5 魔法使いという存在
「こ、ここまで来れば、大丈夫だよな」
軽く息を弾ませた俺は、呼吸を整えつつ言う。
「そうだね。他の凶悪犯に見つからないって保証はないけどね」
……はい、そうですね。
「まあ、それより、俺の魔法について教えてくれ。おまえなら何か知ってるんだろ?」
今のところ、ルナの手のひらで踊らされているみたいだし。
「いいよ」
悪びれる様子もなく頷いたルナは、少し長くなるけどと前置きしてから話し始める。
ルナの話はざっとこんな感じだ。
幼い頃に魔法使いになった人は、固定観念にとらわれる。自分の魔法とは、こういうモノだと。
ゆえに、己が無意識で定義付けた範囲でしか魔法を使えない。
それが魔法使いが一種類しか魔法を使えない原因らしい。
しかしながら、魔法に関して一切の固定観念を持っていない俺は、すべての人間の内に眠る魔力と呼ばれる力を、変質させることなくそのままの形で取り出せる。
これはとてもすごいことらしいが……
ありのままの魔力は、ただのエネルギーの塊に過ぎず、特殊な能力は一切秘めていない。
つまり、俺は炎を出すことも、風を操ることも、ルナのように定義の範囲内で色々な魔法が使えるわけでもない。
魔力という名の、エネルギーの塊を操る……つまりは無属性の攻撃ができるようになっただけ。
だが、ルナはこれこそが救世主に必要な魔法だと言う。
何にも染まらない無の魔法。
ゆえに、他の魔法と相性が良いということもないが、同時に相性が悪いことも決してない。
自分勝手な魔法使いたちに手を取り合わせる過程では、幾重もの戦いが待っているだろう。
そんな時、無属性の魔法を使える俺なら、きっと魔法使いたちの懸け橋になれる、と。
「ちなみに、私が考える『魔法使いたちが手を取り合う』方法としては、ユイトが世界中の魔法使いと友達になることだからね」
今まで真面目な話をしていたのに、急にルナが妙なことを言い出す。しかも、すごい真面目な顔で。
「え、どういうこと?」
「世界の危機が訪れた時に、ユイトが友達全員に言うの『助けて』って。ほら、そうすれば『友達の頼みごとを聞かないわけにはいかないな』って感じになって、世界中の人が共闘する、という――」
天然? 天然なの、この子?
「そんなんで自分勝手な魔法使いたちが協力するわけないだろ。冗談だよな?」
「私は本気だよ」
ルナの目は真剣そのものだった。
「確かに魔法使いたちは皆、自分勝手だよ。でもね、だからこそ、一度気に入った人、好きになった人のためなら、なんだってする。魔法使いってそういう生き物なんだよ」
俺より確実に魔法使い歴の長いルナの言葉。
正直、鵜呑みにするにはあまりにも幼稚な意見だと思った。
だが、言われてみれば、魔法使いってそういう傾向があるような……
小さい頃から、魔法使いを恐れていた俺。
だからこそ、彼らの行動を観察し、思考を想像してきた。自分を守るため。
……思い出すのは、彼らから受けた痛々しい過去ばかりではない。
彼らの義理堅い精神、大切な人のためなら自らの命も顧みない勇敢さ。
……そうか。こういうところもきちんと見てたから、俺は魔法使いに憧れていたんだな。
「分かったよ。世界中の魔法使いと友達になってやる」
俺がそう宣言するとルナは嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
その言葉もまた、俺にとっては随分久しぶりに掛けられた言葉だった。