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ゴキの恩返し  作者: のんびり+
2/6

・謎の少女

 俺が少女に続いてリビングへ入った時には、少女は既にキッチンにいた。いつの間にかピンクのハートがまばらに入ったエプロンを着て。

「えっと……何してるの?」

 何から突っ込めば良いのか分からないので、今一番に思った事を聞いた。すると、少女は可愛らしい笑みを俺に向けて言う。

「はい! もう夕食の時間ですので。――あ! しょうが焼きで大丈夫ですよね?」

「え、あ、うん」

「すぐ作りますから、翔太さんはくつろいでて下さい」

 そう言うと、少女はテキパキと調理に取り掛かった。

 これはどういう状況だ?

 そんな疑問を胸に、俺はソファーに座る。

 そうしてただ呆けていると、

「翔太さん、出来ましたよー!」

 少女の声が聞こえたと同時に、食欲をそそる匂いが鼻腔をくすぐった。

 ダイニングへ行くと、テーブルの上には立派な料理が並んでいる。

「……すごいな」

 思わずそんな言葉が漏れる程美味しそうな料理。

 俺の言葉を聞いた少女は、口の端を限界まで吊り上げている。

「ささ、どうぞどうぞ」

 少女は席を引き、座るように促す。言われるがまま席に着くと少女も向かい側の席に着く。

「い、いただきます」

 とりあえず夕食を済まそうと、しょうが焼きを口に運ぶ。

「……うまい……」

「本当ですか!?」

「あぁ、うまいよ。すごいな、これなら母さんとタメ張れるぞ?」

「そんな、もったいない言葉です!」

 これは驚いた。実は母さんは料理上手と言う事で近所で有名だ。それはもう、そこいらの店よりは確実にうまい。まさかその母さんと同等の料理を出されるとは思わなかった。

「母さんに会わせたいな。きっと喜ぶぞ」

「そうですね。お義母かあさんにはまだ及びませんが」

「謙遜すんなって。これなら充分……って違う! 後お義母さんって何だよ!」

 危ない危ない。向こうのペースに乗せられるところだった。

「え? あぁ、確かにまだ早いですね。翔太さんもまだ十七歳ですし。この話は高校を卒業するまでお預けですね」

「…………」

 恐らく俺の今までの人生で、今日と言う日程疲れた日はないだろう。


「――で?」

「はい?」

「しらばっくれてんじゃねえぞ!? ネタはもう上がってんだよお!」

「うぅ……翔太さん怖いです」

 困惑を全身に漂わせる少女。俺は溜め息混じりに改めて問う。

「じゃあまず、名前は?」

 少女は顔を上げ、また眩しい笑みを作り名を述べた。

黒光琴羽くろみつことはです! よろしくお願いします!」

 琴羽……やはり初対面だ。学校にもいない。謎だらけだな。

 咳払いをして、次の質問に移る。

「目的を言ってくれ。何故ここに来たか。何故俺を知っていたか」

 俺の問いに琴羽は一瞬顔を伏せたが、またすぐに元に戻り答えた。

「目的は、ここに来たのは、翔太さん。あなたに尽くす為です」

 琴羽は笑っているが、その目からは冗談じゃない事がすぐに分かる。

「何故翔太さんの事を知っていたのか。それは……翔太さんが私の恩人だからです」

 突っ込みを入れたくなったが、琴羽の雰囲気が変わったので、俺は言葉を詰まらせてしまった。

「「気持ち悪い」「汚い」「死ね」……私を見た人は、大抵そんな事を言います」

「……は? 何言って――」

 琴羽は俺の言葉を無視して続ける。

「酷い時は本当に殺されかけました。……怖かった。苦しかった。悲しかった。私は生きていちゃいけないの? 何て良く思いました」

 聞いちゃいけない事を聞いてしまったか。今更ながら僅かに罪悪感が沸き出る。

「もういつ死んでも構わない。そう思いながら生活していました。そんな時です、翔太さんに出会ったのは」

「え? 俺?」

 急に自分の名前が出てきた事に驚いて聞き返してみる。琴羽は大きく頷いて話を戻す。

「初めてでしたよ。私にあんなにも優しく接してくれた人は。本当に……本当に嬉しかったです」

 琴羽は目を閉じ、感慨深そうに語る。

「この人の為に生きたい。この人の役に立ちたい。私は生きる希望を取り戻しました。……まあ、それからちょっとありまして、今に至ります」

 正直、信じられなかった。琴羽がそんな辛い生活を送っていた事も、俺が琴羽を救った事も。琴羽程の美少女が何故そんな酷い虐めにあっていたのか。初対面の筈の琴羽を、俺がいつどうやって救ったのか。

 まあまだ分からない事だらけだが、一つだけ、ハッキリ決めた。

「えっと、改めて。翔太だ。よろしく」

「はい!」

 俺と琴羽は互いの手を握りしめた。

 ……友達くらいなら良いよな。


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