6 思いがけない真相
「一段落がついたところで、これからの方針なんだけど――」
どこかホッとした様子のルナは、今後についての話を始める。
「まず、ユイトには予定通り、『地獄の森』で半年間修行してもらうね」
はい、先生質問です。
俺たちの目的の都合上、恐らく強いに越したことはないので、修行は当然必要だと思います。
魔法使いって、自分よりも明らかに格下と友達になろうとか思わないだろうから。
でも、なんでここなんですか? よりによってなんでここなんですか?
「……えっと、私の魔法の性質上、救世主であるユイトのサポートをしやすいように、比較的にユイトの考えていることは顔を見れば分かるけど、無言はやめて。すごく怖いから」
「じゃあ、声に出して言うけど、『地獄の森』はないだろ。てっとり早く強くなるには、強い相手と戦うってのは基本だけど、ここはダメだろ。いきなりラスボス級だぞ。さっきのオカマだって、不意打ちできたから逃げ切れたけど……マジ死ぬよ」
ルナは色々考えてるみたいだから、何か理由がありそうだけど……
いい加減、その理由を教えてほしい。
「ここを修行の場所に選んだ理由は二つ。まずは知っての通り、ここにいる人たちが強いから。そしてもう一つ……ここを選んだ最大の理由は、彼らが『九王』の力を知っていてなお、『九王』たちの目に余る行いをしてきたからだよ」
「……悪い、もう少し詳しく」
犯罪者だから、戦闘でケガをさせても構わない、という意味ではなさそうだな。
「つまりこの森にいる凶悪犯たちは、『九王』たちから粛清されるかもしれないという恐怖よりも、己の欲望を取った。言い換えれば単純な人たち」
「単純って言っても、その強さはある意味お墨付きだぞ。俺が勝てるなんて、とても……」
「大丈夫。ユイトは自分で思っている以上に強いから。肉体的にも精神的にも」
魔法の使えなかった俺は、知らず知らずのうちに心身を鍛えることを覚えていた。
しかし『加虐者』との戦いで、やはり俺は弱いと痛感させられた。
「魔法なしで約十年間生きてこられただけで、ユイトの危機回避能力とか生存能力はすごい高いと思う。だから、今は魔法もあるし、半年くらいなら生き残れる……そしてここで生きるということは、嫌でも強くなるということ」
ルナが十年間と言ったのは、人間は皆、五歳までには魔法使いとして覚醒するからだ。
そしてルナは続ける。ここからが本当に伝えたかったことだと言うかのように。
「魔法使いにとって、魔法は自分を映し出す鏡のようなモノ。その人の魔法をきとんと理解してあげることが、その人自身を理解することに繋がる。より早く多くの魔法使いと友達になるには、ユイトみたいな常に他人のことを考えてきた人でないと無理なんだよ」
常に他人のことを考えてきた。
……物は言いようだな。
俺は自分の身を守るために、他人のことを深く正確に知ろうとしてきた。
「つまり、この森にいる凶悪犯たちは単純だから、魔法の本質も分かりやすくて、今後の友達作りの良い練習になるってことか」
確かに、俺は『加虐者』の魔法をすぐ看破したが……
まったく、とんでもないことを考えるやつだな。ルナは。
まあ結局、生き残る策とかはないらしく……早く強くなれってか。
はいはい、頑張りますよ。こんな可愛い女の子に期待されてんだから、男としてやるしかないだろ。
どうせルナの力がないと『地獄の森』から脱出もできないし。
「それにしても、もし魔法の使えない落ちこぼれが存在しなかったら、一体どうするつもりだったんだよ」
一応決意が固まったところで、ふと俺はそんなことを言った。
今ではそれほど重要ではない、あくまで興味本位の質問だったが……
「ああ、それなら、大丈夫。ユイトが魔法を使えなくしたの、私だし」
…………ん?
「あの……ルナさん? 今、なんて言った?」
「いや、だから、ユイトが魔法を使えなかったのは、私の魔法……って、あ!」
「『あ』じゃないぞ、こらぁー! どういうことだ、きちんと説明しろ!」
「いや、その、これは……」
ルナは必死に俺と目を合わせないようにしてる。
「確かおまえの魔法は『世界を救う救世主を見つけ、手助けする』じゃなかったか、おい!」
「……『私が選んだ世界を救う救世主を、手助けする』みたいな?」
微妙に変わってるぞ、おい!
やっぱ、嘘ついてたな。
「って、ちょっと待て。俺が幼い頃に魔法使いとして覚醒しなかったのが、おまえの魔法のせいってことは……最低でも二十代くらい、いや、下手したら三十代以上ってことも全然……」
もしかしルナって、本当は相当年上?
「安心して、ユイト。私の身体は十四歳だよ」
可愛らしくウインクするルナ。
「おい、『身体は』ってことは心はおば――」
「ふふ、ユイト。私ってもう一生このままの姿なんだよ。ユイトの好みが変わらない限り」
え、何か目が怖い……
「ユイトが年下好きで、実は小柄な美少女に『お兄ちゃん大好き』って言われたい願望があることを知っている私に、そんな失礼なこと言っていいのかな? 未来の救世主が妹萌えって、世間の皆さんはどう思うのかな?」
なっ、なぜそんなことまで……
ルナの魔法恐るべし。
あ、いや、別にそんなこと言われたいと思ってねーし。
その後、なぜかルナに謝罪した俺は、一つ気になったことがあったので、訊ねる。
「ところで、ルナはどうして俺を選んだんだ?」
「……う~ん、内緒」
「いやいや、ルナのことだから、そこにもちゃんと理由があったんだろ。教えてくれよ」
俺は深々と頭を下げる。
だって、また大事なことだったのに、あとで知ったとか嫌だから。
「もう……仕方ないな。そこまで言うなら、教えてあげる」
ルナはやれやれと肩をすくめて言う。
「ユイトが彼の――私の恩人の実の息子だったからだよ」
「え、それって……」
俺は三歳の時に両親を亡くし、親戚の家で育った。
だから、正直本当の両親のことはほとんど覚えていない。
でも、ルナは俺の両親……少なくとも父さんを知っているのか。
「私を助けてくれたあの人の子供なら、きっと世界だって救える。そう思ったんだよ」
ルナのこの言葉には、もう少し続きがあることを、この時の俺はまだ知らない。