乗せた状態で急に目線が高くなったからか可愛らしい驚いたような声が千早から()がる。繋がれた手は千早が浮上した際に放しており、有筆通りにしかし、合図がないからか空と同じペースで走っていたが、焦りからか空の切羽(せっば)()まった声を聞き届けるとぐんっと一気にペースを上げて千早を乗せたまま学校へと走り去って()く。


 走り去る前に千早が何か云ったような気がするが、よく聞き取れなかったのと千早の言葉を聞いている余裕などないのもあり、気のせいだと心の裡で言い聞かせる。 


 そうしなければ、千早が何て云ったか、気になって気になり過ぎてその事で頭の中が一杯になって仕方ないから。不意に千早を危機から遠ざけたからかそれとも(すで)に千早の事で一杯だからか追われているのにも(かか)わらず笑みが(こぼ)れ落ちた。


「やべえな、姫早の破壊力。 凄すぎて、頑張れそうだ」


 逃げている間に()わされたやり取りと最後に聞いた千早の驚いたような声を思い出したようで思わず口から出てしまう。走り疲れた筈が特に応援もされてないのに千早の声を聞いただけで活力が溢れてくる。


 千早にそんな能力なんてなく千早の能力は自分を好きな動物や物に姿を変えられる【変身】で他人に力等を与える【付加(ふか)】じゃない筈が空には千早の声を聞いただけ或いは見ただけで頑張れる気が、多少無茶な事でも今なら出来そうだと思えるから不思議だ。


 もしかしたら、自分が想う以上に千早の事が好きかも知れないと。だが、好きと千早に伝えたら今の関係が崩れる。何かが終わる気がしてならない。其れに片想いのままが良いと感じるのも事実で。だから、千早に想いを伝えるつもりはない。伝えても真剣に告げるつもりはなく何時もの調子で云うだろうと。あくまで今段階ではなのでこの未来(さき)は分からない。


 気が散漫(さんまん)し呼吸も走っているからか(みだ)れていた空だったが、次第に落ち着きを取り戻して、今の状況をどう切り抜いていくのかどうしたいのかが分かる。千早を先に行かせたのなら、自分が遅刻しようが怪我しようが無茶だろうが何だって出来ると。


 だから、学校へ急ぐのを()めて、複数相手にすることにしたらしく、空は、距離をたっぷり()けると振り向き、(いきお)()く自分の方へ向かってくる相手に1発、()ます。鳩尾に見事に(あた)ったようで、苦しそうな(うめ)き声を上げ、その場に倒れるようにして(うずくま)った。


 蹲った相手の腰に差している刀を息を(ととの)えながら抜き取り、刃先を自分の方に向けて持つ。逆刀(さかばとう)ではないが相手を殺すつもりはなく竹刀(しない)を持っているつもりで(ひる)んでいるのか驚いているのか或いはその両方かは(さだ)かではないが蹲る男以外の男達に向けて構える。


「......只の複写じゃない、のか?」


 複写(コピー)が痛がったり況しては感触が有るなんて思ってなかったと能力の詳細は知らないので複写は一体何処まで複写出来るのかを把握してない為、此れが複写だと断言出来ない。 


 しかし、この学園は特別なイベントがない限り能力者だけが入れる敷地で部外者、家族ですら普段は出入り禁止。能力者は大人や教員に許可を得た学生のみ学園外に出れる。基本学園外に出る事は許されず、許可を貰うのにも家族に会うという理由だけでは許可が降りないと云う。其れぐらいこの学園は外と隔離され非能力者と接触しない閉鎖的な空間だからか、空はこの見知らぬ男達が複写だと能力の仕業(しわざ)だと思っていた。そうしなければ、この状況に納得出来ず、訳の分からず今よりも混乱していただろう。


___だが、果たしてこの男達は複写なのだろうか?


 空は一抹(いちまつ)の不安とやけに人間味のある。まるで自分の絵現のように立体的で其れに加えて有筆で否、明らかにそれだけではこんなに自発的に動く事が有るのか? と疑問に思ってしまうも、其れを確認する暇はなく、キンッと刀と刀がぶつかり合う。

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