・お泊まり会①
俺は電話の内容――つまり明日のお泊まり会の事を一通り琴羽に伝えた。
「そうでしたか。お泊まり会があるんですね……」
俺の話を聞き終えた琴羽は、何やら不安そうな表情をしていた。何かあるのだろうか。少し気がかりなので、俺は何気なく琴羽に聞いてみる事にした。
「どうした? 何か不安か?」
すると、琴羽は顔を左右に振り言う。
「いえ、そういう訳ではなくてですね。私、人付き合いが苦手でして……」
そこまで言われて、俺は琴羽から聞いた話を思い出した。確か、琴羽は以前酷い虐めに遭っていたとか。人付き合いが苦手なのもそのせいかも知れない。
でもまあ、あの二人の事だ。琴羽ともすぐ打ち解けてくれるに違いないだろう。俺としても琴羽には二人と仲良くして欲しい。
「大丈夫だって、二人共少し元気過ぎるが悪い奴らじゃない」
俺なりの励ましの言葉を送り、話題を変える。
「それよりも先に、お前の事をどう説明するかだ」
あいつらの事だ。俺が同い年の女の子と同居していると分かれば、散々冷やかした後で、学校中に情報をばらまくだろう。
それを阻止する為にも、なにかうまい言い訳が必要不可欠なのだ!
「それならいい案がありますよ」
ここで意外にも、琴羽は自信満々といった面持ちで手を挙げた。
「私を従姉って事にしちゃえば良いんですよ!」
ドヤ顔の割には誰でも思いつきそうな、というより既に俺が考えていた案だった。……まあ、このことは黙っておいてあげよう。
「そうだな。俺もそれが無難だと思う」
「決まりですね。私も頑張ります」
頑張る? 何を? 気になったので尋ねてみる。
「言ったじゃないですか、私はコミュニケーション能力が限りなく低いんです! 上がり症で人見知りで恥ずかしがりやでシャイな美少女なんです!」
「……美少女って自分で言う辺り自意識は高いな」
俺は皮肉を込めて言ったのだが、
「はい、自覚ありますから」
どうやら琴羽には無意味だったようだ。
今日の天気はまさに炎天。蝉の声がどこからともなく聞こえてくる。
そして――
「お邪魔しまーす!」
「しまーす!」
二人の威勢の良い声が、玄関から響き渡った。
「準備はいいな?」
「は、はい」
二人の足音がどんどん近づき、ついに俺達のいるリビングへと姿を現した。
「へい翔太! ひさしぶり……あれ?」
「どうしたの? って、あらら?」
二人は数秒の間、黙って俺達を見つめていた。しかし、急にはみかみながら俺達の元へ歩み寄ってくる。
「やあやあ翔太。水臭いなあ! 君って奴は!」
俺と琴羽が座っていたソファーに、和真が強引に割り込んできた。グイグイと俺の隣に身体を詰める。
「何がだよ。ってか暑苦しい! 離れろ!」
和真が割り込んだせいで俺も琴羽側に押されてしまい、今はまさに「押しくらまんじゅう」状態である。クーラーが効いてる部屋とは言え流石に暑い。
「本当よね、私達の間に隠し事はなしでしょ?」
そう言って、輪は向かい側のソファーに腰かけた。
「隠し事? 何の事だか。後お前はそろそろどけ!」
俺は全力で和真を押し返す。
「うおっ!? そんな強く押さなくても……」
和真も何とか向こうに追いやる事が出来た。すると、輪がいやらしい笑みを貼り付けて言う。
「で? 彼女さんとはいつからなのよ?」
輪に便乗して和真も騒ぎだす。
「そうだぞ! お前いつのまにこんな可愛い娘を……! ちょっと歯食いしばれ」
そう言うと握り拳をわざとらしく震わせていた。
俺は思わず溜め息を吐いてしまった。どうせいじられると思っていたが、こうも想像通りに事が運ぶとは……。
そんな俺の心境などお構い無しでアホらしい質問は続く。
「彼女さんいくつ? 高校生よね? 翔太のどこが良かったの? キスはもう済ませた?」
「え? いや、あの……」
輪の質問攻めに遭い、琴羽は戸惑いつつもチラチラと俺に救いを求める視線を向けてくる。仕方がない、助けてやるか。
「お前らなあ、少しはこっちの言い分も聞いてくれても良いんじゃないか?」
「ほほう、拝聴しよう」
興味津々な二人に、俺は従姉という形で琴羽の事を説明した。