新時代の到来 ~ ゆりかごから墓場まで ~
某国のある選挙立候補者の街頭演説。
「この国は、少子高齢化が進み、このままでは国として機能しなくなり、破綻するのが目に見えています。
今ここに、私は宣言します!
『親はなくとも子は育つ!子はなくとも老後は安泰!』
優秀な遺伝子を持つもの同志掛け合わせて、子供は生まれてからすぐ国が管理し育てるのです。
英才教育を受けさせて、優秀な人材を国家が作り出す。
そして、指導者として、研究者として、開発者としてこの国を引っ張っていく人材を国が作り出すのです。
今の自由意思による結婚、出産、育児のシステムはもう破綻しています。
優秀な人材は、世を憂い、子をなすことを恐れ、自身の人生を終えるだけに終始しています。
無知な人間は、貧困にあえぎ、手当を目当てに、子供を産み、さらに貧困と諦めの底で底辺の生活を送っています。
家族、家庭というシステムがもう古いのです。
家族・家庭のもたらす悲劇の多いことといったら。
虐待・介護・親族間での争い、相続・・・ あげたらきりがありません。
もう、家族というつながりをなくし、個の時代が来ているのです。
血のつながりを超えたつながりを個人が持つのです。
子供を産んでも、育てる義務はありません。老後も国が面倒をみます。
国がゆりかごから墓場まで面倒を見ます。
その代わり、個人としてフルに活動して、生きてください。
人生を楽しんでください。
税金は高くなりますが、自分自身の面倒を見るだけならなんとかなるでしょう!
女性の皆様には、子供を3人以上産んでいただきます。
産んでいただいた方には、報奨金を差し上げます。
産めない方は、子育てセンターでの勤務をしていただくことで報奨金を差し上げます。
遺伝子検査をさせていただきます。
優秀な人材の遺伝子をひきつぐ卵子と精子を受精させます。
残念ながら、遺伝子レベルで問題があった場合は、代理母として子供を産んでください。
精子の提供にいたらなかった場合でも、子育てセンターでの勤務をしていただくことで報奨金がでます。
男性も女性も育児や家庭に縛られることなく、自由なつながりの中で人生を謳歌し、人生を終えることができるのです。老後の面倒も国がしっかりみますから大丈夫です。
いかがですか!
素晴らしい時代の到来を感じませんか!」
某国の国民は、無責任で個人主義な人間が多く、この候補者の意見に賛同するものが多かった。
この候補者は、のちに総理大臣となり、国の政策を抜本的に改革を行った。
優秀な者が増え、一時国は繁栄したかのように思えたが、なぜか精神病にかかる者が急増した。
人間関係が希薄になるかと思いきや、個と個のつながりによる軋轢が増大していった。
我慢や忍耐といったものが培われる経験が少なくなったせいか、すぐに犯罪に走る人間が増えた。
人々の無責任さや軽薄さに拍車がかかり、国は豊富な人的資源を得るどころか、大きな負債としての賢いポンコツを大量にかかえた。
自殺者が増え、重度の精神病患者が蔓延する憂鬱な国へと変貌していった。
この説を唱え、改革を行ったものは、予想もしなかった展開を嘆き自殺した。
残ったのは、人としての正常な営みができない狂った人々とそれを生み出し続けるシステムだけだった。
この国は、このシステムに移行してから一世代も経たないうちに崩壊した。